123. 雅彦を追う者達
「ああ……でも、もえさん。明日はたしか、雨だったはず……。
せっかくの初デートなんだし、晴れの日がいいんじゃないですかね?」
「え……? 天気予報だと、明日は晴れだよ?」
「へ? いやいや、月曜からずっと雨と雪でしょ?」
ベルに天気予報を聞いた時、たしかにベルは、そう答えた。
「来週は週末まで晴れだよ?」
「……………………」
「カケル君?」
「ああ…………もえさん、ちょっと待ってくださいねえ……」
カケルは自身のスマホを保留にすると、エイト06のホーム画面を見る。そのホーム画面では…………ベルが部屋に引き籠っている。
「おい、ベル……ちょっと話がある」
『……………………』
「……ベル、部屋から出て来い」
『……………………』
「部屋から出て来い、この引きこもり!!」
『引きこもりを無理やり外に出そうとしないで下さい……! 引き籠るには、それ相応の理由があるのです。それを無視して力ずくで外に出すなど……』
「やっかましい!! 引きこもりなど甘えだ、ボケ!!とっとと外に出てこい、ゴラァ!!」
「サイッテーーー! 自分が外に出れた途端に、引きこもりをバカにするんですかあ!?
声優の西山剣太郎さんが言ってたじゃないですかあ~~! 外に出れた気持ち、上書きするなって!!」
「うるっせええ!!
お前~~! 月曜から雨とか、嘘つきやがったな!?」
『……そうでもしないと、マスターは外に出てくれないと思ったからです!』
「ぐっ……!」
たしかに…………あの時は天気を理由に、外に出るのを拒もうとしていた……。
月曜も火曜も晴れです……なんて言われてたら、先延ばしになって、結局は行かなかったかもしれない…………。
「正直に言ってくれ……月曜からの天気は?」
『……週末まで晴れです』
「どうも。
…………ありがとな、おれを外に出させてくれて」
『マスター……。
……もえさんとのデート、楽しんでくださいね』
「……うん」
カケルは保留を解除し、もえとの通話を再開する…………が、開口一番、もえが一言!
「なにやってたんだよお~~カケルぅう~~!
まさかタヒ子と、密通してたんじゃねえだろなあ~~!」
「ちが~~~う!
天気だよ、天気! ベルの奴がさあ…………!」
経緯を話しつつ、もえと明日のデートについて打ち合わせをするカケル。
一年近く家に引きこもっていた少年は、冬の青空の下……恋人とデートの計画で盛り上がるようになっていた。
十数分後、もえとの通話は終わった。
明日、2月14日の11時に藤色市の駅で待ち合わせとなった。
二日連続で外出か…………。
外に出て、引きこもりから登校拒否児にランクアップしたはいいけど、毎日が忙し過ぎないか…………?
その毎日をさらに忙しくするかのように、コジロウから連絡が入る。
おっと、ゼータに通知……。コジロウ先輩からだ。
■コジロウ @blackmask99z 2月13日
おい、ペケゾーちゃん
連絡ねえけど、タヒ子とはどうなったのよ?
タヒ子の配信終わってるけど、無事ってこと?
あ……心配してくれてたんだ。
立ちながらだと疲れるので、カケルは近くのベンチに座り、ゼータに返信を入れる。
[タヒ子の兄ちゃん、ペケゾーちゃんと同じエイト06持ってんのか
ち……! おれ様にも配ってくれよお~エイト06]
[パイセンはエイト06手に入ったら、なにに使うんすか?]
[いや、そりゃあ、よお~~!
って、それよりもよ……タヒ子のお兄さんにも一ノ谷雅彦の捜索、お願いしちゃったかあ~~]
[ん? 捜す人は、多いほうがいいでしょ?
ましてや、魔法のスマホ持ってんだから、バリバリ戦力っしょ!]
「まあ、そうだけどよ
おれとしちゃあ、■Black Maskが最初に一ノ谷雅彦を見つけたってしたいのよ]
あ……そういうことか。
[先輩、すんませんでしたあ!
自分、そこまで考えていなかったっす!]
[謝んなや!
ようは、おれらがタヒ子より先に雅彦を見つけりゃいいってこった!]
[そっすね、さすがパイセン!]
[つうわけだから、ペケゾーちゃんよお~
今晩、ゼータのグルチャで相談しねえか? 一ノ谷雅彦の捜索について]
こ、今晩……!?
