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More than meets the eye -強い馬がわかる俺の馬主生活-  作者: oldenhaldt
瞳の輝き

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3/37

セリ

 日高の1歳馬セール会場は、朝から人と馬でごった返していた。


 馬を曳く牧場関係者。その周りで馬体を見る調教師や馬主たち。


 俺は彩夏さんと会場に入り、先に来ていた木場先生と合流した。


「木場先生、本日はよろしくお願いします」


「こちらこそ、陸さん。社長就任、おめでとうございます」


「ありがとうございます」


 木場健太郎調教師。現役時代のクダンアイズを預かっていた人で、木場厩舎は今でも九段レーシングの主要な預託先だ。


 俺が高校生だった頃から何度も顔を合わせているけれど、今日は仕事。


 こういう挨拶はちゃんとしておく。



 今日は、俺が社長として初めて馬を買う日だった。


「木場先生。事前にもお話ししましたけど、今回は俺の目を信じて選ばせてください」


 木場先生は少し考えてから頷いた。


「わかりました。最終的に決めるのは陸さんです」


 一度、言葉を切る。


「ただ、馬体について気になるところがあれば、私は遠慮なく言いますよ」


「もちろんです」


「本当に目を見るだけなんですか?」


 彩夏さんが割り込んできた。


「そうだけど」


「……クダンアイズも?」


「そう」


「未だに信じられないんですよね。アイちゃんがそんな風に見出されたなんて」


 アイちゃん。


 クダンアイズのことだ。


 彩夏さんは筋金入りのクダンアイズファンらしい。


 俺の目については納得していないみたいだけど、そのうち結果でわかってもらえるだろう。


◇◇◇


 まずは比較展示だ。


 上場番号順に数十頭ずつ馬が出てくる。ここで気になる馬に目星をつけ、あとで個別の馬房を訪ねる。そして最後にセリ。


 俺の場合、この比較展示が一番重要だった。


 馬の瞳を見る。


 輝きには細かな差がある。俺は比べやすいよう、勝手にS、A、B、Cの4段階に分けていた。


 クダンアイズやクダンロード級がS。その次がA。


 狙うのは、その2つ。


「19番、A。31番もA。37番は……S」


「ちょっと待ってください、速いです」


 彩夏さんが慌ててメモを取る。


 俺には、1頭を見るのに数秒もあれば十分だった。


 木場先生は俺が挙げた番号と手元の資料を見比べている。


「私が下見で気になった馬も、何頭か入っていますね」


「そうなんですか?」


「ええ」


 木場先生はそれだけ言って、もう一度資料へ目を落とした。


 比較展示を一通り見終え、候補を絞る。


 Sと判定した馬は全部で2頭いた。


 ただ、予算内で現実的に狙えそうなのは、母ムーンライトの仔だけだった。


「37番はセールの目玉です。スタート価格が4000万円ですし、かなり競りそうです。うちでは厳しいですね」


「絶対に走るのにな。恨めしい」


 瞳の輝きは文句なしのS判定だった。


 でも、今年の購入予算は4000万円。スタート価格だけで全部吹き飛ぶ。


 高すぎる馬はどうしようもない。


 A判定馬も同じように、予算に収まりそうな馬だけを残していった。


◇◇◇


 候補に残した馬たちを確認するため、木場先生たちと個別馬房を回った。


 母ムーンライトの仔を見ると、木場先生は脚や体を順番に確かめる。


「今のところ、大きく気になるところはありません。馬体もこの中ではいい方だと思います」


 それなら問題なさそうだ。


 一方、俺がAと判断した5頭のうち、2頭には待ったがかかった。


「これは脚元が少し気になりますね」


「買わない方がいいですか?」


「私なら避けます」


「じゃあ、やめましょう」


 もう1頭も、歩かせたところで木場先生が首を傾げた。


「こちらも、私はあまり勧めません」


 それなら外す。


 説明は聞いた。ただ、理由まで覚える必要があるとは思っていなかった。


 木場先生が避けた方がいいと言うなら、避ければいい。


 まだA判定馬は他にいる。


◇◇◇


 そして、セリが始まった。


 最初のA判定は700万円で落札。


 次のA判定も1100万円で買えた。


 2頭で1800万円。


 順調だ。


 問題は3頭目だった。


「600万円!」


「800万円!」


「900万円!」


「1000万円!」


 さらに手を上げようとしたところで、彩夏さんに止められた。


「社長、もう降りましょう」


「まだ1000万円ですよ?」


「本命が残っています。そっちがいくらまで上がるかわからないでしょう」


「でも、この馬も走る……」


「社長。予算は4000万円です」


 すでに1800万円使っている。


 ここでさらに値を上げれば、残りは1200万円を切る。


「……わかったよ」


 上げかけた手を下ろした。


 欲しい馬がいるのに買えない。


 馬主というのは、意外と面倒だ。


 そして最後に、本命の母ムーンライトの仔がセリに出た。


 値段は上がったが――。


「1200万円!」


 そこで止まった。


 落札。


 A判定を2頭。


 俺たちに手が届く唯一のS判定馬、ムーンライトの仔も手に入った。


 合計3000万円。予算も1000万円余った。



 馬主って、思っていたよりチョロいな。


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