プロローグ編019/押しかけ幼妻?【池原 千寿(いけはら ちじゅ)】
「はい、貴方、あーんして」
押しかけ幼妻?の【池原 千寿】はすっかり、【丑与果】の女房気取りだった。
【丑与果】は、
「【千寿殿】、わりっちは自分で食べられるので・・・」
と言うが、
「駄目よ。
これは夫婦の通過儀礼なの。
だからあーんして、
あーん。
食べさせ合いっこしましょ。
次は私にやってもらうから」
とぐいぐい迫る。
そもそもの話になるが、彼女は何で、行き倒れて居て、強盗紛いの事をしていたのか?
そして、彼女はどんな【異能】を使っていたのか?
それを説明せねばなるまい。
まずは、彼女は【池原家】の家を第三者に乗っ取られている。
そのため、彼女は、幼い身で、辺境に置き去りにされていたのだ。
それで空腹に耐えかね、追い剥ぎの様な真似をした最初の1人が、【丑与果】だったのだ。
彼が居なければ、彼女は幼くして犯罪者の仲間入りをする所だったのだ。
だから、生涯1人に尽くすと決めていた彼女に取って、不意に唇を奪われた事は驚いたが、感謝もしていた。
犯罪者にならずに済んだ。
その事が大きいのだ。
だから、彼女の中で、この人と添い遂げよう。
その気持ちが一瞬にして強くなった。
ほぼほぼ、一目惚れに近い状態になったのだ。
また、彼女が、【追い剥ぎ】をするのに使った【異能】が彼女の家に伝わる一子相伝の秘術、【存現化粧術】だ。
これは、【物体】に【化粧】をする事で、その物体の一部をまるで生きている【人間】を初めとする様々な【存在】として【顕現】させる事が出来ると言う力になる。
ただ、空腹のため、大した術が使えず、脅しには使えない【存在】が中途半端に出来たため、それを木陰に隠して、
『ここを通りたければ金目の物を置いていきなさい』
としゃべらせたのだ。
だが、体力も限界だったため、途中で術が解け、
『じゃあ、その【異能】とやらで私に食べ物・・・を・・・』
と言う感じに言葉が途中で途切れたのだ。
結果として、【丑与果】はその作り出した物を見ることが叶わなかったと言う訳だ。
そして、これは【女性】にのみ引き継がれる術であり、親の代では父親しか居なかったため、【千寿】は【祖母】からの【隔世伝承】となっている。
その【祖母】も既に他界し、父と母と病弱な姉と彼女の4名で細々と暮らしていた。
だが、その時、【第三者】が侵入し、母を殺害した。
そして、病弱な姉を攫って行った。
だが、姉は病弱なため、【伝承】が不可能であると知ったその【第三者】は姉も殺害。
【千寿】を攫うが、母と姉を殺された彼女は徹底的に抵抗した。
【第三者】は命がけで抵抗する【千寿】を諦め、子種として残っている父親に目を付けた。
父を攫い、父に新たな【継承者】を生むための子種を提供させようと企てたのだ。
そんな絶望の淵に居るとき、彼女にとっての救世主とも言うべき者が現れた。
それが、【丑与果】である。
最初は、突然、唇を奪われた事とそれまで溜まっていた怒りの感情もあって怒りの感情にまかせて醜態をさらしたが、【丑与果】と2人で、家を再興しようと思っていた。
そう言った思いはまだ【丑与果】には伝えていない。
伝えれば、彼は離れてしまうかも知れない。
敵は幼い彼女にとっては敵わない相手。
それに対して、彼女と同じ年くらいの男の子に背負わせるのは無理な話。
でも、大きくなれば・・・
今は無理でも・・・
そんな事を思いながら、彼女は捕まえた魚を逃すまいと必死に彼に縋るのだ。
そんな彼女の切ない気持ちはわかっていないが、彼女が何かを抱えているのは、何となく、わかる。
だから、拒絶する事も出来なかった。
だが、【丑与果】は、
「わかった。
【千寿殿】は叶えたい願いがあるのだな?
