百四十八・襲撃者 仁
光と闇が激しくぶつかり合い、森全体が震えていた。
ユリウスの放つ光輪が仮面男の影を打ち砕き、仮面男はさらに深い闇を呼び出して対抗する。
その衝撃で木々は裂け、地面は陥没し、夜空にまで閃光が走った。
(……このままじゃ、森ごと吹き飛ぶ……!)
息を切らしながら、俺は黒焔を纏った。
“終焉の魔人”としての姿を完全に呼び覚まし、赤い眼光を煌めかせる。
そして――
「……おい」
声を低く放つ。
その一言だけで、戦っていた二人の動きが一瞬止まった。
「仲間はずれは――良くないぞ」
俺は黒焔刀を展開し、二人の間に踏み込んだ。
焔が渦を巻き、地面を割る。
終焉の気配が、強制的に戦場に割り込んでいく。
ユリウスが僅かに口角を上げ、仮面男は仮面の奥で笑ったように見えた。
「……フッ、やっと出てきたか」
「やれやれ、面白い……実に面白い!」
三つ巴の空気が、一気に張り詰めていく。
轟音。光と闇と焔が、幻想の森を呑み込む。
ユリウスの光輪が幾重にも展開され、矢のように飛び交い、仮面男の影の触手を片端から焼き切っていく。
仮面男は怯むどころか、笑い声を上げながら影を無限に生み出し、闇の雨を降らせて応戦した。
その中心に俺は踏み込み、黒焔刀を振るう。
「はぁぁッ!!」
刃が闇を裂き、光を巻き込み、火花のように爆ぜる。
焔が螺旋を描き、瞬間的に夜空を赤黒く染めた。
(ヤベェ……次元が違いすぎる……!!)
息を吐く暇もない。ユリウスの術式に巻き込まれれば、俺でもただじゃ済まない。
仮面男の一撃を受ければ、身体ごと影に呑まれる。
――だから。
(斬り込むしかねぇ!)
俺は《身体超化》で肉体を強化し、影の束をすり抜けるように跳躍。
黒焔刀を振り下ろす――直前で、ユリウスの光壁が展開される。
ガギィィィィン!!
衝撃で腕が痺れる。
光と焔がせめぎ合い、空気が震動で裂ける。
「終焉の魔人……やはり底が見えない!」ユリウスの声。
「ハハハ!!いいぞ……二人とも、最高だ!!」仮面男の嗤い。
三者の力がぶつかり合い、地面が崩れ、森が悲鳴を上げる。
枝葉は燃え、土は砕け、夜空には閃光が走った。
黒焔、光輪、影――。
三つの力が交錯するたびに、森そのものが悲鳴を上げた。
俺の黒焔刀が振るわれる軌跡は赤黒い閃光となり、触れるものを片端から焼き尽くす。
その刃を、ユリウスの光壁が受け止め、砕けると同時に反射する矢が影を貫いた。
だが仮面男は、まるで舞うようにその矢を避け、残像を撒き散らす。
次の瞬間には影が槍となり、数十もの突きが俺とユリウスへ同時に襲いかかった。
「……ッ!」
俺は地を蹴り、焔を纏わせた刀を薙ぎ払う。
爆ぜるような衝撃音とともに、槍が砕け散り、焔の弧が闇を裂いた。
ユリウスは詠唱を必要とせず、ただ手を掲げるだけで光の大剣を顕現させる。
それが音もなく振り下ろされ、仮面男の影をまとめて斬り裂いた。
「チッ……!」
仮面の奥から低い声。だが、まだ笑っている気配がある。
奴の残像が四方八方に散り、闇に紛れた刃が背後から迫る。
直感で振り返り、黒焔刀を横薙ぎに振る。
火花とともに衝突音。
俺の背後に“いつの間にか立っていた”仮面男の刃を、ギリギリで受け止めていた。
「ほぉ……反応するか」
仮面男が仮面越しに愉快そうな声を漏らす。
次の瞬間、全身の影が爆ぜ、俺ごと吹き飛ばそうとする。
「させるか」
ユリウスが間に割り込み、光壁を展開。
爆発が森を抉り、空を揺らす――だが、光の盾がその衝撃を受け止めた。
(……化け物だらけかよ……)
「終焉の魔人、ここはひとつ共闘しないかい?」
ユリウスが余裕の笑みを浮かべながら言った。
ありがたい申し出だ……正直、さっき勢いでユリウスにまで攻撃してしまったし。なんか、ごめん。
だが、ここで素直に謝るわけにはいかない。俺は“終焉の魔人”だ。
「勝手にしろ。オレは敵を排除するだけだ。」
低く響く声で吐き捨てるように言い放つ。
敵の影の槍が空を裂き、二人の間を一直線に駆け抜けた。
紙一重――。
ユリウスは光の障壁を瞬時に展開し、俺はわずかに身を捻ってかわす。
息が合っているわけじゃない。ただ、互いの反応が異常なまでに速い。
「危ないね……!」
敵が連撃を放つ。
影が森を呑み込み、地面から無数の刃が這い上がってくる。
その瞬間、俺は低く呟いた。
「――࿓《神薙(かんなぎ)》࿓」
赤黒い光が走り、巨大な刃が顕現する。
振り抜いた瞬間、世界が一瞬止まった。
襲い来る影も、空を裂く光も――すべてを断ち切り、無に還す。
轟音とともに爆風が森を駆け抜け、
地を抉るほどの余波が残る。
ユリウスが目を細めて、呟いた。
「……なるほど。“終焉”の名は伊達じゃないね」
俺は無言で刀を振り払い、血のような残光を散らした。




