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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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王宮闘争 * 決定権

 



 そもそも女王陛下は死んでいなかった。

 そして、女王陛下は王位を元国王に継承する儀式、『初代王』から続いていたはずの血や【スキル】と【称号】を子孫に引き継がせるに必要だった戴冠式で譲位をしていない。

 要するに、二人は国王と王妃ではなく、王太子と王太子妃でしかなかった、ということを女王陛下は公表した。

 そしてこの国が特殊な継承方法を秘匿してきたからこのような事態になったとも説明している。さらにベリアス公爵家とアストハルア公爵家についても類似した当主の継承が代々行われたいたことも一緒に。他にも暗殺未遂が起きた当時、主だった貴族が王太子が強行した即位式で国王になったのをそのまま黙認し真相究明しなかったこと、それに伴い議会参加権を持つ子爵家以上の家全てが再調査され関与の有無とその内容によっては重い処罰の対象となることも同時に公表された。


 あのアストハルア公爵家ですら何らかのお咎めがあるとなれば、ベイフェルアの貴族で無傷で済む人はいるの? なんて事を考えたり、小声で隣にいるグレイやウィルハード公爵様と会話をしている時、突然その場が緊張と静寂に包まれた。

 女王陛下の登場。

(ホント、この人『王』だわ)

 年齢を全く感じさせない歩みとピンと伸びた背筋。真っ直ぐ玉座に向かって歩いているだけなのにその存在感がエグい。息を呑むってこのこと。全員が胸に手をあてがい腰を折り出迎えるのに私は呆けて眺めてしまった。

 玉座に座り、傅く人たちをゆっくり眺める姿はまさに天上人。落ち着きの中に確固たる自信が滲むその佇まいは元国王とは雲泥の差。

白髪に混じる鮮やかで印象深い独特なオレンジ色の髪の毛と青紫色をした不可思議な変化を見せる瞳。その二つがなお女王陛下の存在を押し上げているようにさえ感じる。


「表を上げよ」

 あ、結局頭下げてない! と我に返りながら声を出さずに苦笑しつつ、気持ちを落ち着けるために静かに息を吐き出した。

 今日女王陛下の隣にいるのはライジール王配殿下のみ。全ての人がお二人よりも下に位置している。集まった貴族は穏健派、中立派の伯爵家以上で信頼の置ける家のみ。それでも親、配偶者に次期後継者を連れて来ている人もいるためその数は四百人近い数になった。女王陛下復権からわずか数日、この短期間でこれだけの人が集まったのはおそらくこうなる事を予測したアストハルア、クノーマス家が不測の事態に備えて王都で待機するよう指示を出していたと教わっていたので驚きは少ない。

それにしても。

(この半端ないひりつく空気をそこにいるだけで維持できるってすごいよホントに)

女王陛下の存在感に『あっぱれ!』なんて一人心の中で叫んでいたら。


「ジュリ・シマダ、前へ」

「お?」

 ……やっちまいました。素っ頓狂な声が出た。

 てゆーか聞いてないんだけど? え、ライジール王配殿下、普通にさも当然に呼んで『なにか?』って顔をするのやめてください。両隣を確認すればこっちを非常に複雑そうな顔して見てるんだけど。待って、その顔はなんでそんな声が出るんだって言いたいの? それとも呼ばれるなんて聞いてないぞ? どっちよ。

「前へ」

 はい、分かりました。

 どうにでもなれ!!

