120. 残念美人、タヒ子
「確認させて……! 君、ペケゾー君だよね?
神楽坂カケル君」
「…………そうだよ。
そういうあなたは、岩田葉亜兎羅舞さん……ですよね!?」
「あ……やっぱ、あたしの本名知ってんだ。恥ずかしいなあ~~アハハ。
っていうかさ……神楽坂君、ロン毛なんだねえ~。" にぃ~に "から貰った写真だと、もっと髪の毛短いんだけどなあ」
……在在センに登録されている、おれの写真を見たんだろうな。
在在センには本人の容姿登録として、学校卒業時の写真や運転免許証、マイナンバーカードの写真などが自動で記録されるみたいだし……タヒ子が見たのはおそらく、おれの中学卒業時の写真だろう……。
「……人の髪型なんて、どうだっていいだろ。それより、なんの用だよ」
身体中から警戒心というオーラを出しまくるカケルだが、タヒ子はそんなカケルのオーラなどまったく意に介さずに、満面の笑みで話しかける。
「一ノ谷家をぶっ潰した、ブラックマスクのペケゾー君のインタビュー動画を撮りたいんです! だから……」
「お断りします!」
「なんでーーー!! ネットのヒーローになれるよ!?」
「別にヒーローになんか、なりたくないし……! そもそもおれ、ブラマスのメンバーじゃねえし!」
「え、そうなの?」
「そうだよ! おれはハッカーじゃないし……ハッカー集団、ブラックマスクのメンバーでもない。一ノ谷家の件は、ブラマスメンバーから誘われただけ」
「テレビ見ると、ペケゾー君がブラックマスクのリーダーみたいになってるけど?」
「まったく、マスコミはよお~~!
一ノ谷家の件でのリーダーは、美月さんだよ……って、ちょっと待て! 今のナシ!!」
「ペケゾー君待って! 録音するから!!
美月さんって誰!? 新キャラ登場だあ~~!」
「配信しないって約束でしょ!!」
「配信じゃなくて、録音! 動画だよ!
ちゃんとペケゾー君の許可取ってから、ネットに上げるからさあ~~。いいでしょ?」
「だめーーーーー!!!」
「ぶう~~~!! なんでよおお~~~~!」
「そりゃ、こっちのセリフだ! なんでおれに付きまとうんだよ!」
「ううぅ~~……だってさ、再生数稼げるんだもん。ペケゾー君って、今話題の人だし……。
この間の磯貝さんの動画も、一日待たずに10万再生いったしさ…………美味しいです!」
……人を食い物にするな。
「は、配信者の事情は知りませんけど……おれにもプライバシーってもんがあります!
勝手に撮られたくありません!」
「だから、許可取るんで……!」
「い、いや……許可なんかさせません! はっきり言って、その……め、迷惑です! やめてください」
「…………再生数稼げないと、あたしの収入が減るんです……」
「いや、知らんわ、そんなの!!」
ジト目でカケルを睨むタヒ子に、漫才師のボケ役の如く返すカケル。それに対してタヒ子が再び口を開く。
「登録者数10万未満の雑魚配信者は、再生数稼ぐのに必死なんです!! そこんとこ、わかって下さい、皆の衆!!」
「皆の衆ってなんだよ! おれ一人しかいないだろ!」
「配信してる時の癖なんですぅう~!!
ペケゾー君、ほんとお願い! 9分だけでいいから……!」
「……なんだよ、その中途半端な数字」
「8分以上の動画だと、動画の途中に広告入れられるから、収益が増えるんです」
「……知るかよ、もう。
とにかく……! もう付きまとうのは止めてください!
それでも付きまとうなら……タヒ子さんがオレオレ詐欺の受け子で逮捕されたこと、ばらしますよ?」
「ああ……いや、それ…………みんな知ってるし」
「……は!?」
「いや、" 受け子のバイトで捕まったことあるけど質問ある? "ってタイトルで配信したらさ…………めっちゃ受けてさあ~~♪ 同接5000人までいったんだよね!
いやあ~~あん時は気持ち良かったなあ…………受け子のバイトして良かった~~って初めて思いました」
「思うな、アホ!!!」
「アホとか、やめて下さい! 一応わたしのほうが年上です!」
「受け子のバイトする奴なんて、アホに決まってんだろ!!」
「ううぅ……彼氏に言われて、仕方なく行っただけだもん。断ると殴るから……」
「…………別れなよ」
「別れたよ……というか、少年院から出たら彼氏、刑務所に入ってた」
しょうもない…………顔は美人なのになあ……中身が残念過ぎるだろ。
「タヒ子さん、美人なんだから顔出し配信すればいいんじゃないですか?
そうすれば登録者数、絶対増えますよ。逮捕歴あるから顔出ししないのかと思ってましたけど、公表してるんだったら、別にいいんじゃないですか」
「ああ、それはダメ! 絶対!」
「……なんで?」
「ウチの親、毒親なんだよ……あたしが金持ってるって知ったら、絶対タカリに来るもん! 子供の時のお年玉も全部取られたし…………。
ペケゾー君の親ってお医者さんでしょ? いいなあ……親ガチャ成功の勝ち組は……。ウチの父親なんて廃品回収屋だよ、それも無許可でやってたって最近知った」
……なにが親ガチャ成功だよ、クソ!
たしかに親は金持ってるけど、だからといってガチャ成功じゃねえし…………! こっちだって……こっちだっていろいろあるんだ。
「あれえ~~ペケゾー君、なんか機嫌悪そう……」
「……おれの機嫌なんて、どうでもいいじゃないですか。もう帰ります……!」
歩き出すカケル…………。家に帰りたいが、その方向にはタヒ子がいるので、仕方なく反対方向に向かって歩き出す……。
「ま、待って! ペケゾー君!」
タヒ子が呼び止めるが、カケルは歩くのを止めない。タヒ子は、そんなカケルの腕を掴んで歩みを止めさせるが、カケルはそれを振りほどこうとする。
「や、止めてください! おれ……動画なんて出ないです!」
「わ、わかった……! インタビューは、もういいよ…………ただ、最後に一個だけお願い聞いて!」
「…………なんですか?」
カケルは歩みを止める……不審に思いながらも底辺動画配信者タヒ子のお願いに、とりあえず耳を傾けた。




