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第86話《原初の粒vs新型の神編 最終章 ⑥心象風景ーー偽りを排除せよ》

死の淵から戻った41。だがそれは、彼自身が知らない「再構築」の結果だった。

破壊された玄関の向こうに広がる、見知らぬ景色。そして、自分と同じ顔をした敵と、41を守ろうとする三柱の悪魔たちの戦い。

夢なのか、現実なのか——境界はどんどん曖昧になっていく。

41がたどり着くのは、ずっと心の奥にしまっていた、ある景色。

そして、超次元の彼方では、ついに最後の対決の火蓋が切られようとしていた。

第86話《原初の粒vs新型の神編 最終章 ⑥心象風景ーー偽りを排除せよ》


廊下には、チャカ・カーンの『アイ・フィール・フォー・ユー』が鳴り響いている。


ファンキーなリズムと、80年代特有のデジタルなスクラッチ音。

その音の粒が、現実の空気を震わせ、色彩を塗り替えていく。


ーーーー


死から甦った41は廊下に座り込み、かみかみと玄関の方を見ている。


正確には「甦った」のではない。


ガンマとデルタから作られた41の《粒》の魂は一度崩壊している。


41の魂はガンマとデルタという姿を見せぬ神たちの《人は神になれるのか》の実験体の一つ。


数万にも及ぶ実験体の中で唯一、13回のリサイクルに耐えた《粒》の魂であった。

ただ神へ覚醒することなく生を全うする魂。

他の実験体は、発狂か堕落での死を迎え、あるいは目覚めぬまま魂は崩壊する。


41以外の魂はリサイクルに回ることはなかった。


そして、この41の魂には特別な設計が施してあった。


それは「願いが叶うと死ぬ」という絶望設計。


ガンマとデルタは、リサイクルしか能のない41の《粒》をオモチャのように愛でていたのである。


ガンマとデルタは41のリサイクルを今回で終わらせ、耐久性のみ次世代モデルへ生かそうと考えていた。


ーーだが、それは、ねこにゃんとぴょこにゃんに阻まれる。


友人である41の魂をリサイクルされるくらいならと、ねこにゃんとぴょこにゃんはエスネコに変身し41の魂を食わせたのだ。


これは二柱の賭けでもあった。

ーーそして、その賭けは必然を生んだのだった。


ーーーー

今、41に宿る粒の魄と肉体はエスネコの力で再構築されたものだ。


粒は崩壊し、41は一度死んでいる。

記憶も全て復元された本人は、それを知ることはない。




ーー


ここは東京N区。41の家。


玄関は破壊され外には月光の夜の砂漠が広がっている。

かろうじて残ったフローリングの廊下で、両足を広げ手を背中がわにつき、へたり込むように41は座っていた。

隣には、かみかみが箱座りしている。


ーー


オレ「なあ、かみかみ。」


かみかみ「なんだお?」


オレ「これってさ。やっぱ現実じゃないと思うのさ。」


かみかみ「なんでよ?」


かみかみが呆れたようにオレを見上げる。


オレ「さっきさー。オレ意識飛んでたし。目が覚めたら黄緑のねこに話しかけられたんだぜ。玄関はぶっ壊れてるし、お向かいさんなくなってるし、砂漠だし。それと…。」


