122. 一ノ谷雅彦を捜せ!
「い、一ノ谷雅彦……!!
…………って誰?」
ズコッ……!
カケルは軽くずっこける。
おいおい、マジか。
「えっとお……一ノ谷発言って知らない?」
「ああ…………ちょっと前、ゼータのトレンドに上がってたやつかな」
「そう、それ!
っていうか、雅彦さんはあれだぞ……おれ達ブラックマスクが倒した一ノ谷家の人。一ノ谷英磨のお父さんだよ」
「ええ、そうなの!?」
「そうだよ、そしてさっきも言ったように、在在センの偉い人。だけど今年の1月から行方不明になってる……ニュースにもなってるぞ。
そんな人を見事見つけられたら、再生数なんて天井知らずだろ!」
「そ、そうだけど………!
でも……1月から行方不明ってことは、警察でも見つけられないんでしょう? む、無理だよ……それ見つけるのって」
「普通はね……でもあなたのお兄さんは、エイト06……魔法のスマホを持っている。おれや磯貝さんの住所を捜せたみたいに、雅彦さんの居場所も捜せるんじゃないか?」
「あ……ああああああぁあ!! たしかに! ペケゾー君、それグッドアイデア!!」
タヒ子はカケルを力強く指差し答える。
「で……おれも探すよ、一ノ谷雅彦さん。実はブラマスのメンバーからも頼まれてたんだよね……。
最強のハッカー集団、ブラックマスクにお兄さんのエイト06……それとおれのエイト06が加われば、きっと見つけ出せるよ!」
そう言ってカケルは、手に持った自身のエイト06をタヒ子に見せる。
「おおおおおお……! 盛り上がってキターーーーーー!!
………………乳首が!」
「なに言ってんだ、お前は!!」
唾が飛ぶかって勢いでツッコミを入れるカケル……。
「あ、いや……配信が盛り上がってる時に、これ言うと笑い取れるんで…………配信の時の、お約束ってやつかなあ~~アハハ♪」
「……たくもう!」
「でも最近マンネリ化してきたんでえ~~、
" 盛り上がってキターーーーーー!! …………クリ〇リスが! "
に、しようと思ってるんだけど、どうかな?」
「死ね!!!」
「酷い!」
「酷いのは、お前のギャグだ!!! 恥を知れ!!」
「恥ずかしがってたら、再生数稼げません!!」
「こいつはほんと…………!
まあ、いい……配信のネタ、提供してやったんだからな。もうおれに、付きまとわないでくれよ。
ああ、でも……雅彦さんに関する情報が掴めたのなら、それは連絡してほしいな。おれも情報掴めたなら、教えるからさ」
「うん、わかった。
……っていうか、ペケゾー君が持ってる魔法のスマホって、黒色なんだね。にぃ~にのは、白だった」
「…………そう。まあ、色なんて何種類もあるでしょ」
……カケルは、なにかを感じとった。
違和感…………。
あれ? と思った……。しかし、口には出さない。
「あ……じゃあ、あたし帰るね。
ごめんね、ペケゾー君……あたしが自分勝手な行動して、いろいろ迷惑かけちゃって……」
そう言うとタヒ子は腰を90度に曲げて、カケルに頭を下げた。
礼儀正しいんだな……。親は酷い人、みたいに言ってたけど…………タヒ子さん自身は、真っ当に生きようとしてるのかな……。
……受け子のバイトで逮捕歴あるけど…………。
「い、いいよ……そんな礼儀正しくしなくても…………。
じ、じゃあね……配信業、頑張ってください!」
そう言ってカケルは、タヒ子に手を振り、蛍池公園から離れる……。タヒ子もまた、いずこかへと歩き出して行った。
…………カケルは家路へと急いでいた。
足早に歩くカケルの頭に浮かぶのは、数分前にタヒ子と交わした会話……。
" ペケゾー君が持ってる魔法のスマホって、黒色なんだね。にぃ~にのは、白だった "
……続いて思い出す…………一ノ谷家とのレスバの最後に、一ノ谷十三が言ったセリフ。
" 黒いスマホということは貴様、叡智防壁群か "
おれが持っているエイト06……。これは叡智防壁群のだから、黒なのか……?
