第8話《ミッドナイトサンシャイン》
第8話 ミッドナイトサンシャイン
ケイがチャイナホワイトといっしょに持ってきたのは、絵柄の違う二種類のLSD。
成分が染み込んだ縦長の1枚の紙のシートには、切り取り線がついている。
それを効きを試しながら1枚ずつ使う。
切り取り線と言っても雑なもんだからな。
ハサミでキレイに切り取る、マメなヤツもいるんだろうけどさ。
こんなもんは、テキトーに千切って食えばいい。
一つは太陽の絵柄。
もう一つが黒白に塗り分けられた星形5角形のマーク。
五芒星じゃんw
見た目はこっちの方がミステリアス。
まずはいかにもって感じの、太陽の絵柄から試してみる。
オレンジサンシャインて名前なんだそうだ。
ーー
オレ「へー。これがオレンジサンシャインか,」
オレはシートから切り取ったLに目を近づけて見てた。
ケイ「ケイ「41。これ一気に食うなよ。」
オレ「何で?」
ケイ「初めてだからだよ。4分の1で効いちゃうヤツもいるからさ。オレは半分から食って足した。」
オレ「結局1枚じゃん。」
ケイ「まあそうだけどな。Lはよー。個人差るから。ピーキー過ぎて錯乱するヤツもいるんだよ。」
オレ「ピーキー?金田のバイクだ!乗りてえー!」
サル「エンジンじゃなくてモーター。前後輪駆動。あのマンガって2020年だっけ?オレたちゃジジイだw」
ケイ「AKIRAの話か。あん中にもヤク出てきたよな。」
オレ「あのカプセル、何なんだろうな?2020年のドラッグだろ?」
いつものように話はスイスイと滑らかに脱線していく。
当然、オレもその流れにいるわけだ。
《ペロッといっちゃお。》
オレはみんなに気づかれないようLSDを舌の上に置いた。
ーー
ジュン「ねえ。何の話してるかわかんないよー。バイクとかアキラとかさー。」
ケイ「41に聞けよ。オレは安全なLの服用方法を教えてだけだし。」
ケイがオレに顔を向けた。
オレ「(*≧ω≦)…。」
ケイ「ん?」
オレ「(*≧ω≦)…。」
ケイ「あ!お前、いつ食った?口をあーんしてみろ。」
オレ「あーん。へへへーw」
オレの舌の上にはすでに、ふにゃふにゃに溶けた紙が乗っていた。味を確かめようと、上顎や前歯に当てて動かしてたからな。ほぼ原型はなし。
結局、味はなし。
紙の味だけだ。
ケイ「こいつ一枚丸ごと行ったのか。何も言うこと聞かねえなーw。」
オレ「はんもあひひひねー。」
《だらー》
オレ「やべっ!よだれ垂れたー。」
サル「は?」
オレ「何も味しねえっていったの!あー。よだれもったいないー。」
ケイ「(*≧∀≦)それで?」
オレ「(*≧ω≦)bバッチリだよ!」
そう言ったオレの世界は、どこかぎこちなく他人行儀で突き放された空間。だが、今にも何かが動き出しそうな不穏を秘めている。
ーー
変化はすぐ感じ取れた。
舌の上に乗せて30分もたたないうちに、目の前のモノがキラキラ見えてきた。
つまらないテレビも3Dのようにイキイキと映る。
いつもの8畳の洋間。うちの応接間だ。
家具の配置も仲間の座る場所も変わらない。
だが何か距離感が違う。
手を伸ばせば触れるのに、遠ざかるような感覚。
かと思えば、テレビは映画館のような巨大化スクリーンに見えてくる。
隣に座る彼女や仲間の顔も。
オレ《よく見ると、みんなこんな顔してたのか…。》
屈託のない世界。
距離を置いてるのは自分なのか…。
ズームとフォーカス。
露出やフィルターが切り替わる。
モノも人も、意識によって意味さえ変容するような感覚。
オレ《目にこんな使い方あるんだ…。何でシラフの時にできないんだろう?》
回りが遠ざかる。
オレ《ん?これじゃいかんな。》
オレ《(*≧ω≦)まあ、いっか!》
ーー
オレ「…こりゃスゲー!ケイ!外行こうぜ。オレ運転する。ちょっとドライブ行こう!」
サル「おい。41、マジかよ。Lで運転はけっこう・・」
サルの言葉を遮るようにオレは同意を求める。