かみかみ「それと?」


オレ「砂漠でオレの姿してるヤツが3つの影と戦ってる…。お前見える?」


オレの視界は巨大なスクリーン。


どっちが正義で悪役なのかもわからない。

殺風景な月光の砂漠でチープなバトルが繰り広げられている。


無音。


チャップリンのドタバタ映画のSF神話版かな。


流れているのはチャカ・カーンの《アイ・フィール・フォー・ユー》


オレのコピーした曲集。

《原初》と書いたラベルが貼られたテープ。

オレの教科書であり歴史だ。


オレ《次の曲はKSSだったかな。カッコ良くて、憧れて。初来日の武道館行ったっけ…》


ーー


かみかみ「もちろん。見えてるお。」


オレ「(´・ω・`; )見えるかー…。つか、ねこと話してる時点でギブアップしとけばよかったかなー。脳みそパンクしそうだよ。」


かみかみ「ねこじゃない。かみかみだお。」


オレ「( ・`д・´)そこだよ。それそれ。なあ。夢でいいっしょ。これ幻覚越えてるもん。」


かみかみ「もう、どっちでもいいお。」


オレ「(*≧ω≦)じゃあ夢にしよう。そしたら楽しめる。」


かみかみ「簡単だにゃあ。」


ーー《スカーン!》ーー


夢にしようと宣言した瞬間、

目の前のスクリーンが膨らみ、鮮やかな景色に変わった。


音も匂いも。砂漠の風や戦いの熱も感じ取れる。


ーー


オレ「あれ?夢って事にしたら見やすくなった。奥行きわかるぞ?それともLSD切れたかな?」


かみかみ「んー?41には、今までどう見えてたんだお?」


オレ「んーと。フィルム映画っつーか。パラパラ漫画みたいにかな。説明しづらいな。じーっと見ると止まっちゃうから、意識しないようにボーっと見てた。」


かみかみ「変にゃのーw」


オレ「(*≧∀≦)変だろ?明晰夢のプロだから。あはははははw」


ーーーー


ここは、かみかみの砂場王の力で砂漠化された東京、


現実を再定義し構築し直した現実世界。


41の夢の宣言とともに、その境界はさらに曖昧なものとなった。


《夢の悪魔》ラミーノは瞬時に、その変化に気づく。


ラミーノ《夢素?…現実が夢に変換された。41様!》


ーーーー


サトゥー「バージョンアップがどうした。三対一で互角程度か。この肉体はまだまだ出力が上がるぞ。もう一度消滅するがいい。」


ラミーノ「こっちもよ。それにアナタ。もう負けが確定よ。」


より強力な夢素を纏ったラミーノは、サトゥーの敗北を確信を持って告げた。


ソノリス「そのカラダをもう傷つけるのをやめなさい。その肉体はアナタの乗り物ではない。」


クロノア「人工精神ごときが操っていい姿ではない。その《欲》の色がついた偽の人格を消してやろう。」


サトゥーの瞳に映る三柱の悪魔は、もはやかつての「影」ではない。


ソノリス(音の悪魔)の肌は中性子星の脈動のような光を放ち、クロノア(色の悪魔)の髪はビッグバンの残光を編み込み、ラミーノ(夢の悪魔)の瞳には数千万の世界線が渦巻いている。


