表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

688/689

王宮闘争 * 友人は最恐

 



「ちょっと待ってくれる?」

 私の発言に頷いた女王陛下が言葉を発するのを遮ったのはリンファ。

「そこにバールスレイドが介入するわ」

 え。

 ちょっとリンファ?

 びっくり発言に凝視すれば満面の笑みを返された!

 その笑みの意味が分からないし恐ろしいしで目が泳いだ私が視線で助けを求めたのはグレイとウィルハード公爵様なんだけど、なんと二人も知らなかったらしく、目が合ったら首を横に振って寄越した。『これどうしたら?』と目で訴えたら、それがちゃんと伝わったもののなんと二人揃って非常に遠い目をした。

(完全に諦めてる!)

 最早『関与しません』と顔に書いてあるような分かりやすい態度にこっちまで遠い目になりかけたわ。他にも助けを求めて目を泳がせたけれどアストハルア公爵様やツィーダム侯爵様も目を逸らすし、クノーマス侯爵様なんて目を閉じた!!

「バールスレイド礼皇殿下、差し支えなければその理由をお伺いしたい」

 その場がざわざわしてしまったのを落ち着かせたのは目を逸らしたはずのアストハルア公爵様。静粛に、という意味があるらしい杖で床を突く行為をしてからその質問をしたことで一瞬でその場が再び静粛に包まれた。リンファを敵に回すのはマズイと瞬時に判断したらしい。

 今回集まった諸外国の王侯貴族に用意された席の中で、私の後ろ盾であるヒタンリ国の第二王子殿下の次に女王陛下に近い席に座っているリンファ。この席からも女王陛下自身が彼女の事を重要視していることは分かっていたんだけど、それにしたって女王陛下との会話に割って入るってどうなんだと思いながら私は戸惑いつつリンファに再び目を向けた。

(おうっ、戦闘モード……)

 声に出して言いそうになったわ。リンファの顔が、完全にソレ。

 カッカッと優雅だけど存在感抜群な歩調で前に出てくると、私と女王陛下のちょうど間付近に立った。

「困るのよ、中途半端な再教育と王族として復権する可能性を残すような約束は」

 女王陛下に対してそう言ってからリンファはゆっくりと周囲を見渡した。

「絶対に王にはならない、ベイフェルア王家はあなたで最後、そしてここを出たら王太孫と内宮女の資格も剥奪される。最低この三つを数日内に承諾させることが条件よ。今は『ベイフェルア』を名乗れても、その後反省と勉強をしても王族として歴史書には名前が載らないし今後は平民であるとまずあなたが約束して。それが出来ないなら死ぬのを前提に強制労働よ。変な期待を少しでも残した状態で外に出されても困るの。それこそ王家の再興だの最後の王族だのと持て囃されてようやく変わろうとしているベイフェルアの歩みを止めるようなことになるなんて本末転倒もいいところ、はっきり言って国として残る価値もないわ。そんな傾向が少しでも見えたらバールスレイドとネルビアは侵攻するわ」

 どよめきが起こる。


 侵攻、つまり戦争をすると。


 誰かはきっと『何故』と問いかけようとしたと思う。でも、それをリンファは許さなかった。一拍も置かず話し続ける。

「特にネルビアは迷わずするわ。だって国境線を争っているのよ? この国が変わろうとしているなら話し合いの席を設けるのも吝かではない、それが今の流れ。でもまたベイフェルア王家が主導権を、なんて話になるなら国境線問題もきっと同じ流れに戻るわ。戦争することで儲けていた貴族が多いこの国なら戦争は大歓迎でしょうから。だからその芽と成りかねない王太孫の再教育は徹底し、継承権は永遠に戻らないと認めさせて平民になったと自覚させて。道具としてジュリを利用しようとしたこの国なんて滅べばいいというのが私の本心。でもそれじゃ国民が可哀想だわ、ほとんどの人たちは無力でこの状況を今も知らない人たちよ。その人たちまで巻き込むつもりはないのよ私だって。でもそれもあなた達次第では、私は権力を使って潰すわ、覚悟して。私はジュリ程優しくないの」

