クダンギア
クダンギアは、クダンムーンの1つ下の世代の馬だ。
父は菊花賞馬サウンドギア。母ナナイロリボンもJRAの芝2000mで2勝している。
栗東の行徳厩舎に預けたクダンギアは、夏の小倉芝1800mでデビューし、快勝した。
俺の判定ではA。
ひょっとすると、クラシック戦線に乗るかもしれない。
そう思うと、やっぱりワクワクする。
ところが、その後は折り合いを欠いたり、展開が向かなかったりして、結果が出ない。
結局、クダンギアは2歳を4戦1勝で終えた。
◇◇◇
年が明けて3歳。
俺と彩夏さんは小倉競馬場にいた。
クダンギアが出走する芝2000mのあすなろ賞を見るためだ。
パドックを周回するクダンギアを見る。
瞳の輝きだけなら、この中ではクダンギアが抜けて見える。
ただ、相変わらず落ち着きはない。
「相変わらずうるさいですけど、イヤーネットのおかげで今日は少しマシですかね」
隣にいた行徳先生が頷いた。
「そうですね。レースでは外す予定です。調教も良かったですし、結果に結びついてくれると良いのですが」
ここで勝てば、春のクラシックが見えてくる。
◇◇◇
クダンギア、あすなろ賞9着。
直線に入っても、ほとんど伸びなかった。
「なんでだ……?」
瞳の輝きが、今日のレースでの強さを意味しない。それはもう、わかっていたつもりだった。
でも、ここまで負ける理由がわからない。
調教は良かった。
体調にも問題はないと聞いていた。
イレ込みも、今日はこれまでよりマシだった。
それなのに9着。
引き上げてきた騎手が、行徳先生に言った。
「もっと忙しい競馬の方が合うかもしれません。マイルとか、極端な話、スプリント戦とか」
「スプリント?」
思わず聞き返した。
少なくとも、俺には短距離馬らしい体型に見えなかった。
ところが行徳先生は、驚くどころか騎手に訊ねた。
「スプリントとマイルやったら、スプリントの方が向いてるっていう感触か?」
騎手が頷く。
それを確認すると、行徳先生が俺たちの方を向いた。
「九段さん。デビュー戦を1800mで勝っていますし、血統や馬体を見ても、これまではクラシック路線を捨てる理由がありませんでした。ただ、実戦を重ねるうちに、厩舎の中でももっと短い距離の方がいいんじゃないかという話は出ていました」
「そんな話が……」
「春のクラシックを考えるなら、今日は結果が欲しかったところです。ですが、この内容なら、もうこの路線にこだわる必要はないでしょう。思い切って1200mを試してみようと思います。それでも結果が出なかった場合は、一旦放牧に出します」
「父親が菊花賞馬だからって、その仔まで長距離向きとは限りませんしね」
彩夏さんが言った。
なるほど。馬の適性……。
「お願いします。もしかしたらダートが合うのかもしれませんし、色々試していただきたいです」
「調教でダートも走らせていますけど、そっちで特別動く馬ではありませんな」
「……そうですか」
素人の思いつきなんて、そんなものか。
ちょっと恥ずかしかったけれど、任せておけば大丈夫だと思えた。
◇◇◇
次走。
クダンギアは初めて芝1200mに出走した。
道中は追走に苦労しているように映った。
でもそれは、直線に入るまでだった。
クダンギアが一気に伸びる。
前を走る馬との差を、みるみる詰めていく。
「行け!」
ゴール前で差し切った。
クダンギア、2勝目。
その後もクダンギアは短距離戦で勝ち星を重ね、最終的にはオープン馬になった。
最初に思い描いていたクラシック路線とは、ずいぶん違う道だった。




