119. エイト06を持つ者
真っ昼間の蒼町。
引きこもり……だったカケルは、冬の晴天の下、立ち尽くしている。
エイト06……在在センにアクセスできる魔法のスマホ……。
蛍池公園でカマリ・橋本さんと会った時、カマリさんはそれを、50人の日本人、ならびに日本在住の外国人に配った……と言った。
岩田良平……おれと同じく、カマリさんから魔法のスマホを譲り受けたのか…………?
「……ペケゾー君、駅から離れてるから、もう家の近所に居るはずなんだけどなあ~」
配信画面から、タヒ子の声が漏れる。慌てて画面を見るカケル。そこには地縄が張られた空き地が映っている。もともとは酒屋だったが去年の暮れに解体され、空き地になった場所だ。
げっ……! 近くまで来てんじゃねえか……やばい!!
カケルは再び走り出す…………。
ほ……蛍池公園まで行こう!
カケルは、まるでクリーチャーに追われるホラーゲームの主人公のように逃げる……!
逃げながらスマホに電話番号を打ち込む! ただし、今度は自身のスマホではなくエイト06から、かけた。
……自分のスマホにかかってきた、知らない電話番号には出たくないだろう。だけど……エイト06にかかってきたなら、どうだ!?
在在センにもアクセスできる魔法のスマホ……そこに迷惑電話がかかってきたことは今まで一度もない。かかってきたのは、おれにエイト06を渡したカマリさんからの電話だけ……おそらく、岩田良平のエイト06も同じだろう。ベルが教えてくれた岩田良平のエイト06の電話番号は……
8+62●26△699
8+6から始まる電話番号なんて聞いたことがない。
おれのエイト06も、岩田良平のエイト06と同様、8+6から始まっているはず……。
魔法のスマホに、存在しない電話番号から着信があった…………
さあ、どうする!?
恐い、不気味……! と思うと同時に、確認したくなるのが人の心理ではないか…………?
…………少なくとも、おれは……出る。
2月の空は晴れていた。空気は冷たかったが、陽射しは眩しかった……。
" クリーチャータヒ子 "から全速力で逃げてきたカケルは軽く汗をかきながら、昼間の蛍池公園に着いた。
と同時に、かけていたスマホから相手の声が届く!
「も……もしもし?」
きた!! エイト06を持つ者、岩田良平!
予想に反して、弱弱しい声……どこか覇気がない。
「……岩田良平さん?」
「…………そうです。あなたは……?」
「……魔法使いのペケゾーです」
「………………!」
はっきりした声は聞こえない……しかし! 電話向こうの相手が動揺しているのは、息遣いでわかった。
「あなた……妹の葉亜兎羅舞さんに、在在センに登録してある、おれの写真を送りましたよね?」
「あ…………えっとお……」
歯切れの悪い返事……。相手が強く出てこないとわかったからか、カケルは、はっきりと用件を伝える。
「今後、二度とおれの情報を妹さん……配信者のタヒ子さんに教えないでもらえませんか?」
「ああ……それはあ…………」
電話口の向こうで、エイト06を持つ者、岩田良平が言葉を詰まらせる……。
なんだよ……はっきりしない奴だなあ~~引きこもりかよ、もう! イライラする。
などとカケルが一人、自虐ギャグを心の中で呟いていると、背後に人の気配を感じた。
カケルが振り向こうかと思った、その時…………。
「あああああ! ひょっとして……ペケゾー君!?」
ここに来るまでに、配信で何度も聞いた声……タヒ子の声だ! カケルは間一髪、振り向く動作を止める! そんな中…………。
「あああああ! ひょっとして……ペケゾー君!?」
エイト06ではない、カケル自身のスマホ……そこにはタヒ子の配信が再生されていたわけだが、そこから先ほどと同じ、タヒ子の声が漏れた。
「あ、それ……あたしの配信だよね!? あたしの配信見てくれてるってことは、やっぱ君、ペケゾー君?」
…………くっそお……!
タヒ子の声が、カケルのスマホからオウム返しの如く再生される……。
「た……タヒ子さん、配信を切って下さい!」
「いや、それはちょっとお~~~」
「いや、切れって!!」
カケルは思わず、声を荒げる……と
「あ……はい。ごめんなさい……切ります」…………ガチャ!
「へ…………?」
エイト06からかけていた岩田良平との通話が切れた……。
おめえじゃねえよ!! おい、こら! 勝手に切んな!! どんだけ気が弱いんだよ…………。
勝手にヤンキー兄さんを想像していたカケルは呆れと怒りで、なんとも言えない顔をする……が、そんな顔はタヒ子には見えない。
「ペケゾー君、お願い! インタビューさせてもらえないかな? 顔は絶対に映さないから、お願い!!」
じ……冗談じゃない! 仮にお前が顔を映さなくても、アクシデントで映っちゃったら、どうすんだ……!
" 魚拓 "とられて、あっという間に拡散されて終わりだ…………。
「は、配信を切ってください!! 切らないなら、こっちにも考えがあります……! あなたに情報を提供してる、Xって人…………それはあなたのお兄さんですよね?」
「……あ」
「そのお兄さんが持ってるスマホは、エイト06……在在センにアクセスできる魔法のスマホ! それをおれも持っています……。この意味、わかりますか? おれもお兄さんと同じように在在センにアクセスできる……! あなたの情報も持ってこれるんです…………岩田さん!」
「ああああああ、わかった! わかりました!!
配信切るんで、それ以上ばらすのは止めてくださあーーーい!!」
……カケルはタヒ子の配信画面を見る…………画面に映っているのは、配信終了の文字。
ようやくカケルは、後ろに振り向いた……。そこに居たのはGパンにスカジャンを着て、手にはスマホ……そのスマホには手ブレ防止のスマホジンバルを握っている配信者タヒ子。頭にはニット帽を被っている。
…………どう反応していいのかわからず、無言のままタヒ子こと、岩田葉亜兎羅舞の顔を見るカケル。目鼻立ちの整った顔……ひょっとしたら異国の血も混じってるのだろうか…………。美人、と言っていいだろう……タヒ子の顔。しかし…………配信と在在センからのデータを見る限り、こいつは……中身ダメダメの残念美人であった。
冬の晴天の下、無言で対峙する二人…………先に口を開いたのは、タヒ子だった。