 フン、と鼻で軽く息を吐き出して気合を入れて前に出る。そして玉座前の赤絨毯の中央に立ち、女王陛下を真っ直ぐ見据えてからカーテシー。

「ジュリ・シマダ。この後いくつか質問するがそれについて都度発言の許可を取る必要はないので自由に答えよ。それを踏まえまずはそなたに確認する。バミス法国ウィルハード公爵家との養子縁組にて、正式に公爵家の養女となったことは真か」

 私は自分を真っ直ぐ見つめてくる女王陛下の目を同じように真っ直ぐ見つめ返す。

「では発言致します。事実です。この場にウィルハード公爵閣下がいることが証明になるでしょう。それでも疑わしいと仰るのであれば確認に必要であり証明となる書類をウィルハード公爵閣下が持参して下さっていますのでご確認下さい」

 ここから、私と女王陛下によるやり取りが始まった。


 養子縁組はしたものの、名前は変わらずに今のまま使用できるようにしてもらったことやバミス法国に亡命申請をしその許可が出ていること、ウィルハード公爵様が審問会で最悪の決定が下された場合私兵と共にこの王宮に入り『国王と交渉』という名ばかりの制圧をする用意があったこと、私が正式に国からの謝罪を貰うまでは王都の外に私兵を駐留させ続けることなど、現在の状況について言葉が交わされた。

 まずこれにより、女王陛下が私を未だ利用できないかと考える貴族を牽制していることが伝わって来た。特に単独でグレイがここに来て想像以上の被害を出したことにも言及し、私の為なら貴族家の一つや二つ平気で滅ぼす事を強調していたことから、女王陛下自身もグレイの存在を脅威と見なしていることは十分理解できた。てゆーか、ここにきてまだ神様による干渉を信じず自分勝手な解釈をする人も少なからずいるようで、そんな人たちを抑える意味もあるらしい。

 そしてその流れから徐々に連行された話へと変化していった。

「近衛騎士団はもちろん、各騎士団団長さんを中心に全体として騎士団とは和解したつもりです。現在に至るまでこの王宮内で騎士団の皆さんには大変良くしていただいていますし、信頼していますので改めての謝罪やそのために場を設けるなど、私は望んでいません」

「そうか。全ての騎士団団長からは連行時からそなたの為人を知るまでにしてしまったという無礼な発言や態度について謝罪する機会をと望まれていたがそなたがそれでよいならこの話はなかった事にしよう。それでよいのだな?」

「はい、お願いします。そもそも強い怒りを自覚するような扱いをされた記憶はありませんしそんなことのために時間を使うくらいなら、他のお仕事に有効活用してもらって下さい」

 女王陛下が一つ頷く。

 そしてここからが怒涛の展開となるなんて誰が想像したか!!


「へ?」

 間抜けな声が出て思わず口を塞いじゃったよ。

 なんと、王宮の侍女や執事、使用人などが一斉に身辺調査と技能調査をされることになったというのよ。そして私の所に配属された侍女たち、貴族特権で文官になっていた令息たちが一人残らず強制的に家に帰され王都での無期限社交活動禁止を言い渡されていた。これで令嬢令息たちは王宮や王都で嫁ぎ先や婿を探す手段を今後完全に絶たれたことになる。しかもそのうち半数以上が強権派かそれに同調していた家で、女王陛下の暗殺未遂から今日に至るまでの騒ぎに加担したことは明白ということで家はお取り潰し、降爵、領地の返還など重い処分を言い渡され、令嬢令息達は放置され行き場のない人が多数発生。現在王都に隣接する各貴族領の修道院や神殿が今回限りの特例として受け入れを表明してくれたのでそこに身を寄せている。が、修道女や神官にならないと居続ける事は絶対に出来ないので途方に暮れているらしい。

「急に生活水準は変えられまい。清貧な生活に耐えられず返す当てもなく金を借りそのうち借金奴隷となる者もいるだろう。それが嫌なら親にそれなりの金貨を寄付させればこちらとしては誠意とみなさないわけではない、そこは貴族の出方次第でどうにかしてやるつもりだ」

「そ、そうですか」

「そこでだ」

「はい」

「そなたが加工した、本来なら付与品として利用されるはずだったが付与が出来なかった様々な加工済素材、あれを一部修道院や神殿に寄付させてもらいたい。勿論、加工料は支払うのでそなたの損にはならないようにする」

「……はい、あの、それは構いませんが、何故ですか?」

「そなたが何の素材か分からず加工していたものがいつくかある」

「え?」

「最たるものがドラゴンの魔石だ」

「……おお」

「加工が極めて難しい癖のある素材を研磨し美しいパーツとして仕上げていたものは魔法付与ができずとも加工出来た時点で相当な価値がある」

 なるほど、と思ったわ!!

