百四十九・襲撃者 参
ユリウスと二人なら――正直、優勢だ。
光と焔の連携で、敵の攻撃を完全に封じ込めている。
だが……こいつ、一体何者だ?
聖王ユリウスを相手にしても怯むどころか、
むしろ楽しそうに笑ってやがる。
黒い靄を纏いながら、影を足場に宙を駆け、
次の瞬間には俺の背後に迫っている。
反応が速い。力の格が違う。
――もし、今この場にユリウスがいなければ。
きっと、俺ひとりでは勝てなかっただろう。
胸の奥にそんな現実を突きつけられ、
思わず歯を噛み締める。
ん……待てよ。
……俺、今、一人?
ん、んん?
さっきから、何か違和感が――。
そういえば……遅すぎないかぁ?
リリスさーーーん!!!
心の中で叫んだ瞬間だった。
空気が、一変した。
森全体が軋み、風が止まる。
音が消え、色さえも凍りつく。
凄まじいオーラが周囲を包み込み、
その場にいる全員の体が硬直した。
ユリウスですら、目を見開き動きを止める。
敵の仮面の男も、一瞬、息を呑んだ。
――この圧。
間違いない。
リリスだ。
「この気配は……!!?」
ユリウスが息を呑む。
「こんなことが……!」
仮面の男も、明らかに動揺していた。
あれほど余裕を崩さなかった男の声が、震えている。
空が赤黒く染まり、森の奥から吹き荒れる魔力の奔流。
ただの魔力じゃない――存在そのものを圧殺する“格”の違い。
地面が裂け、木々が震え、風が唸る。
大地が悲鳴を上げるほどの重圧。
さらに、オーラが強くなる。
まるで世界そのものがひざまずくかのように。
――その瞬間、空気が爆ぜた。
森の奥から、紅の閃光が走る。
――どぉぉんッ!!
大地が爆ぜ、轟音が森を揺らす。
衝撃波が三人の間を吹き抜け、木々が一瞬で根こそぎ倒れた。
視界が白く弾け、
煙の中――何かが、そこに“立っていた”。
人の形をした、どす黒いもや。
輪郭だけがゆらめき、顔は見えない。
ただ、存在そのものが“怒り”を放っていた。
リリス……?
俺の喉が勝手に震えた。
いや、違う。
俺が知っているリリスじゃない。
穏やかで、微笑みながら「主」と呼んでくれる、あのリリスじゃない。
これは――
“覇帝竜レシュノルティア・アマリリス”の逆鱗。
黒いもやの中から、低く、震えるような声が響く。
「……貴様ら、覚悟はあるのだろうな。
我が主を、危険に晒したその罪――命で贖え。」
その言葉だけで、空気が震えた。
森を包む闇が脈動し、空が悲鳴を上げる。
ユリウスが青ざめた表情で息を呑む。
「……このオーラは……間違いない……!
終末の龍――!!
まさか、本当に“終焉の魔人”の配下になっていたとは……!!」
赤黒い光が森を照らし、
世界が崩壊の予兆を告げるかのように揺らめいた。
リリスさん……!!
来てくれたのは、めちゃくちゃ嬉しいんだけどさ……!
ちょ、ちょっと怖すぎない!?
森ごと世界終わりそうなんだけど!?
心の中で全力で叫んだ。
“助かった”という安心感と、
“このままじゃ敵より先にオレが消し炭になる”という恐怖がせめぎ合う。
――これが、リリスさんの“本気”か。
うん、頼もしいけど……今だけは優しめモードでお願いします。
「……これはまずい……撤退──────────!!」
仮面の男が声を上げ、影とともに後方へ跳ぼうとした――その瞬間。
「……どこへ行く?」
低く、凍てつくような声が背後から響いた。
バキィィィィンッ!!
リリスが一瞬で間合いを詰め、仮面の男の顔面を掴んだまま、
地面へと叩きつける。
ドガァァァァァァァン!!
大地が抉れ、森が揺れ、衝撃波が空気を裂く。
鳥たちが一斉に飛び立ち、木々が倒れる音が遠くまで響く。
「我が主を害した報い――覚悟はできていような?」
どす黒いオーラが再び膨張し、
森全体がリリスの怒気に押し潰されていく。