それを為すため、わりっちの力が必要と・・・
そう言う事だと推察するが間違っているか?」
と言った。
【千寿】は、
「うぐっ・・・
それは・・・」
と言いよどむ。
図星をつかれたからだ。
【丑与果】は、
「では、わりっちがその願いを叶える。
それでわりっちにこだわる必要は無いだろう」
と言った。
「無理よ。
絶対に無理。
子供の私達じゃ、あの下劣な大人達には勝てない。
家族の仇。
許せない。
絶対に殺してやる」
「それは和解の道が全くないのだな?」
「当たり前でしょ。
母と姉を殺され、父も種馬として攫われた。
全ては自分達の欲望のまま。
そんな相手に勝てると思う?
出来るなら、仇を全員殺して。
父を帰して。
出来る?
出来る訳ないわよね?」
「わからんがやってみよう・・・
少し、【千寿殿】の恨みの念を借りるがかまわぬな」
「な、何よ・・・
何をするのよ」
「少し、大人しくしていてくれ・・・」
と言って、【丑与果】は、【千寿】の額に自分の額を合わせ、
「【呪念願成就】・・・
憎悪よ、届け・・・」
と言った。
そして、10分ほど待つ。
【丑与果】は、
「どうやら・・・
願いは叶った様だ。
【千呪殿】の念が、相手に通じ、相手は自滅して全滅した。
これは、【呪いの力】・・・
忌まわしい力だが、思いの強さによっては仇が討てる力となる。
運を操作し、敵を自滅に追い込む力だ」
と言った。
【千寿】は、
「ウソ・・・
ウソよ・・・
そんな訳・・・」
と言った。
【丑与果】は、
「ウソではない。
結果をこちらに持ってこよう。
【ギフトシャボン】・・・」
と言って、また【シャボン玉】を出した。
結果が運び込まれるまで時間が掛かり、その間、【千寿】は、【丑与果】にさんざん文句を言っていた。
が、3日後、ふわふわと【シャボン玉】がいくつか返ってきた。
1つには、【彼女の父親】が、
他の6つには彼女の家族を追い詰めた【第三者】達の遺体が、入っていた。
パチンと割れ、【千寿】の父親、【池原 大樹】は、
「無事だったか・・・
【千寿】・・・
お前だけでも生きていてくれて嬉しかった。
ありがとう」
と言った。
【千寿】は、
「うわあぁぁぁぁぁぁん・・・
お父様ぁ~。
お父様、お父様、お父様ぁ~・・・」
と号泣した。
それを見た、【丑与果】は、
「良かったな。
それでは、わりっちはこれで失礼する。
達者でな【千寿殿】・・・」
と言い残し去った。
【千寿】は、
「お父様・・・
一体どうやって・・・?」
と尋ねる。
【大樹】は、
「それが、急に敵が自滅して・・・
不思議なんだが・・・
それから【シャボン玉】に吸い込まれて・・・」
と言った。
【千寿】は、
(本当だった。
本当に仇を討ってくれた)
と思い、
「彼は?」
と聞いた。
泣きじゃくっていて【丑与果】が去ったのに気付かなかったのだ。
【大樹】は、
「一緒に居た彼なら、立ち去ったよ。
彼に助けてもらったのかい?」
と言った。
【千寿】は、
「追いかけなきゃ・・・」
と言った。
【大樹】は、
「恩人なのかい?」
と尋ねた。
「うん。
返しても返しきれない恩を受けた。
私、もう、彼の元に嫁ぐしかない。
良いよね、お父様」
「そうか。
それは追いかけないと行けないね。
娘を助けてもらったお礼をしないと」
「お父様も彼の力に助けてもらったのよ」
「そうなのか?
それは凄いな。
じゃあ、一緒に彼を追うか」
「うん。
一緒に家を再興しようね、お父様」
「あぁ、そうだな。
彼も加えてな」
「うん。
絶対に逃がさない。
私の心をここまで夢中にさせたんだもの。
しっかりと責任取って貰うわ。
絶対に妻になる」
こうして、立ち去った【丑与果】を【池原親娘】が追う旅が始まったのだった。