 加工出来たってことは宝飾品になる。そのままでは大きすぎて飾るしかなかったものが、宝飾品に出来るとあればその珍しさからこぞって富裕層が欲しがるもんね!!

「それを修道院や神殿の収入源とするんですね」

「そうだ。現金を寄付すればいつでも王家が助けてくれると避難した者たちが勘違いをして無理にでもそのまま居座る可能性がある。そこで神殿と修道院には独立宣言をしたアストハルア公爵とクノーマス侯爵を通しそれらを寄付してもらう。神殿と修道院に『寄贈されたものを売ってまで養ってやっている』という体を持たせたい。身を寄せる者には何を売ったのか聞き出す権利はないし、それが許されない修道院や神殿だから出来る事だ」

「なるほど。では今後もそのようにしてください。加工しただけで私の所有物ではありませんから女王陛下がお決めになるのがよろしいかと思います。決して修道院と神殿の負担と迷惑にならないようにお願います」


 真面目で慎ましい生活と、人々に貢献する活動を日々行っている修道院や神殿の負担軽減になるなら喜んで協力するという話で纏まった後は元国王たちの話へとシフトした。

 まず元国王と王妃、そしてベリアス元公爵。この三人は女王陛下暗殺に直接関わっていたため問答無用の斬首刑が言い渡された。ただ、それだけではあまりにも呆気ない終わりとなってしまうため、斬首刑執行前に過酷な刑も一定期間課すことも決まった。この過酷な刑は他の加担した貴族達も程度は違えど同じく確定していて暗殺に関与した当時元国王や王妃付きだった執事や侍女にも同じ刑が決まっている。

 女王陛下の暗殺未遂から私の不当な連行までの、国家転覆・反逆罪に該当すると判断された人たちは少なく見積もって千人を超えるらしい。そして精査後にさらに処刑となる人も増える、と。

 因みにこの精査は女王陛下の【スキル:時の記憶】によって蓄積した過去の出来事から見つけ出せるそうなので、既に戦々恐々となっている貴族がいるとのこと。便利な【スキル】だな、流石は【称号:女帝】。


「……それと。これに関してはそなたの意見を聞きたい」

「私ですか?」

「王太孫と内宮女についてだ」

 まず『王太孫』と『内宮女』とは。

 元国王が正式な戴冠の儀を経ずに勝手に国王を名乗っていたことで、女王陛下復権直後には国王ではなく立場が『王太子』に戻った元国王。それに伴い、その息子である王太子が女王陛下の孫ということで『王太孫』となり、もう一人の孫である王女は親等級と今のベイフェルア王家の王位継承憲法の関係から王位継承権がない『内宮女』という地位になった。

 これ、なかなかに残酷な処遇だなぁと個人的に思う。

 王太孫と聞くと、そのうち王位継承が巡ってきそうな響きがあるけど、そもそも父親の元国王が『国王ではなかった』ため王太子に戻され、その王太子が女王暗殺未遂を起こして処刑が決まった。そんな男の子供なので一応表向きは女王の孫だから王太孫という地位をとりあえず与えた、って感じ。王女に関しては同じ孫でも『王』は使えない親族扱いになって『内宮女』となった。こちらも暫定措置によるもの。

 そりゃそうだ、王位継承をしていない人たちの子供なんだから、直系とは言えないってことよ。

 ベイフェルア王家の正当な王族は、女王陛下のみ。

 地位がガクンと下がったうえにその価値は極めて低く、近いうちにそれすら剥奪される。剥奪されれば、平民になるだけ。王太子改め王太孫に至っては不当な取引を理解したうえで自身の魔道具を入手するために国庫への打撃に一役買っていたし、私を巻き込んで魔法付与できる加工品を不正に入手しようとした。その罪からは逃れられないので、犯罪者として奴隷落ちする可能性もある。そのあたりの判断は数日中に議会で決定するらしい。