 心配になる発言だけど、ヒタンリ国第二王子殿下は異議を唱える様子はなくただ静かに前を見つめているだけ。

 そして何より不気味なのは。

 レッツィ様よ、いるのよ、普通に。なんなのよ、暇なの? 大首長、何してんだよと言いたい。

 席としては第二王子殿下の後ろに位置している。本当はその位置じゃなくリンファの隣やリンファが座っていた席が相応しいのに何故か後ろにいる。それにレッツィ様の顔、初めて見る表情をしていてびっくりしたわ。

 すっっっっごいキラキラした目でリンファを見てるのよ!!

(あー、あれが【彼方からの使い】を崇拝しているのが表に出てる時のレッツィ様かぁ)

 と、ちょっと現実逃避したくなる。子供があこがれのヒーローに出会ったかのような、そんなキラキラした目なのよ、怖いわよ正直。

 もうね、北側の三国がそんな状態なので誰も口を挟めない感じ。


 いやぁ、壮観よ。

 この場にいる人たち、王族同士の結婚式じゃなきゃちょっとありえないって面子なのよ。

 特にリンファの周り。大物と言うともう一人、ロビエラム国王太子殿下がいて実はさっき目が合ったら余裕綽々に手を振ってきた。振り返せるわけがないからそういうのやめてくれと叫びそうになったわ。『黄昏』の鱗粉砕可能仲間だからね、親近感があるのかもね、仕方ないのかも。

 そしてその後ろにはバミス法国の顔見知りの枢機卿が二名とラパト将軍がいる。アベルさんじゃないんだ? というのと、ラパト将軍いつの間に!! と思いつつそこはあちらの国の事情もあるんだろうからね、私が関与することではない。

 で、更に並ぶフォンロン国のイチトア宰相とフォンロン国ギルド長は顔ぶれを確認している時にこそっとグレイが教えてくれた人たち。『覇王』騒ぎ以降復興でずっと忙しくしているはずなのに来てくれていた。

 他にもヒタンリ国を通し交流のある北方小国群の国や自治区の長たちも数名がいて、その人たちもリンファ側に座っている。

 皆リンファの意見に賛成って意味で集まっているらしい。この人たちをリンファが転移で運んで来たと教えられた時は腰が抜けそうになったわ。そこまでするのかと。

「わかった? 女王」

 上から目線すぎる!!

 リンファ強い!!


 そして全員の視線が女王陛下に集中した。

「承知した」

 迷いないひと言だった。


 満足げに頷いたリンファは更に間を置かず話し出した。

「そして当然、ジュリへの謝罪を求めるわ。この場でこの国を代表して、あなたにね。中途半端だったり遠回しな文言じゃなく、ちゃんとした謝罪。……これはね【彼方からの使い】をこの世界に召喚する神への謝罪でもあるのよ、分かってるわね」


 彼女のひと言に、多くの人がハッとした顔をする。

「私たちは使い潰される物じゃないの、あんたたちの私利私欲のためじゃないの【彼方からの使い】は神の意思によってここにいるの、あんたたちの意思でも願いでもなく、神の意思。人間如きが割って入るなんて許されるわけないじゃない。いい加減この世界の奴らは皆そのことを覚えなさい。そして気づきなさいよ、神に馬鹿にされてることを」

 リンファは続けた。【彼方からの使い】が召喚されるということは、それだけ『あんたたち人間が頼りないからだと。何をさせても学習せずに同じ事を繰り返してるからだ』と。

「馬鹿にされてんの、わかる? あんたたちがあんまりにも何も出来なさすぎて、見てられないから私たちが来る羽目になってるの。私たちみたいな人間が召喚され続ける限り、神はこの世界の人間はバカだって思ってるってことなの」

 ……解釈違い、いや、神をよく知る人たちの間でこれは意見が分かれるな、と思えるリンファの発言。でも、間違いではないと思えちゃう私がいるのよね。ハルトあたりはどう思ってるのかちょっと興味あるのでそのうち聞いてみようかな。そのハルトは今日はいない。全く自由にも程があるわ。

