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More than meets the eye -強い馬がわかる俺の馬主生活-  作者: oldenhaldt
見えなかったもの

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9/37

クダンムーン③

 年が明けて1月。


 クダンムーンは、芝1600mの菜の花賞に出走した。


 新馬戦と違って、今回は簡単なレースではなかった。


 好位につけたものの、道中で囲まれ、進路がなくなったのだ。


「出られるか?」


 少し不安になる。


 直線に入ると、中野騎手がわずかな隙間へクダンムーンを向けた。


 前には2頭。


 外にも馬がいる。


「行け!ムーン!」


 クダンムーンは怯まなかった。


 馬群の間を割って抜け出す。


 そこから一気に先頭へ。


 2着馬に1馬身差。


 クダンムーン、2連勝。


「新馬戦のときより良くなっていますね」


 中野騎手が言う。


「前より体つきもしっかりしてきたと思わない?」


 クダンムーンを曳いている陽菜ちゃんが、片手を上げて出迎えてくれる。


 パチンとハイタッチを交わす。


「調教でも動けるようになっています。まだ良くなりそうですよ」


 木場先生も続けた。


 まあ、俺が選んだS判定馬だからな。


 次走は、少し間隔を空けてチューリップ賞。これまでと同じ芝1600mで、桜花賞と同じ舞台でもある。


 2歳女王クレールドールも出走予定だ。


 いきなり世代トップとの対戦。


 望むところだった。


◇◇◇


 迎えたチューリップ賞当日。


 阪神競馬場のパドックで、俺はクダンムーンとクレールドールを見比べていた。


 クレールドールの瞳は確かに強く輝いている。


 でも。


 クダンムーンの輝きだって負けていない。


「いけるよな」


 俺が呟く横で、木場先生は別のところを気にしていた。


 発表されたクダンムーンの馬体重は、前走からマイナス2kg。


 数字だけなら、大した変化には見えない。


「先生、何か気になりますか?」


 彩夏さんが訊ねた。


「美浦を出る前はもう少し増えていたんですよ。輸送で減っているのが、少し気になります」


「2kgでもですか?」


「2kgという数字より、想定以上に減ったことが気になりますね」


 これまで環境が変わっても飼い葉食いが落ちなかった馬だ。


 俺も輸送くらい問題ないと思っていた。


 それでも、クダンムーンの瞳の輝きは変わらない。


◇◇◇


 チューリップ賞がスタートした。


 クダンムーンは今回も好発。


 中野騎手が無理なく促し、すんなり2番手につける。


 折り合いも問題ない。


 良い手応えのまま4コーナーを回った。


「よし!」


 直線に入る。


 前を行く逃げ馬との差が縮まっていく。


 抜け出す。


 そう思った瞬間だった。


「あっ!」


 逃げ馬がクダンムーンの方へヨレてきた。


 中野騎手が手綱を引く。


 クダンムーンの勢いが止まった。


 その外を、クレールドールが悠々と抜け出していく。


「ムーン!」


 態勢を立て直し、中野騎手がもう一度追った。


 クダンムーンが再び伸びる。


 先に抜け出した馬たちを猛追する。


 だが、クレールドールには届かない。


 クダンムーン、2着。


 勝てなかった。


 ただ、収得賞金を加算し、桜花賞への優先出走権を手にした。


 引き上げてきた中野騎手の表情には、確かな手応えがあった。


 陽菜ちゃんも嬉しそうにクダンムーンを迎える。


 木場先生も満足そうだったが、戻ってきたクダンムーンの歩様や脚元に目を向けていた。


 さすが木場先生だ。


 俺は、さっきの直線を思い返していた。


 一度止まりかけた。


 それでも、もう一度伸びて2着まで来た。


 重賞を狙えるかどうか、なんて話じゃない。


 この馬なら、桜花賞だって勝てる。


 そう思わずにはいられなかった。


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