第9話《タッチド・ア・ファンタジー&ブレスト》
第9話《タッチド・ア・ファンタジー&ブレスト》
ここら東京N23区。41の家。
オレたちは《オレンジサンシャイン》というLSDをキメた、バカ騒ぎドライブから帰ってきた。
LSDはピークを過ぎると落ちていく。
それだけ、脳みそも疲れるんだろう。
とりあえず、帰ってきてから、いつもの通りハッパでクールダウン。
そして、オレたちは今、もう一枚の《五芒星》の絵柄のLSDを試している。
ミステリアスな星形。
宇宙の幻覚でも見せてくれるのかな。
期待は叶ってもいいし、裏切られてもいい。
面白い体験をさせてくれるならね。
要は効けばいいんだ。
オレはオレンジサンシャインの時のように、ペロッと1枚食べてみた。
ーーそして、その期待は想像を越える。
ーー
オレ《目の前の空間が滲む…。》
目の前に浮かんでる、これは何だ?
淡く虹色に輝く球体。
いや、…穴?
空間の裂目が見えてるのか?
手を伸ばして触ろうとすると、すり抜ける。
《さっ、さっ、さっ》
虫を払うみたいに手を振るけど消えない。
オレ《触れない…》
虹色の縞模様が、内と外で蠢いている。
オレ《ん?何だ?何かいるぞ?》
異空間のような球体の中に、小さな粒が現れては消えていた。
オレ《こいつら。…ペアなのか。》
つねにペアで現れて、くっついて、消えていく。
動きが早い。
何かに似てる。
――あ、小学生の時に遊んだクラッカーボールだ。
紐で繋がった玉を上下に振って、カチカチ当てるやつ。
アザだらけになるから嫌いだった、あのオモチャ。
でも、これはもっと小さくて、音もチコーン、チコーンって感じ?
オレ《……ん、かすかに音、鳴ってる?》
音をイメージしたら、そういう風に聞こえてきた。
《チコーン!…パッ!…チコーン!…。》
くっつくと消える…。
離れるときにチコーンって鳴る?
そしてパッと表れる。
リズム?
でも不規則だよな?
現れる位地も違うし。
意思を持って遊んでるのか…?
生き物?
幻覚の中に住んでる生き物…。
ーーーー
オレ「ねえ」
回りに声をかけてみる。
オレ「ねえってば!」
返事をくれたのは、ケイだけだった。
ケイ「41、どーした? バッド入ってないか?」
オレ「全然大丈夫。それよりも、《これ》見える?」
ケイ「これって何だよ?つーか、この《L》さっきのよりヤバイぞ。落ちるなよ?見ろよ、サルなんてバッドってるw」
ケイが笑いながら指差す方向には、体育座りで顔を埋めたサルの姿。
オレ「バッドって?」
ケイ「Lはさ、バッドトリップすんの。さっきの首都高とかヤバかったろ? あーいうの見た後に、反動で気分落ちるやつ。」
オレ「これ、ケイが持ってきたヤツじゃん。さっきのとは違う絵だけど、別物なの?」
ケイ「違う。さっきのはオレンジサンシャイン。太陽の絵柄。今のは星。見たろ、五芒星のマーク」
オレ「確かに」
ケイ「つーかさー、41。オマエ半分から試せって言ったのに、いきなり1枚フルでキメやがってw 大丈夫かよ?」
オレ「(*≧ω≦)オレ、頭は頑丈だからへーき」
ケイ「ハイハイ。どーせまたなんか見えてんだろ?今度は何?」
オレ「これ、すごいんだよ。目の前にチコーンチコーンって、ペアで現れては消える…何ていうか、わからんけどさ……」
ケイ「お前、首都高で崖から落ちたって叫んだ時も、スゲーうるさかったぞw 全員同じ幻覚見る方が珍しいからな。あれはビビったけどよ」
ーー
珍しい?そうなの?
ケイの言葉は乾いて聞こえた。
……いや、それよりも、今見えてるこれの方が気になる。
手を伸ばしてもすり抜ける。
じゃあ、突いてみたら?