「これ以上馬鹿にされたくなければよく考えて。何が正しかったのか、間違っていたのか、考えて。そのうえで、心当たりがある奴らはジュリに謝りなさい。ジュリのその先にいる存在を少しでも疑わないなら、できるわよね」


「心からの、謝罪を。本当に申し訳なかった」

 女王陛下が一度深呼吸をしてから深々と頭を下げてから、よく通る声でそう発した。それに続いたのがクノーマス侯爵家の人たち。そこにはグレイも含まれた。間を置かずアストハルア公爵様ツィーダム侯爵様とペリーダ伯爵様にトルファ侯爵様……。数秒後には、ベイフェルア国の貴族が全員、頭を下げた。

 一国の主が、数多の貴族が公の場で頭を下げることなど過去になかった事だと思うし、きっとこれからだって奇跡に近いかもしれない。


 でもこれで、私の中で一区切りついた。その瞬間。

(ああ、終わった、やっと帰れる)

 と、心の底から思えた。


 勿論納得していないのか直ぐ様頭を上げて憮然とした態度でこっちを睨んでいる人も結構いる。

 そういう人たちは縁がなかったので知らない人だったり今回のことで地位や金銭面で痛手を被る人たち。そんな人たちを相手にする暇もなければ気持ちもないのでね。放置。


 リンファと目が合った。

 満足げな笑みを浮かべていた。

 ありがとね。

 リンファ。












 これで終わり!! とならないのがリンファ。

()() 《ハンドメイド・ジュリ》に手を出して置いてお咎め無しなんて思う奴がいたら出てきなさい、細切れにしてやるから」

 あの後、一旦終わらせてこの先は少数で賠償だ何だという話をしましょうと纏まって解散、となりかけたのを物騒な言葉で遮っていた。

 集まった多くの人たちはこの人何言ってるんだって顔をしたけれど。

「そうですね、 《ハンドメイド・ジュリ》とその関連の実権は全てリンファ様がお持ちでしたね」

 独り言にしては大きな声でウィルハード公爵様が言った隣でグレイが頷いた。

 ……。

 ……そうなんだよね。

 お店に侵入されて素材が盗まれていると気づいてすぐ、万が一の為にと 《ハンドメイド・ジュリ》関連の全ての事業はリンファが買取って彼女が事業主になってるんですよ。これ、大事な事実なんですよ。

 リンファが強気に出られた理由はそこ。そりゃそうだよね、自分の店に手を出されたら誰でも憤るし、力のある人ならやり返すわけで。

 そしてかなりの貴族が青ざめてガクブルしたりこっそり逃げ出そうとしている理由もそこ。手を出したのが私ではなくバールスレイド皇国で皇族同等の地位と権限を持つリンファなんだから。リンファに手を出すってことは、バールスレイド皇国に手を出すってこと。喧嘩売ったわけだ、大国の皇族に。

「逃げても無駄よ、既に全員調査済みなんだから。数倍苦しむことになってもいいなら逃げても良いわよ」

 とか言いながら扉という扉を魔法で氷漬けにして笑顔を振りまくのはやめてほしい。


 現時的な話として、この国が私に対して賠償金を払える余裕はない。リンファの提示した金額が莫大過ぎたから。ただ、これについてアストハルア公爵様たち女王陛下のそばで国の立て直しの為に尽力することが決まっている人たちも異議を唱えることはなかった。