今!って直感で動くんだ。モタモタしてたら楽しさのチャンス逃す。前髪の神様に従えだ。
オレ「いーくーの!なっ。ジュン。ドライブ行きたいだろ?」
ケイ「(´・ω・`; )出たよ。わがまま41号。」
ジュン「行く!行きたーい。これヤバっ!」
ケイ「(*≧∀≦)んじゃ、行くかー。」
サル「事故っても知らねーぞw」
オレ「へー。じゃあサルは留守番する?」
サル「行くに決まってるだろ。ここで心配しながら待ってたらバッドになるわ!」
オレ「じゃあ決定。職質とか検問やだから、飲み込むか、すぐ捨てられるようにジョイントだけ持ってこう」
ジュン「はーい。準備、準備ぃー!」
ケイ「出掛ける前に、何かキメてこうぜ?」
オレ「はーい。準備、準備ぃー!ケイも口だけじゃなくて手も動かす!」
ケイ「イラっとするなー。」
《プッハー》
騒ぎを抑えるようなマリファナのいい匂いが広がる。
サルが先に一服してた。
サル「ほら。お前らも一服しろよ。このL効きすぎて、はしゃぎすぎる。特にお前な。」
サルがパイプを差し出した。
オレ「(*≧∀≦)ごもっともー。」
ーー
というわけで、オレの愛車に乗り込み出発。
1973年式。フルサイズのアメ車。
パワステも、スピードと関係なく気まぐれに、くるくる回る。
そのくせに、200キロくらい出るから押さえる方が大変だ。
バンパーだってぶつかるの前提。
日本みたいにバンパー擦ったくらいで騒がない。
何かの映画で見たんだ。
主人公がさ、路駐から出る時、隙間ねえからって前と後ろの車に、フツーにぶつけて発進してるの。
文化の違い。
左ハンドル慣れるより、こんなん乗り回してるアメリカ人って何なの?って思ったよ。
ーー
《ブロォオォーーーーン》
いい音だ。
V8のシリンダー一発一発が鳴ってるように感じる。LSDは耳まで良くなるのかな。
家のそばの青梅街道を新宿方向に真っ直ぐ向かう。
ガキの頃、チャリで漕いだ道。
チャリと車。
夜と昼。
ガキと大人。
10年前と今。
見える景色も変わっていく。
シラフの景色とヤク接種中。
ジャンキーやってなかったら、どう見えてたのか。
わかるわけない。
だって、やってんだもん。
オレ《あ。やべー。》
また、どっか行ってたみたい。
Lによる思考加速状態。
オレ《誰かに気づかれてたら怒られてた。あぶねー》
みんなの命のハンドル握ってるんだから、意識飛ばしてる場合じゃない。
浸って眺めてた滲んだ景色は、サイケデリックな動きを取り戻した。
何、考えてたのかもぶっ飛ぶ。
そしてーー
《グサグサグサグサ!》
信号機に街灯に店のネオン。
目に写る全ての光が、レーザービームみたいに真っ直ぐオレのカラダに突き刺さる。
一人「(*≧∀≦)STAR WARS!」
こりゃいいや。何の攻撃なのよコレw
ーー
ケイ「41。お前だけじゃねえ。オレにも光がぶっ刺さってる。STAR WARSってそれだろ。」
サル「ヤベー!ヤベー!」
オレ「何だよサルー。おまえ嫌がってたくせに一番はしゃいでるじゃんw」
後部座席にサルとケイ。
ジュンはオレの隣。
景色に見とれてる。
オレ「じゃあこのまま首都高乗ろう!」
ジュン「行け!ジュピタン!」
ケイ「どこ行くんだジュピタン?」
オレ「ケイ。それ以上ジュピタンて呼んだらわざと事故るぞ」
冗談に苛つきを混ぜてケイに告げる。
LSDやってると怒りんぼになるのかな。
ケイ「怒るなよ41。面白いだけだってばw」
オレ「わかってるよー。でも、お前らにはいつも通りに呼ばれたいんだってば。調子狂う。」
そう言われちゃ返す言葉もない。
普段のオレの方がふざけまくってるからね。
変な負い目だw
ーー
オレ「ほらジュン。これ」
オレはジュンにポケットからくしゃくしゃの1000円札渡す。
料金所の窓口は右側。
左ハンドルはこれがめんどくさい。
首都高新宿ゲート。
乗ったけどどこまで行こう?
