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More than meets the eye -強い馬がわかる俺の馬主生活-  作者: oldenhaldt
瞳の輝き

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4/37

クダンロード①

 美浦のWコースを、2頭の馬が併せて駆けていた。


 半馬身ほど後ろにつけていた栗毛に、鞍上が合図を送る。


 次の瞬間、脚の回転が一段上がった。先行馬との差をたちまち詰め、並んだと思ったときには、もう前へ出ている。


 クダンロード。4歳牡馬。美浦・木場厩舎所属で、主戦は中野竜也騎手。父クリムゾンロード、母ウインドベル。


 去年のラジオNIKKEI賞に続き、今年はAJCCを勝った。今の九段レーシングを代表する1頭だ。


 春もGⅠ戦線を走り、夏の休養を挟んで秋初戦にオールカマーを使った。そして次は、下半期最大の目標である天皇賞(秋)。


 この馬を買った頃は、九段レーシングの社長はまだ爺ちゃんだった。


 ただ、買って欲しいと勧めたのは俺だった。


 落札価格は1900万円。


 セリで初めて見たとき、クダンロードの瞳にはクダンアイズと同じくらい強い輝きがあった。


 クダンアイズのあとも、爺ちゃんには何度かセリへ連れていってもらった。


 そのたびに同じくらい輝いて見える馬を何頭か勧めたけれど、その中で実際に買ったのはこのクダンロードだけだった。


 他は予算が足りないからと見送り。


 あの馬たちも買っていたら、今頃どうなっていたんだろう。


 答えはわからない。


 ただ、クダンロードが重賞を勝つたびに、あのとき俺が見た輝きは間違いではなかったのだと思える。


 水曜日の朝7時。


 そんなクダンロードの1週前追い切りを見るため、俺は彩夏さんと美浦トレーニング・センターに来ていた。


 普段から美浦には月に1、2回、栗東にも2か月に1度くらいは顔を出している。今月はいつもより美浦へ来る回数が増えていた。


 クダンロードの追い切りが終わっても、木場先生は双眼鏡を覗いたままだった。


 俺も彩夏さんも声をかけず、見終わるのを待つ。


 しばらくして、木場先生が双眼鏡を下ろし、こちらに気づいた。


「おはようございます。熱心ですね」


「GⅠですからね。俺に何ができるわけでもないですけど、つい見に来ちゃいます」


「調教は順調です。思ったとおりに仕上がってきています」


「それは楽しみですね」


「後でロードに会ってあげてください。人参もいいですよ。ただし1本だけにしてください」


「1本だけですか」


「1本だけです」


 そこは馬主の権限でも増やせないらしい。


 先週も顔を出し、他の所有馬については話を聞いたばかりだ。改めて長い打ち合わせをすることもなく、俺たちは木場先生に礼を言ってスタンドを離れた。


◇◇◇


 しばらく時間を潰してから、彩夏さんと木場厩舎へ向かった。


 クダンロードは調教後に体を洗ってもらい、厩務員の中山さんに脚元を確かめてもらっているところだった。


「お疲れさまです」


「九段さん。見てました?」


「もちろん。よかったですよね?」


「ええ。順調ですよ」


 中山さんに断ってから、人参を差し出す。クダンロードは迷わずかじりついた。


「今日は1本だけだからな。味わって食べろよ」


「あっという間に。かわいいですね」


 彩夏さん、馬には優しいんだよなあ。


 くだらないことを考えていると、後ろから声がした。


「おはようございます」


 振り向くと、馬を曳いた陽菜ちゃんがこちらへ歩いてきた。


 木場先生の娘で、木場厩舎の厩務員。24歳。短い髪がよく似合う、いかにも活発そうな美人である。


 実を言えば、俺は木場厩舎へ来るたび、彼女に会えることを楽しみにしていた。


「おはよう。陽菜ちゃん」


「陸さんも彩夏さんも熱心ですね」


「そりゃGⅠだからね。熱も入るさ」


 陽菜ちゃんはクダンロードへ目を向けた。


「ロード、先週より具合良さそうですね」


「わかる?」


「毎朝見てれば、それくらいは」


 俺の目には、先週も今日もクダンロードの瞳は同じように強く輝いて見える。


「今朝も走り終わってから余裕がありましたよ」


「やっぱり毎日見てる人は違うな」


「担当じゃないですけど、同じ厩舎ですからね」


 そのままクダンロードや厩舎のことをあれこれ話していると、中山さんがクダンロードの首を撫でながら言った。


「お前も可哀想な奴だよな。応援に来てもらってると思ったら、陽菜ちゃんに会う口実にされてるんだもんな」


 クダンロードの反対側では、彩夏さんまで同じように首を撫でている。


「ホント可哀想」


「ちょっと、中山さん、彩夏さん。何言ってるんですか」


 彩夏さんが俺を見る。


「そんなに陽菜さんと喋りたいなら、このあとランチにでも誘ったらどうですか?」


 それもいいな。


「いいね。陽菜ちゃん、このあと時間ある?中山さんも彩夏さんも一緒にどう?」


「午前の仕事が終われば大丈夫ですよ」


「俺はまだ仕事があるんで。それに、人の恋路を邪魔して馬に蹴られたくないですからね」


「私は会社に戻ります。お二人でどうぞ」


「え、そうなの?じゃあ陽菜ちゃん、二人で行く?」


「え?は、はい」


 誘ったときは4人のつもりだった。


 でも、気づけば陽菜ちゃんと二人きりになっていた。


 なんて言えば良いんだろう?棚からぼた餅?


 こうして、クダンロードの1週前追い切りを見に来たはずの俺に、思いがけない予定が1つ増えた。


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