クダンロード③
クダンムーンがデビューし、クラシックを走っていた頃も、クダンロードは走り続けていた。
前年の有馬記念を3着で終え、明け5歳もGⅠ戦線へ挑んだ。
緒戦の日経賞は快勝。
宝塚記念は3着。
直行した天皇賞(秋)も3着。
そして、有馬記念。
最後の直線で、クダンロードは先に抜け出した馬を追った。
差が詰まる。
あと少し。
だが、並び切る前にゴール板を通過した。
「……クビ差2着」
確定した着順を見ながら呟く。
「あと少しでした……」
彩夏さんも着順掲示板を見つめている。
「勝負だから仕方ないとは思うけど、こうも惜しいのが続くと悔しいよな」
しばらくその「クビ」の二文字を眺めていたが、関係者に挨拶しなきゃいけない。
席を立ちながら、つい軽口が出た。
「またネットで善戦マンって書かれちゃうかな」
「もう書かれてます。『【悲報】クダンロード、GⅠ4戦連続3着ならず』。2着になったのに失礼ですね」
早いな。
こっちはまだ気持ちの整理もついていないのに。
「ロードも中野騎手も頑張ってるんだけどなあ」
クダンロードの瞳は、今も強く輝いている。
それなのに、届かない。
◇◇◇
クダンロードは明けて6歳。
大阪杯2着。
宝塚記念5着。
天皇賞(秋)は4着。
そして、クダンロードは今年も有馬記念へやってきた。
パドックを周回する馬たちを見ても、以前のように1頭ずつ瞳を見比べることはなかった。
クダンロードの輝きなら、もうわかっている。
正装した中山厩務員がクダンロードを曳いている。
冬の時期にしては毛艶もいい。落ち着いていて、歩様にも活気があった。
今日は、俺が招待した大司兄さんと智也兄さんも一緒だ。
「クダンロードは人気あるよな。横断幕も何枚も出ている」
「そりゃ重賞勝ち馬だからね」
俺としては、ごく当たり前の返事をしたつもりだった。
「違う。来る途中、兄貴とグッズショップも覗いたが、GⅠを勝っていないのにぬいぐるみが売られていた」
「ウチの社内報でも取り上げられていただろう?熱心な社員たちが今日も応援に駆けつけ……ああ、そこにいるな」
大司兄さんが示した先では、見覚えのある何人かがパドックを見ていた。
「ありがたいことに厩舎にファンレターやプレゼントがたくさん届いています。『どうかGⅠを勝ってくれ』『勝つまで競馬を止められない』なんてメッセージもありました」
木場先生の話を聞きながら、大司兄さんはそのままパドックに詰めかけた人々を眺めていた。
「凄いことだよな。こんなに多くの人が年の瀬に身銭を切って応援している」
俺は答えず、もう一度クダンロードを見た。
◇◇◇
有馬記念、クダンロードは4着に敗れた。
最後まで脚を伸ばしたが、今年もGⅠのタイトルを手にすることはできなかった。
それでも、スタンドからは何度もクダンロードの名前が聞こえてきた。
「クダンロード!」
「ロード、よく走ったぞ!」
俺はしばらく、その声を聞いていた。