 異議、唱えられる訳がないんだよ。私相手なら交渉も可能だったけれど《ハンドメイド・ジュリ》は正真正銘リンファの手にある。

 ようやくその話のために小会議場という一室に移動した私たち。

「折れないわよ、私は」

 取り付く島もないとはこの事だろう状態のリンファに流石に公爵様たちもじゃあどうするかと議論が激しくなりかけた時、手を挙げたのはクノーマス侯爵様だった。

 今までずっと沈黙していた侯爵様だったので、みんながちょっと驚いた顔をする。そんな侯爵様はリンファに手短に済むので二人で話したいと提案した。


 そして僅か数分、本当に二人の間で話が纏まったらしい。

 戻ってきた侯爵様がリンファに『妥協案』を提案した事を説明してくれた。

「ああ、なるほど。うまく考えたね」

 トルファ侯爵様が面白そうに笑みを浮かべて呟いた。

 侯爵様がリンファに提案した妥協案。

 それは 今後私が生きている間に開発・販売される物についての価格交渉をベイフェルア国内の貴族は一切禁止すること《ハンドメイド・ジュリ》で使用する素材でベイフェルア国内産の物は最優先で入手出来るようにすること、国外の素材についての入手で国家相手の交渉が発生する場合は国が代理で交渉をし尚且つ素材確保の保証をすることだった。

 そしてそこに加えてもう一つ。

「未加工の希少素材が今回大量に持ち込まれたまま手つかずと聞いています。……それら全てをベイフェルア国内の貴族が王家から買い取り、それをジュリへの賠償金にするのはどうですか? そしてその買い取った素材はジュリに譲渡するんです。今回 《ハンドメイド・ジュリ》やククマット・クノーマス領に損害を与えた家は強制的に購入と譲渡、そして審問会まで王宮の混乱を収められなかった我々も当然。寧ろ全ての家から国の立て直しのために財産を差し出すよう命令すべきです。無実の家など殆どないのですから。貰いすぎたとしても精査後に返金すればいいだけですから」

 侯爵様はそうする事でズルをする貴族を逃さないつもりだ。余計な事をしてくれた奴ら一人残らずお金を搾り取って大打撃を与えてやろうってことらしい。集まるお金は莫大。一部を私の賠償金として使い、残りは国の立て直しに使えばいいしね。国が変わろうがなんだろうが先立つものがなければなにも始まらないから。


 それでも私のためにずっと奔走してくれた中立派や穏健派の人たちまで巨額の支払いをするのは違う気がする、必要最低限でいいのでは? と言ってみた。

 それに対してリンファが非常に爽やかな笑顔でこう返してきた。

「駆けずり回っただけで結局不当な審問会を正当な手続きで止められなかった挙句、最後の最後まで大馬鹿達にジュリに直接謝罪させられないままここまで来た奴らに同情する価値なんてないわね。寧ろ払えるだけ払えと思うし馬車馬になったつもりで働けとも思うわ」

 うん、とこの場で言えないよ、私は。と言う言葉を飲み込んで笑顔だけ返しておいた。




ハルト「お前ジュリより自由よな」

リンファ「ハルトにだけは言われたくないわね」

ハルト「じゃあ凶暴、俺より勝るのはそこ」

リンファ「……ハルトって」

ハルト「おう?」

リンファ「時々Мなのかなって思うわ」

ハルト「何が? ひぎゃぁぁぁぁ!!」

リンファ「今日は首を捻ってあげる。はい、普段酷使している首のコリをほぐしましょうねぇ〜」

ハルト「死ぬぅぅぅ! 首取れるぅぅぅ!!」

目を離すといつもこんなことをしている二人。ベイフェルア王宮でも変わらずこんなやり取りがあった模様。

グレイセル「仲がいいな」

ジュリ「ね、仲良しだよね」


リンファはですね、ハルトとは違う重要な立ち位置が決められていたキャラです。

数年の執筆期間で様々な変更をしながらここまできましたがリンファの『ハンドメイド・ジュリの経営権をあるタイミングで得る』は彼女が誕生してから然程間を置かずに決まったことの一つでした。これでこの終盤で大暴れ?できる人が一人確保出来たわけです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
一同が揃って頭を下げたところで、誠意が足りねーなとか思ったのですが、ちゃんと形のある賠償もされるようで良かった。頭なんかいくら下げても減りませんからね
 いっそ、天界から(ハルトとは別の)【代行者】を降臨させて、【彼方からの遣い】に対する各国の反応を監視・監督させればいいんだよ。人間は艱難辛苦を短い周期で忘却して歴史を繰り返す生き物…100年前後した…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