それでは、白色のエイト06を持っている岩田良平は、叡智防壁群ではない…………じゃあ、なんだ?
…………答えはわかってるはずだ……。
叡智防壁群とは、対極の位置にいる存在…………
AI専制派
…………世界最高の人工知能yaoyorozのもと、平等の世界を築こうとしている集団……。カマリさんはそれを" 脅威 "と位置付けたが、なにが脅威なのかはわからない…………。
黒スマホを持たされたおれは、叡智防壁群とやらのために働かないといけないのか……? いや、ぶっちゃけAI専制派になりたいんだけどな……おれ。
…………まあ、いい。
この" 二つ "の対立は好きにやれって感じだ。今はコジロウ先輩から頼まれた、一ノ谷雅彦捜しに集中しよう。
ヴウウーーーン!
カケルのスマホが鳴る。発信者はカケルの彼女、翡翠もえ。カケルは歩きながら、電話に出る。電話口からは、愛しい彼女からの声……。
カケルは磯貝寿美子と仲直りしたあと、もえに、その一部顛末をゼータにて送っている。
「カケル君、ちゃんと外に出れて謝れたんだね!
凄い! 磯貝さんと一緒に昼食なんてとっちゃってさ……。いいなあ~、わたしもカケル君と一緒にご飯食べたいなあ~」
「この前、おれの部屋に遊びに来た時、一緒にお昼食べたじゃん」
……そのあと、べろちゅうされたんだよな……。
「そうだけどさ…………っていうか、カケル君……大丈夫だった?」
「え、なにが……?」
「磯貝さんの情報とか流してた、配信者のタヒ子さん……カケル君の家に凸、とか配信してたみたいだけど大丈夫?」
「あ、知ってたんだ……」
「磯貝さんのことを話してくれた時に、タヒ子さんのことも教えてくれたじゃん。なぜかカケル君の電話番号まで知ってたって……。
だから、そのタヒ子って配信者のことが気になってさ……カケル君のこと、誘惑してねえだろうなあ……と思って、チャンネル登録してた」
「そ、そう…………いや、実は……」
「え……!? カケル君、まさか…………」
「……誘惑というか、キスされそうになった…………おれとのべろちゅう動画撮って、おれを脅迫する気だったらしい」
カケルは、つい先ほどの出来事を正直に伝える……。それに対しての、もえの返事。
「えええ!? べろちゅう動画撮って脅すとか、そんな酷いことをする女性がいるの!?」
「………………………………はい」
「相手の唇を無理やり奪うとか、それ、犯罪だよね!?」
「………………………………はい」
「そんな犯罪行為をしたうえに、それをネタに相手を脅すとか最低過ぎない!!?」
「………………………………思います」
カケルは苦虫を百万回噛み潰したような顔をしながら答える……。
「で、カケル君……ほんとにキスしてないよね!?」
「も、もちろん! 全力で拒否しました!!」
「……ならいいけど。
もし、してたら、べろちゅう動画上げてヒキ板から追放させるからね!」
「も、もえさん以外とはしないので、それだけは勘弁してください!」……脅すな!!
「うんうん、もえちゃんに一途なカケル君は大好きだぞ!」
「ど、どうも……」
「じゃあさ、明日デートしよ」
「へ……?」
「いや、へじゃなくてさ……明日バレンタインデーでしょ。
カケル君との初デートがバレンタインの日とか、最高じゃん!」
「い、いや……もえさん。
おれ、今日やっと外に出れたわけで、その…………二日連続で外に出るのは……」
「べろちゅう」
ぐっ……! てめ、このっ……!!!
危うく声に出しそうになるが、そこはグッと堪えるカケルであった……。