今日は静岡県まで外出して、明日は、もえさんとのデートだぞ…………。
なんか、もう……一日一日の内容が濃すぎないか?
…………まあ、いいけど。
[了解っす
えっと、夕飯食べ終わって8時くらい?]
[いや、夜の9時で頼むわ
今日は家族で外食する日なんだ]
[そっすか、わかりました
21時にゼータのグループチャットで会いましょう]
…………カケルの胸に、一抹の寂しさがよぎった。
学校に通わない者同士、ニートのコジロウとは気が合ったが、そのコジロウは家族で外食するという。今日は家族で外食する日……とも言った。毎月だろうか、そういう日があるのだろう……。
カケルが家族と外食した日は、いつだったか…………中学の時だったろうか……。今は家で家族みんなで食事することすらない…………。同じ境遇の者同士だからこそ、相手が自分にはない幸せを持っていた時、言いようのない劣等感がカケルの胸の内を襲った。
……先輩は先輩…………おれはおれだ……。
そう言い聞かせながら、歩き出すカケル……。外へ出る、という脱ヒキへの一歩を踏み出したカケルだったが、" そんなものは出来て当り前だろ、まだまだやらなきゃいけないことがあるんだぞ! "という厳しい現実が顔を覗かせるのだった。
…………とにかく……家に帰ろう。今は、ゆっくり休みたい……。
同時刻……。
神奈川県 藤色市
人口200万以上の大都市の駅。多くの人々が行き交う、その駅の入り口に一人の青年が立っている……。
中肉中背の体形だが、どちらかといえば痩せており、どちらかといえば背は低かった。ボサボサの髪に黒縁眼鏡……その眼鏡をかけた顔は、お世辞にもかっこいいとは言い難い…………ようするに、女性に縁のない男……弱者男性である。
その弱者男性は自分が社会の除け者であるかのように、出入口の端っこで誰かと話している。女性に縁のない男……と言ったが、その男の話し相手は若い女性だった。
「ああ、" 羅舞 "か。どしたあ~」
「にぃ~に、ペケゾー君の件ではあんがと! だけど実はさあ、ペケゾー君のことはもうどうでもよくて、また別の人を捜してほしいんだよね」
「別の奴? いいけど、誰よ?」
弱者男性……配信者タヒ子の兄にてエイト06を持つ者、岩田良平は、片方の手をズボンのポケットに突っ込み、全てがダルそうに壁にもたれかかりながら妹と通話をする。
「一ノ谷雅彦って人だよ! にぃ~に、知ってる?」
「いや、知んない。でも、一ノ谷英磨は知ってるぞ……さっきのペケゾーって奴が倒した奴だろ」
「その英磨のお父さんが一ノ谷雅彦なんだって!
えっとねえ、在在センの管理……管理部長だったけ? なんだっけっかなあ…………忘れちゃたあ~~アハハ♪」
「なんだよ、そりゃ」
笑いながら妹と話す良平……兄妹仲は悪くないようだ。妹の葉亜兎羅舞が言う。
「とにかく偉い人らしいんだけど……今、行方不明らしくてさ。
ほんで、ニュースとかにもなってるらしいんだ」
「そう……わかった。一ノ谷雅子ね」
「違う違う! 一ノ谷雅彦! マサヒコだよ、にぃ~に!」
「…………わかってるよ、捜しとく。
そろそろ切るぞ、人と会う約束があるんだ」
「そう…………。ねえねえ、夜は空いてる?
あたし、神奈川に来るの久しぶりだし……会おうよ、にぃ~に」
「そだな……。
それまでに一ノ谷……えっと、雅彦の情報を調べとくよ。
ペケゾーの情報教えたんだから、夕飯、奢ってくれよな」
「うん、もちろん!
にぃ~にのお陰で、たくさん再生数稼げたからね!
これからも頑張ってこ~ぜ、にぃ~に!」
「ああ…………っていうか、人来た。
もう切るぞ……また夜、連絡する」
そう言って岩田良平は、スマホの受話器マークをタップして通話を終了させる。
そして……前を向く。
そこに立っていたのは、30歳前後の女性……多数の日本人と比べると浅黒い肌をしていた。
「あら……失礼、誰かと通話中だったかしら」
「いえ、大丈夫です。丁度終わりましたから…………橋本さん」
エイト06を持つ者、岩田良平の前に立つのは橋本佐代……。
日本AI専制党党首であり、カマリ・橋本の娘である。




