クダンウイング⑥
外厩から戻ってきたクダンウイングは、順調に調教を重ねていた。
最終追い切りでは、仕掛けられるとすぐに反応した。前走前にあった鈍さは感じない。
「良くなりましたね」
「ええ。前走を使った効果もあると思います」
脚元にも問題はない。
予定通り、クダンウイングはエリザベス女王杯へ駒を進めることになった。
◇◇◇
エリザベス女王杯当日。
パドックでは、陽菜ちゃんに曳かれたクダンウイングがキビキビと周回を重ねていた。
クダンウイングを応援する横断幕がある。その近くには、何度か競馬場で見かけた顔もあった。
兄さんたちや木場先生とクダンウイングを見ていると、声をかけられた。
「九段くん」
神楽和彦さんだった。
神楽さんの所有馬アルモニアは堂々の1番人気。クダンウイングも調教での変わり身を評価され、4番人気まで支持されていた。
「屈腱炎からの復帰は大変だっただろう?」
「苦労したのは俺じゃなくて、スタッフとウイングです」
首を横に振って答えると、神楽さんは笑みを浮かべた。
「アルモニアの調子は良さそうだ。クダンウイングはどうかね?」
「良いと思います」
「ほう、それは楽しみだ」
神楽さんと別れ、馬主席へ戻った。
スマホを見ると、育休中の彩夏さんからメッセージが届いている。
『応援しています!』
高田ファームの馬場さんも、今日は京都競馬場まで来ていると聞いていた。
◇◇◇
『先行争いは……おっと好スタートからクダンウイング。クダンウイングが先頭に立ちました。アルモニアは3、4番手』
「逃げるのか」
少し驚いたが、中野騎手が無理に押している様子はない。
そのまま隊列は大きく乱れず、坂を下り第4コーナーへ向かう。
『ここでクダンウイングが後続を突き放す。いや、アルモニアが迫ってくる!』
「頑張れ!」
『アルモニア並んだ!クダンウイング内で食い下がる!』
『アルモニアか!クダンウイングか!』
『女王同士の一騎打ち!』
並ばれても、クダンウイングは下がらない。
『砂町か!中野か!』
『後ろは来ない!』
「頑張れ!」
もう一度、声が出た。
『アルモニア!クダンウイング!』
『アルモニア出た!アルモニアだ!アルモニア1着でゴールイン!』
『おお、砂町ガッツポーズだ!エリザベス女王杯はアルモニア!2着にクダンウイング!』
『素晴らしいレースでした!』
最後はアルモニアがわずかに前へ出た。クビ差の2着。
悔しかった。
それでも、凄いレースだった。
大きな拍手と歓声が競馬場を包んでいた。
中野騎手を背に、自分の脚で戻ってくるクダンウイングを見届けてから、俺は神楽さんのところへ向かった。
「今日はアルモニアにツキがあったようだね」
「おめでとうございます」
「クダンウイングもいい馬だ。これからも楽しみだな」
「ええ、これからも楽しみです」