「父親がアレだったからな、正直ベイフェルア王家の儀式などをまるで知らずにあの二人は育ったことが分かっている。王太孫ですら王位継承には決められた手順があったことすら知らなかったし『初代王の書』と辞書の存在も知らされていなかった」

「それはまた……」

 うん、やっぱり元国王、罪が重すぎる。

「そこで、考えたのだが」

 女王陛下は一拍おいて、続ける。

「まず王太孫と内宮女には本来受けるべきだった教育を施す」

「今からですか」

「ああ、そして父親の出生についても」

「!!」

 それはつまり、元国王が女王陛下の子供ではないことと何故実の子でないにも関わらず誰にも知られず王太子になれたのか、それを話すということ。

「そこで判断しようと思っている」

「何を、ですか?」

「知ってなお己を『王太子』『王女』だと言い張るのか、それとも本来は王太孫と内宮女と名乗ることすら難しい立場に置かれたと受け入れるのか……その如何で量刑を変え、チャンスを与えようと思っている」

「チャンスを、ですか」

 広い空間が静寂に包まれた。

 これをこうして皆の前で私に『意見』と言って問う意味。


(待って、考える。……考えなきゃね)


 これ、私に決定権が与えられた。

 なんでそんなことを?

 そんなの女王陛下と議会で決めればいいのにと思うけど。

 違う、そんな簡単な話じゃない。

 息を強く吸い込んで、一瞬だけ止めて。


「チャンスは与えてください。ただし曖昧な線引きは認めません。……これから本来学ぶべきだったことを徹底的に教えてください。期間も決めてその期間中に全て覚えさせてください。教育はタダで出来るものではありませんから、教える人には正当な報酬を与えてください。今の条件が守られることを前提で、二人が内容を理解し受け入れ身分剥奪も受け入れるなら、女王陛下にその後はお任せします」


甘い判断だと言われるかもしれないけど。

いいよそれで。

それに私がこう言っても反対が起こってきっと今言ったことにはならないよ。

少なくとも私の発言で何も知らず王宮の離宮にずっと閉じ込められている王女だけでも必要以上に酷い罰を受けずに済むめばと思っているだけだから。ただ、それだけ。これは温情でも何でもない。地球生まれの私が今なお心の奥底で掴んで離さない価値観が『理不尽さ』にどうしても抵抗しようとするだけだから。


 これにより、今まで放置され国に属していなかった【彼方からの使い】が国家権力への介入を許可されるほどの事だったと、大陸全土が改めて認識する出来事としてこのやり取りは各家の歴史書に明記されることになる。


「とりあえず、妥当な流れかな」


 グレイから、ウィルハード公爵様がそう呟いていたことを後から教えられた。




全然ザマァじゃない!

と思われるかもしれませんが、ザマァ回ではございませんのであしからず。

この話、バッサリ削除とも一時期考えていたのですが勿体ないので肉付けして掲載しました。

王宮闘争編あとちょっと!

今月中には、何とか。

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― 新着の感想 ―
そもそも、ジュリさんはザマアとかやりたいと思っていなさそうですしね。周囲が勝手に罰を与えるでしょうが、ジュリさんにとっては自分と関係者に迷惑が掛からなければどうでもいいでしょうしね。 とはいえ、騎士た…
 確かにいわゆる『ザマァ』ではないけど、必要なシーンかと。 >>父親の元国王が『国王ではなかった』ため王太子に戻され、その王太子が王女暗殺未遂を起こして処刑が決まった。そんな男の子供なので一応表向き…
 この期に及んで状況を理解していない輩(貴族)居るのかという小さな驚きと同時に、むしろ情報把握できてない人は沢山居そうだとも思えました。神の視点で見られるのは読者の特権。  女王にとっての輩への牽制は…
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