でも上がって正解。
新宿の夜景の光がキラキラ。
未来都市みたく見える。
ジュン「ねえ。どこ行くの?」
ケイ「こいつがそこまで考えてるわけねーだろw 飽きたら帰るだけだよ。つかマジ、このL効くな。やっぱLは仲間とワイワイ。パーティードラッグだねー。」
オレ「サル。首都高乗ったから、さっきのジョイント回そう。」
サル「おっけー。今火をつけっから」
《チッ!》
100円ライターの音。
いいね。火がついた。
サル「プハー!うめー!」
後ろからさっそくハッパのいい匂いがしてきた。
これは、ハワイからやって来た《コナゴールド》って名前らしい。
いわゆる《ネームド》
名前は看板。色と意味を背負う。
名前に負けない性能を求む。
とにかくヤクは効けば効くほどいい。
ーー
さっそく前にジョイントが回ってきた。
ジュンに手渡される。
オレ「ジュン。オマエ吸ったら、オレにショットガン入れてくれ。鼻に」
ジュン「わかったー」
ジュンも一服。
ジュンがオレの肩に左を回す。
顔が近づいてきた。
そしてーー。
ジュン「ん。」
ジュンがジョイントの火口を口に含み、吸い口から煙を吹き出す。
《スーーーー》
一筋の煙が弧を描いて、オレの右の鼻に吸い込まれていく。
タバコみたいにいちいち咥える必要もない。
信じて吸い込むだけ。
誰が考えたんたか知らんが、ヤクの所作はいちいち利にかなっててカッコいいよな。
ーー
オレ「よっしゃー!いい感じぁ。ちょっと真面目に運転するぞー」
LSDで加速した思考はダウナーで落ち着きを取り戻す。
ジャンキーのリラックスは説明不要。
サル「おまえの真面目は怖いから勘弁しろよw」
オレ「(*≧ω≦)えへへ。」
《グンッ!》
一瞬、車のリアが沈み、背もたれにGがかかる。
一気にアクセルを踏み込む。
フルサイズのアメ車だと首都高の一車線の幅いっぱいだ。
今まではゆったりクルージング。
加速した勢いのままスライドするように、追い越し車線に入る。
右側は壁だからな。
運転席のある左側だけ気をつけとけばいい。
ケイ「さすがカトラス!」
オレ「オレをほめろよなー。気持ちいいなー。」
さらにアクセルを踏み込んだ。
ーーその時。
オレたちの走る道の前が下に直角に曲がった。
《フッ…》
《ゴワアァアアーーー!》
ジェットコースター?
無重力ーー。
シートからケツが浮いた気がした。
オレ《えっ!?》
ーー
オレ「(*≧∀≦)うおっ!おーちーるー!ゲラゲラゲラゲラ!」
オレは笑いながらも落下に備えてハンドルを強く握る。
ジェットコースターのてっぺんから落とされた時の、息が止まり内臓が浮くような感覚。
ジュン「キャー!」
サル「マジかよっ!」
ケイ「道が!」
ーー
《ブロォオォーーーーン》
オレ「あれ?」
メーターを見る。
速度は70マイルくらいか。
さすがにアクセル戻したんだな…。
道は平坦に戻っていた。
ーー
オレ「なあ…。今の見た?道が急に崖になったんだけど」
ジュン「アタシも見た。…急にストーンって。」
サル「え?そんなことある?」
ケイ「いや、オレも見たわ」
それを証明するのように全員落下の衝撃に備えて、シートやら手すり、あちこちに手を伸ばして捕まっていた。
一瞬の沈黙。
車のカーステから、クルセイダースの《ストリートライフ》が流れている。
誰が入れたのこの選曲。
このタイミングで流れるんだw
狂気の沈黙を埋めるには場違いすぎる。
神様からの「楽しかったでしょ? 騒いだ後はしっとりしなさい」ってメッセージかな。
ーー
オレ「プッw」
何か込み上げてきて吹き出しちゃった。
そして全員で爆笑。
あははははは!
ゲラゲラゲラゲラ!
ーー
オレ「マジかよ。全員オレと同じ幻覚見ちゃうわけ?これじゃUFOの複数目撃談じゃん」
ケイ「発表できねえやつw」
サル「集団催眠的な?w」
ジュン「怖かったけど面白かったー。」
オレ「面白かったなら別にいいじゃん。集団幻覚なんて思い出なるしーw」
それに回りの景色はまだまだサイケ色。
道路だってうねってるし、さっき通りすぎたビルはねじれてた。
《オレンジサンシャイン》
夜をサイケに照らして、道路も建物も踊らせるオレンジの太陽か。
気に入ったコレ。
もう、しばらくこの異空間楽しんで帰ろう。
これはヤクに依存してるんじゃない。
不思議がオレに依存させてるんだって、ふと思った。
何かに引っ張られて行く。
「どこまで制御できる?」って試されてるような。
このまま「誰か」の思い通りに流されて行くのかな。
オレ《しばらく身を任せてみるよ。わかるまで。》
ーー
オレ「ねえ。もう一回、ハッパ回そうよ。オレ疲れた。」
サル「お前のせいでなー。」
ケイ「笑い疲れw」
ジュン「ねえ。アタシ喉カラカラ。喉乾いたー。」
オレ「じゃあ、次の出口で降りて、自販機でも探そう。」
ケイ「どこよ?」
オレ「銀座?」
ケイ「バカなの?」
ジュン「( ・`ω・´)次じゃない!」
オレ「(*≧ω≦)ハイハイ」




