第7話《グッドモーニングゾンビたち》
第7話 グッドモーニングゾンビたち
ここは東京N23区。
新宿ダウンタウン西側の住宅街。
壁に蔦が絡まる一軒家。
8畳の洋間。TVの画面は何かの通販番組を映し、囁くほどの音量でステレオから音が流れてる。
ループしてるのはMJの「オフザウォール」
部屋の中に、ゾンビ状態の四人が寝ていた。
ーー
ーー《起きにゃよ…》
ーーーー
オレ「……ん。」
オレ「……生きてるなオレ。ここは…現実だな」
確かな生にホッとするオレ。
明晰夢を見た後の違和感。
ホントに目が覚めたんだよな?
これ現実でいいんだよな?
さっきまで知らない街をオレは裸足で歩いてて・・声が聞こえて……。
あー。消えていく…。
夢の記憶が霞む。
いつも明晰夢は残るのに…。
何かの声で起こされた気がする。
…確か。
オレ「…起きにゃよ。んん!?……起きにゃよ?」
夢の記憶が言語化できない、
不穏なイメージ。
ぼんやりとした怖さと不思議さを残し、夢の記憶は消えていった。
オレ「ふう…。」
ーー
オレはソファに沈みこみ、うなだれたまま寝てた。
目を覚ましたオレの目に最初に写ったものは、きれいな木目が見えるシースルーレッドのベース。
オレの愛機「moon」
また、抱き抱えたまま寝ちゃってた。
というより「落ちてた」
まだ朦朧としてるけど、状況はわかる。
今、オレが目にしてるのは遊びの残骸だ。
2日ぶっ通しで遊び続けて、最後は全員ゾンビになって終わったわけだ。
最初の生還者がオレ。
最後に打ったチャイナホワイトに全員やられた。
シ○ブ中でもあるまいし寝ないで、丸二日遊んでりゃ誰でもそうなる。
とことん笑って遊びまくって寝た。
そんだけだ。
オレの右肩にジュンがもたれかかって寝てる。
ーーオレの彼女。
そして、オレの左腕にはポンプが刺さったまま。
ジュンより先に起きれてよかった。
こんなザマ見られたくないよ。
顔をあげると目の前には、テーブルを挟んだソファに二人のゾンビ。
こいつらもポンプ刺しっぱなしで寝てる。
誰も動かない止まった世界。
オレの目に映るのは奥行きのない二次元の景色。
まだ朦朧とした意識の中で、ふざけた思考が勝手に加速し始める。
そして頭の中で呟く……。
オレ《えーと、ゾンビいーち、ゾンビにー、ゾンビさーん》
オレ「あれ?ゾンビさん?3番目だと丁寧な言い方になっちゃったw。」
続けよう。大発見かもしれない。
オレ「ゾンビがしー。…ふむ。四人だと死人。やっぱりゾンビじゃんw」
妙に納得した。
思考実験終了かな。
本日も晴天なり。オレの頭も異常なし。
くだらねえジョークがさらっと頭に浮かぶ。
笑えねえけど面白い。
ーーオレはいつもこうだな。
人の話聞いててもテレビ見てても、音楽聞いてても、閃きのように、ふざけた思考回路が.最優先に動き出す。
だから「41は人の話を聞いてない」ってよく言われるんだ。
何言ってんだよ。自分だって困ってる。
このせいで、テレビや映画見てても、途中で話がわからなくなっちゃうし。
けして注意力散漫ではない。
真剣に聞こうってスイッチが入ってれば大丈夫。
ただボーッとしてると、勝手にふざけた方向に思考が飛んでっちゃうだけだ。たぶん何光年も先まで。
きっと、そういう脳ミソの作りなんだろ。
ーー
前のソファーでうなだれて寝てるのが「サル」
横たわってるのが「ケイ」