そーっと指を差し出して球体に触れる。
――チコーン、チコーン。
オレ《あ、少しだけ感触があった気がする。》
粒たちが目の前で踊っている。
くっついて消える。
消えるとき、縞模様が一瞬だけ縮む。
オレ「ホント、生き物みたいだ……。よし、もう一回」
人差し指で光の粒を狙う。
こういうのはさ、流れ星みたいに願いを込めて…。
オレ《願いか…。叶わない願いでもいいのかな…》
現れる瞬間、光る。
それを狙って――
オレ《ここだ!頼むっ!いっけー!》
《チッコォオーーーーーーーン!》
幻覚から音が鳴り響いた。
ーー
オレ「やった!触れた!今、触れたぞ!」
指先には何の感触もない。
ただ「ちょん」て触れただけ。
だけど、さっきより少し大きく音が鳴った。
2つだった粒が、3つに分かれてる。
ビビッと、言語化できない閃きが脳を走る。
ーー
オレ「ケイ!これ、アインシュタインの時空間次元方程式だ!オレ今、なんか宇宙わかったかも!」
ケイ「(´・ω・`; )はあ?アインシュタインは相対性理論だろバーカ」
オレ「え?オレ、今なんて言った?」
ケイ「時空間なんとか方程式とか叫んでたぞ」
オレ「(*≧∀≦)あははは!全然ちげーわw でもオレ、たぶん今、アインシュタインが見てたモノ、見えてるかも!」
ケイ「そーかそーか、よかったなー。ちゃんと飛んでんなら安心だw バッドじゃなきゃな」
オレ「さっきの首都高の崖は全員で見たのに、これは見えないの?」
ケイ「見えねーって。後で説明しな。オレも今、忙しい」
ケイも何かを見てる。視線を動かして、何かを追ってる。
個々の幻覚の世界。
オレは異空間。
サルはバッドに入って反省中。
ケイは…。後から教えてもらおう。
ところで、ジュンは?
オレ《隣に……。いた…よな?》
ずーっといたのに、見えてから現れた気分。
視界に入ってないとき消えてたなんて、ないよな
ジュンもオレみたいに、何かに手を出してる。
何か見えてんだな。
ーー
オレ「ジュン!何、見えてんの?星のやつ、面白いよな!」
ジュン「……だよねw」
そのつまんねー反応、何なんだよ
オレの彼女のくせに、そんなテンションかよ。
――いたずら心がわいてきた。
ケイもサルも自分の世界に入ってる。
オレ《(*≧ω≦)いたずらしちゃお。》
オレはそーっとジュンの胸に手を伸ばす。
……(´・ω・`; )無反応。
Tシャツの下に手を入れて、ブラの下から直接触る。
やわらかい。
でも、やっぱり反応はない。
オレ「(´・ω・`; )なにやってんだオレ」
この状態なら、こいつ誰に触られても気づかないんじゃ?
……そんな指先が「現実」と「何かの境界」に触れた気がした。
ジュンは、口を動かさず、笑ってこう言った。
ジュン「いいよー。ジュピタン。おっぱい触ってても……」
オレ《(´・ω・`; )……はぁ。》
オレは、何かを確認したかったんだろうな。
触ってるのがオレだって、ちゃんとわかってる?
ーー
オレ《( ・`ω・´)幻覚つつけたの誰も聞いてくれないし!誰もかまってくれないし!》
《あれ、何だっんだろな?…何も変わってねえよな。》
誰も気づかない。
だが大変なイベントを起こしたような気もする。
オレ「……まあ、いっか。」
みんなが現実に返ってくるまで、待てばいい。
変な安心感が生まれて、ジュンへのいたずらは終了。
さて。みんながLから帰ってくるまで、どうするか。
ベースを手に取って、流れてる音楽に合わせて適当に弾く。
……スライか。ちょっと気分と違う。
もっと派手なのがいい。
ステレオ周りに散らばってるカセットを漁って――
ーーあった。
ブレッカーブラザーズバンド。
このベーシストに憧れて、オレはベースを始めたんだ。
ウィル・リー。
ド白人で、長髪、イケメン。
腕利きのスタジオミュージシャン。
最初聞いたとき、絶対黒人が弾いてると思った。
――
オレ「さてと。ベースでも弾くか。」
みんなが戻るまで、ベースの稽古だ。
せっかくぶっ飛んでるんだ。
今こそ、ぶっ飛んだベースを弾く練習しよう。
薬物で神の音に触れたミュージシャンたち。
神に愛され連れていかれた人たちだ。
ジミヘンたちも、たぶんそうしてきたんだ。
小さく心の中で唱える。
オレ「ヤクの神様。ベースの神様。あなたの前では、私はストイックです。気づいてもらえるよう、精進します。
オレ「(*≧ω≦)……あ、すいません。その前にコーク決めます」
ダメなやつーw




