クダンロード②
陽菜ちゃんとのランチから1週間余り。
天皇賞(秋)当日を迎えた。
快晴の東京競馬場で、俺はパドックを周回する馬たちを眺めていた。
クダンロードは、馬体の良し悪しがろくにわからない俺が見てもピカピカだった。
もちろん、瞳の輝きも変わらない。
文句なしに強い。
問題は――。
「いるんだよなあ」
「何がです?」
隣の彩夏さんが訊ねてくる。
「ロードと同じくらい目が輝いてる馬。3頭いる」
さすがGⅠに出てくる馬たちだ。どの馬の瞳にも強い輝きがあるが、その3頭はクダンロードと同じように一段抜けて見えた。
「そんなに?」
「さすがGⅠってことかな」
騎乗命令がかかった。
クダンロードに騎乗する中野竜也騎手の帽子はピンク。このコースでは不利とされる大外枠だ。
「せめて枠くらい味方してくれればなあ」
俺の愚痴を知るはずもなく、クダンロードは本馬場へ向かっていった。
◇◇◇
馬主席へ戻ると、ほどなく大歓声の中で天皇賞(秋)のスタートが切られた。
「よし!」
クダンロードのスタートは五分。悪くない。
だが、中野騎手は大外から前へ押していかなかった。
本来なら先行したい馬なのに、無理に位置を取りにいかず、内へ寄せながら馬群の後ろへ入れていく。
「動かないのか?それとも動けないのか?」
それでも位置を上げる気配はない。
向こう正面でも折り合いに専念し、3コーナーを過ぎても後方のまま。
4コーナーを回っても、まだ内でじっとしている。
「まだか?」
直線に入った。
中野騎手がようやくクダンロードを追い出す。
「行け!」
クダンロードが伸びた。
今まで見たことのない脚だった。
1頭。
2頭。
前との差を一気に詰めていく。
「ロード!行け!」
さらに伸びる。
だが、先頭には届かなかった。
ゴール。
クダンロード、混戦の7着。
「やはり大外枠は痛かったよなあ」
「スタートは悪くなかったのに、気づけば道中は後方でしたよね」
「でも最後、あんな脚が使えるなんて思いもしなかった」
「中野騎手、よくあそこまで我慢しましたね」
もっと前につけていたら、結果は変わっていたんだろうか。
「お疲れさん。7着は十分立派だろう」
後ろから声をかけてきたのは智也兄さんだった。
今日はGⅠということで、大司兄さんと智也兄さんも応援に来てくれていた。
「兄さんたち、せっかく応援に来てくれたのに、勝てなくてごめん」
「皆、努力をして1着を目指しているんだ。甘くなくて当然だ。いちいち謝っていたらやっていけないぞ」
大司兄さんにポンと肩を叩かれた。
「……そうだね」
大司兄さんと智也兄さんは、木場先生に挨拶を済ませると先に帰っていった。
やっぱり兄さんたちには、こういうところで敵わない。
俺と彩夏さんも木場先生のところへ向かう。
「お疲れ様でした。結果は残念でしたけど、ロードをピカピカに仕上げてくれてありがとうございました」
「こちらこそ、期待に添えず申し訳ありませんでした。大外枠からの競馬でしたが、馬はよく頑張ってくれましたし、中野君も上手く乗ってくれましたよ」
木場先生がレースを振り返る。
「あの枠から無理に位置を取りに行けば、直線であれだけの脚は使えなかったでしょう」
俺と彩夏さんは頷いた。
「この後ですが、脚元や疲れに問題がなければ、年内もう1戦使おうと思います」
「ジャパンカップですか?有馬記念ですか?」
「有馬記念を考えています。距離は延びますが、この馬は中山競馬場が合うと思います」
「承知しました。よろしくお願いします」
負けはした。
それでも、次こそと思わせてくれる走りだった。
◇◇◇
そして年末、有馬記念。
今度のクダンロードはスムーズに先行した。
好位のまま最後の直線へ入ると、前を行く馬との差を詰めていく。
「行け!ロード!」
クダンロードが先頭へ並びかける。
前に出た。
勝てる。
そう思ったところへ、外から1頭が襲いかかってきた。
さらにもう1頭その外から伸びてくる。
3頭が並んだ。
「ロード!」
誰も譲らない。
そのまま3頭がほとんど横一線でゴールへ飛び込んだ。
勝ったかと思ったが、結果は3着。
あと少しだった。
来年こそ、クダンロードにもツキが巡ってくることを祈ろう。
天皇賞(秋)を勝ったのは、パドックでクダンロードと同じくらい瞳が輝いていた3頭のうちの1頭だった。
有馬記念の1、2着馬も、クダンロードと同じくらい強く輝いていた。
同じくらい強い馬同士なら、枠や展開、騎手の判断、運で着順は変わる。
それは仕方ない。
やっぱり俺の目は、間違っていない。