二人ともオレより年上の友達。
彼女も含めてここにいるのは《生粋》の薬物愛好家たち。
知り合ったのは高校卒業してから。
知り合い方も知り合った順番もバラバラだけどさ。
みんなガキの頃にアンパンから入って、ハッパ、コーク、Lにヘロと、落ちこぼれることなく、堕落の階段のぼってきたエリートジャンキーたち。
そう。たくさんの友達のなかでも「仲間」と呼べる数少ないやつらだ。
絶対売らないし売れない。
そういう作りの「絆」になってる。
マブダチだよ。
ーー
オレ「えーと……どこから始めようか?」
とにかく、からだのあちこちが痛い。
うなだれてたから首は痛えし、ベース抱えてたから胸も太股も痛え。ゾンビが人間に戻った証。痛いのは生きてる証拠だ。
オレ「…まず、ポンプ抜かないと」
左肘の内側にぶら下がってる注射器。
オレ「針折れてないよな?」
そーっと抜こうとしたけど、もう血が固まってて抜けない。
オレ「えい!」
一気に引っこ抜いた。
よし、これで両手使える。
まず、ジュンからだ。
オレ「おい。ジュン。ジュンってば!起きろよ」
ジュン「……うーん」
ジュンは気だるそうな声で反応したけど《返事》じゃない。ーーダメだ。
とりあえず反対側に倒しとこう。
オレ「おらよっと。」
右肩で軽く押したらジュンは自分で寝転がっていった。
オレとジュンが座ってるのは三人掛けのソファー。
オレはいつも左端に座る。
タッパ180くらいのオレが横になって寝れるサイズ。
横浜で輸入家具の商売やってる友達から、安く譲ってもらった。
中古だけど本革張り。
元々、本牧の米軍の居留地の家にあったものらしい。
フッカフカの白いソファー。
お気に入り。
うちの家宝だ。
オレ「オマエもここにいな」
オレはストラップを外し《moon》をスタンドに立て掛ける。
これでオレに引っ付いてたものは全部取れた。
動けるようになったけど、体がバキバキだよ。
こいつら起こす前にまずオレがしっかりしないとな。
テーブルの上のティッシュを1枚取って、消毒用のアルコールに浸す。
オレは、ポンプが刺さってた左肘の内側を拭いた。
もう血もとっくに固まって止まってる。
今さら消毒もクソもない。
乾いた血の汚れ落としてるだけだ。
このポンプも血が固まっちゃって使い物にならないな。
オレ「さーてと」
体の拘束から解放されたけど意識は、まだ半分夢の中。
オレ「ホントにみんなゾンビみたいになってるなー。ゾンビ映画のワンシーンみたいw」
見慣れた景色。これがオレの愛しい日常だ。
オレ「(*≧ω≦)マジ死んでなきゃいいけど」
まあ一服してから起こしても今さら事態は変わらんだろ。息もしてるみたい。もう少しほっとこ。
オレはタバコに火をつけながら、テーブルの上に寝かされた「鏡」を手元に寄せる。
鏡というが実際は建築資材の見本。
表面がガラスコーティングされた黒い下地のタイル。
模様は銀河のような星空を映し出してる。
アルコールを浸したティッシュで表面についた指紋や汚れを、きれいに拭きあげる。
オレ「これとこれと、これとこれね。」
オレは小さなポーチの中からヤク一式取り出した。
オレ「えー。こんなにやったっけ?」
透明なパケに入ってる粉たち。
アルミホイルに包まれた草たち。
どれもこれも劇的に減ってる。
寝てるうちに、みんなどこかに出掛けちゃったのかな?
