クダンウイング②
期待のS判定馬、クダンウイングのデビュー戦が決まった。
木場厩舎で陽菜ちゃんが担当している。
9月、中山の牝馬限定戦。芝1600m。
結果は5着だった。
直線では伸びていたが、前の馬を捕まえるところまではいかなかった。
次走は距離を延ばし、東京芝2000mとなった。
前走より楽に好位を追走したクダンウイングは、直線で先頭に立つと、外から迫った馬を半馬身差で退け、初勝利を挙げた。
レース後、中野騎手から話を聞く。
「今日みたいに2000mくらいか、もう少し距離があっても良さそうです」
「やっぱりそうですか」
「それと、ポジションを取れるセンスがあります。そこはちょっとムーンを思い出しました。
ただ、ウイングは使いながら良くなるタイプかもしれません」
距離については、木場先生たちも同じ見立てだった。
ところが、クダンウイングにソエが出た。
「無理をさせる必要はありません。放牧に出します。次走は戻ってきた時に考えましょう」
「わかりました。お願いします」
俺に異論はなかった。
厩舎を出て、陽菜ちゃんとランチに出かける。木場先生も誘ったが、「2人で行ってきてください。3人で食事するのは、まだ早いです。早い」と断られた。
交際を認めてもらえたし、将来のお義父さんとも仲良くなりたいんだけれどな。
「あー、残念。せっかく強い勝ち方をしたのに」
「そこまで強かった?」
「着差は半馬身だけど、余裕はありそうだったよ。陸がSって言うだけあるかも」
「そう聞くと、余計に残念だな」
「でも、残念がってても仕方ないよ。今はちゃんと治すのが先」
「桜花賞に無理して間に合わせる必要もないしな」
「うん。戻ってきたら、その時また考えればいいよ」
◇◇◇
明けて3歳春。
結局、クダンウイングが帰厩したのは3月。
復帰戦は、桜花賞が阪神で行われる週の中山開催、山藤賞芝2000mだった。
前走時440kgだった馬体は、462kgまで増えていた。
『先頭はサウスダコタ!ダコタが逃げる!クダンウイングが迫る!ダコタかウイングか!ゴールイン!接戦です!』
「差し切ったかな?」
「そう見えましたけど……」
仲町くんと着順が出るのを待つ。
やがて着順掲示板に数字が点灯した。
1着、8番。クダンウイング。
ハナ差だった。
◇◇◇
後日、木場厩舎で木場先生や陽菜ちゃんたちと次走について話した。
といっても、この時期に3歳馬が出られる2勝クラスはない。
クダンウイングは1600mより2000mの方が良かった。距離とレース間隔を考えると――。
府中2400m。優駿牝馬――オークス。
重賞にすら出たことがないのに、いきなりオークス。
「賞金は足りますか?」
「出られそうです」
「レースを使った反動も」
「ありません」
「先生と陽菜ちゃんは、どう思います?」
「今の状態であれば、使うべきでしょう」
「GⅠに出られそうなのに尻込みしてたら、バチが当たっちゃう」
「わかりました。では次走、オークスでお願いします」
「承知しました」
話がまとまると、陽菜ちゃんがクダンウイングの首を撫でた。
「ピカピカに磨き上げて出走させちゃうんだから」
クラシックを急ぐつもりなんてなかった。それが、気づけば次走はオークスだ。
トップレベル相手に、今のクダンウイングがどこまで通用するんだろうか。




