118. 情報提供者X
……昨日の配信でも、そうだった。
こいつ、タヒ子は……おれの個人情報を正確に知っていた。おれのスマホに電話をかけてきた……。
いや、おれだけじゃない! 今日謝罪しに行った磯貝寿美子さんの名前も、電話番号も知っていた……!
……なんで!!?
誰だよ、情報提供者って!!
その提供者は、なんでおれや磯貝さん……いや、ミツボシ電機の富田さんのことも知ってたな。多分、他のレスバ相手の情報も知ってるんだろうな…………。
だから、なんで!!
カケルの抱く疑問などお構いなしに、誰かと通話していたタヒ子が、痛恨の一撃ともいえる言葉を発する。
「あら……ペケゾー君、もう神奈川県に戻ってるみたい。
もう家の前あたりに来てるみたいだけど……散歩配信がてら、捜しに行こっかなあ~~」
な……!!
ふ……ふざけんな、おい!!
カケルは思わず走り出す……! 目的地などない。とにかく、この場所……タヒ子の近くから離れたかった!
「あれ……? 神楽坂君?」
急に声をかけられ、振り返る……。
そこに居たのは…………髪の毛ボサボサの中年男性、志村武則だった。昔……カケルが中学生だった頃に、バカにしてしまった相手。
「あ、えっと……ご、ごめんなさい!」
「……え?」
過去を思い出し、反射的に謝ってしまうカケル……。一方の志村は、カケルの過去の行いなどすっかり忘れており、この子はなにを言っているのだ……と不思議そうな表情を浮かべる。
そんな中、カケルのスマホからタヒ子の音声が流れる。
「じゃ、ちょっとね……辺りうろついて、ペケゾー君を捜したいと思いまあ~~す」
「え、なに……?」
状況が理解できない状態で、志村が問いかけるが…………
「ちがっ……! 違うんですよ、違うんです!」
カケルは言い訳にならない言い訳を発し、文字通り逃げるように、その場を去る。せっかく外に出ることに抵抗が薄らいだと思ったら、これである……。
ちくしょお……ちっくしょおーーー!!
どうなってる……なにがどうなってる!? タヒ子……いや、タヒ子におれの情報を流してる奴は、なんでおれのことが手に取るようにわかるんだ!?
カケルは泣きそうな顔で、スマホの配信画面を見る。神楽坂家周辺の風景が映し出されており、コメント欄が数十秒ごとに流れる。噂の魔法使いペケゾーへの凸は、視聴者の関心をおおいに掴んだようだ。
[ペケゾーに凸るなら、ちゃんと許可取ってから動画回せよ]
[つうかよ、タヒ子お前、ペケゾーの顔わかんの?]
「ああ……そうだった! あはは~~あたし、ペケゾー君の顔知らないや♪
えっと、どうしよ…………」
[どうしようじゃねえよwwアホかw]
[さすが中卒ww顔知らねえのに、どうやって凸る気だったんだwww]
「ちょっと待って……ちょっと待てって、お前ら。
今、情報提供者のXさんに聞いてみるから!」
じ……情報提供者のXさんって誰だよ、おい!!
カケルの疑問と焦りをよそに、タヒ子は電話をかけ始める。それを見ていたカケルは…………。
あ、待てこれ……! チャンスだろ!
今は惨めな引きこもりだが、カケルは私立の蒼高校を2位の成績で受かったのだ。もともと頭の回転は良い。なにかを閃いたカケルはエイト06を取り出し、ベルに指示を出す。
「ベル! タヒ子……岩田葉亜兎羅舞の通話履歴を調べろ!
今現在通話してる奴は誰だ? そいつの名前と電話番号!」
返答をしたベルは、ただちに在在センにアクセスし、情報を持ってくる!
岩田良平
電話番号 09×1▽76□602
…………ん? 岩田……?
「おい、ベル……岩田良平の家族構成を調べてくれ。
岩田良平とタヒ子って、ひょっとして……兄弟じゃないのか?」
『……はい、そのようです。
岩田良平が兄で、岩田葉亜兎羅舞は妹です』
……そういうことか。
……………………さて……。
カケルは立ち止まる……立ち止まりながら、エイト06に映し出された良平の電話番号を見つめる。
カケルはタヒ子がいう情報提供者のXに電話をしようと思っていた……なぜ自分の個人情報をタヒ子に渡すのかと。
だけど…………どんな人なんだ。
タヒ子は見た目だけならヤンキーそのものだった。高校時代にはオレオレ詐欺の受け子(正確には未遂)をやって逮捕もされている。
その兄貴か…………やっぱ、ヤンキー? やだぞ……文句言ったら、百倍文句言ってくる奴は…………。いや、文句だけならまだいい……自宅に殴り込んでこられでもしたら、たまったもんじゃない!!
…………どうする?
「Xさんから、ペケゾー君の写真きたんで、これを頼りに探しまあ~~す!」
無情にも配信画面から流れ出る、タヒ子の声。
ふ……ふっざけんな!! なにが写真だ、ごらぁ!!!
カケルは衝動的と言っていい動作で、自身のスマホに岩田良平の電話番号を打つ……!
くっそ……! 次から次へと、おれの情報流しやがって~~!
…………おれがレスバで相手の個人情報晒した時って、相手はこんな気持ちだったのかな……。
………………………………ん?
……待てよ、おい…………
まさか…………。
良平に電話をかけているカケルのスマホには、呼び出し音が鳴り響いている。
まさか……まさか、こいつ…………!
呼び出し音を聞きながら、カケルの頭には、最悪の事態が想像される……!
呼び出し音は鳴り響いたまま……出る気配はない。
…………知らない番号からの着信は出ない人か? まあ、おれもそうだけど……。
カケルは発信を切る…………。
「ベル、タヒ子のスマホの受信履歴を調べてくれ。
たった今、画像ファイルを受信したはずだ……そしてそのファイルは、スマホから送られてきてるはず…………。
画像ファイルを送ったスマホの機種と電話番号を教えろ」
『はい、たしかにスマホから画像データを受信しています!
それを送ったスマホの番号は、8+62●26△699。
使ってる機種は…………』
『8e+6』
通称エイト06……! 神となったヤオヨロズと交信できるスマホ!
やはりいた……!! おれ以外でも、それを持っている人物!!