ーーそんなわけない。
オレ「(*≧∀≦)やりすぎだろw」
ーー
入った時はいつもこうだ。お祭り騒ぎだよ。
最初にドカドカやって次の入荷まで節約ってパターン。
昨日、いや、一昨日の夜、ケイがチャイナホワイト入るからって、オレんちに集合した。
他にもみんなそれぞれ持ち寄って、ケイが持ってくるの待ってたんだ。
ケイが持ってきたチャイナホワイトは極上のヘロ。
それぞれ買う分をケイに金払って分けあった。
他にもみんなが新しく手に入れたハッパだの、チョコだの、コークだのを売ったり買ったり。
まさに「ブツブツ」交換w
さっそくチャイナホワイト決めたら、これがもうヤバくてさ。これで、終わっちゃもったいないって、コークで目を覚ましてハッパ決めて夜の街に出かけた。
悪い仲間が集まるいつものカフェでバカ話。
オレが持ってたコーラのグラス落としたら、それに釣られてサルとケイまで落としてやんのw
お店のヤツも呆れてた。小学生のバス旅行かよって。
一人吐いたら、我慢してたヤツまで次々吐く。
ちょっと違うけどビックリが連鎖したみたいw
カフェのみなさん、いつもすいません。
ーー
家に帰ってきてから、スネークマンショー聞いてバカ笑いして、「glass」(カードゲーム)やって、性格悪いだの本性見ただの罵りあってバカ笑い。
オレ「…楽しかったなー」
ーーいや、バカの思い出に浸ってる場合じゃない。
一番先に目覚めたヤツは、レスキューの役割があるんだ。
パケからストローで《白い粉》をすくい鏡に置く。
オレ「四人分。多いかな?」
出した量よりカミソリで刻むと増えるから。
まあ、吸いきれなかったら追っかけて入れればいい。
《サクサク、サクサク》
純白の粉をカミソリで刻む。
この刻んでラインを作る作業が楽しい。
ここを雑にやって粒子が荒すぎると、鼻が痛いし風味も落ちる。
これも最初は下手だった。
刻むのはともかくラインを作るのが職人技。
オレ「こんくらいでいいだろ」
カミソリでコークを揃えながら、均等に四本のきれいなラインを作った。
まずオレから。
鼻にストロー突っ込んで一気に吸い上げる。
鼻孔の奥にツンとくる痛みと苦味。
そして一気にシャープになる脳。
雲間から太陽が出てきた気分。
外の天気は知らんがオレのアタマは快晴だ。
オレ「んーっ。よしっ!」
ジャンキーの雄叫びは平凡な気合い。
それでもーー。
オレ「さあ、目覚めよゾンビたち。」
オレは立ち上がって一人一人カラダを揺すって起こす。
オレ「サル!サルってば!」
サル「……おー。41。。」
よし、サル完了。
オレ「ケイ!ケイ起きろよ!」
ケイ「…うーん。ヤベー。」
よし、ケイも起きた。
オレ「ジュン。ジュンってば。大丈夫か?起きな」
ジュン「…うん」
よし、とりあえず、みんな起きたな。
さあ、グッドモーニング!ゾンビたち。
オレ「(*≧∀≦)/みんなー。朝ご飯できたわよー」
ケイ「うい…。」
サル「んー。」
ジュン「はーい…。」
みんなそれぞれ、ポンプ抜くなり消毒を終え、何も指示してないのにテーブルのコークに群がっていく。
本能的に人を食うかわりにヤクを食う。
ホントにゾンビだw
ーー
ジュン「おはよう、ジュピタン」
オレ「ジュピタンやめろよ。41って呼び捨てでいいから。」
コークで人間に戻ったサルとケイに笑われる。
サル「おはよう。ジュピタンw」
ケイ「だから、何で41がジュピタンよwww」
オレ「ジュンー。こいつらの前で、その呼び方やめてくんない?」
ジュン「だってあんたのライブ初めて見た時、自分で名乗ってたじゃんw こんちわー!ベースのジュピター41でーす!ってw」
オレ「あれは、その場のノリでしょ!説明したじゃん。たまたま着てた木星柄のTシャツ見て、オレの自己紹介それにしろよって仲間とふざけて決めただけじゃん!勘弁しろよー」
ジュン「だぁってー。」
ジュンは不満そうな顔をする。
サル「コーク、サンキュー。目が覚めたよジュピタン!」
ケイ「スカッとさわやかジュピタンコーク!」
オレ「サルー。ケイもー。ジュン紹介した時、説明しただろー。お前らは今まで通り41って呼べ!」
サル「了解ジュピタン!」
オレ「あー。木星模様のTシャツなんか買わなきゃよかった」
ジュン「えー。あれ似合ってたよー。ライブの時カッコよかったじゃん」
ジュンがオレをかばうように言う。
でも、そこじゃねえんだよ。
オレ「頼むから、もうその話題から離れましょ。ジュピタンのお願いw」
《ゲラゲラゲラゲラ》
こんなんでみんなで笑えるんなら、どーでもいいや。
でもしばらく、いじられるなコレ。
サルとケイめ。
年上だけどオレよりジャンキーランキング、下のくせに、ここぞとばかりにマウント取ってきやがる。
これ以上いじったらもう一度ゾンビにして黙らせればいい。
とにかくグッドモーニングだ。
また楽しい1日が始まる。
オレ「じゃあ、どっか行こうか?」