ラミーノ「消滅? 違うわ。アタシたちは41様の『愛(いとしさ)』そのものとして再定義されたの」


サトゥー「ふん。戯言を。」


サトゥーが右手を振る。


カミソリで切り裂かれたように空間が次元ごと切断され、真空の刃が襲いかかる。


その刃は41の家に走っていく。


ーー《シャアアアアアァーー!》ーー


オレ「おわー!こっちに来るぞ!」


かみかみ「砂場王!玄関を閉じろ!《バリア》強化・宇宙!」


かみかみが小さなハンドシャベル《砂場王》を振り上げた。


ーー《ゴトゴトゴト。》


41の家の玄関が砂岩で復元されていく。


ーー《スルン》


かみかみの言葉は言霊となり、相手の攻撃は《バリア》の強度を上げる。

そして攻撃は「宇宙」という方向へ、ねじ曲げられる。


サトゥーの攻撃は月光の夜を切り裂くように立ち上っていく。


ーーー《ズッ、ドォーーーン!》


上から爆発音と振動が伝わる。


復元中の天井の隙間から上空の爆発が見えた。


ーー


オレ「花火?たーまやー…。かな?かみかみ。今の何?カッコいいじゃん。」


かみかみ「えへへー。ねこにゃんが砂場王に《反射の悪魔》の印、彫ってくれたんだお。バリア使えるんだもんにー。」


オレ「へー。まあ、夢なら何でもアリだしな。それにしても、ちっちゃいシャベルだなー。でも細かい模様とか精巧だ。お前それでうんち埋めてるの?」


かみかみ「それは…。プライバシーだお!」


オレ「ほめてるんだよ。清潔だなって。フツーは前足でカキカキだろ?あ。お前の名前『カキカキ』に変えようか?カッキーって呼びやすいじゃんw」


かみかみ「( ・`ω・´)ピラミッド!」


《ドドドドドド》


オレ「あれ?」


41の回りに砂岩のブロックが積み上がっていく。


《ドドドドドド!》


オレ「おわわわわー!」


ーー《ゴトン…》


41のいた場所には小さなピラミッドが出来ていた。


オレ《生き埋め?おーい!出せー!ねこー!ゴメンてばー!》


かみかみ「この方が安全だし、しばらく反省すればいいお。」


ーーーー


サトゥー「攻撃が反射された…。それに家も景色も復元されていく…。」


サトゥー「ここは?」


サトゥーの背中には京王プラザホテルが、そびえ立つ。


いつの間にかサトゥーたちは新宿副都心の広い空き地に立っていた。


サトゥー「景色、環境の変化。擬態か?それは学習済みだ。効かぬぞ!」


ラミーノ「…これは41様の心象風景ね。まだ副都心が出来る前。浄水場の池を埋め立てて出来た土地。アナタのデジタルデータで理解できる?」


サトゥー「何が言いたい?」


ラミーノ「この大きな道路で分けられた区画に、どんどん高層ビルが立っていくの。41様が子供の頃は、そこらじゅうに空き地や原っぱがあったのよ。子供たちは、そこで野球したり、缶けりしたりしてたの。子供たちはサンプラザや大きなマンションを作るために空き地から追い出されて、自由な遊び場は取り合いになる。公園という管理された遊び場に閉じこめられるの。そこで、当時の子供たちが、見つけたのが新宿のここよ。」


クロノア「夜の色を変えましょう。色調変換《昼》!」


《サーーーー!》


景色はビーカンの青空に塗り替えられた。


細かい砂粒が浮かぶ乾いた地面。

アメリカの刑務所のような、高い網のフェンスに囲まれた広い土地。


新宿副都心の高層ビル街ができる前の区画割りだ。


ーー

ラミーノ「アナタのデータには41様の心が入ってない。魂の入ってない空の器。でも、その肉体はアナタを拒絶する。」


サトゥー《敵の証言より本肉体との同調率を計算…。肉体より物理的破壊に対する拒絶反応あり。原因推測不能…。事実のみ認定。ナゼだ?肉体が破壊されても超速再生できる…。》


ラミーノ「思考加速して何を考えてるの?そんな簡単な事もわからないの?子供は遊びながらケガをして覚える。次はケガしないように上手くやろうってね。その肉体はもう、ケガしたくないのよ。」


ソノリス「それにその音……古いわね。ノイズキャンセル」


指をパチンと鳴らすと、破壊の振動が完全に打ち消された。


クロノア「次は私の番。世界を『41様のパレット』で塗り替えます」


サトゥーのデジタル画素の視界に、強烈なネオンカラーの飛沫が飛び散る。

無機質なボディに「熱い」「痛い」といった過剰な感覚が流れ込み、神経の演算回路がショートを起こす。


サトゥー「ぐ……ああああ! 私は完璧な……41のはずだ……!」


ラミーノは苦しむサトゥーに背中を向け、京王プラザホテルを見上げていた。


その瞳には涙が滲む。


ラミーノ「41様は、ここに来る度に、これを見上げながら、ずーっと約束待ってたんだもんね。切ないなー…。」


ーー


ラミーノは振り返りサトゥーに向き合う。

その瞳には強い怒りと共に憐れみが宿っていた。


ラミーノ「あなたは41様の寂しさを知らない。だから、本当の暖かさも一生理解できないわ。……お帰りなさい、ゴミ捨て場へ」


ーーーー

ところかわって、ここは再び41の家の玄関。


かみかみの隣に小さなピラミッドが出来ていた。


ーー


《ドガッ!》


41が埋められていたピラミッドが崩れた。


オレ「ふはははは!王の帰還であーる!って。あれ?フツーの玄関に戻ってる?」


崩れたピラミッドの破片も小さな砂粒となり、かみかみの砂場王に吸収されていった。


かみかみ「あ。出れた。大したもんだお。」


オレ「王を称えよー!じゃねえわ。ん?んんん?あっちで何かが?」


かみかみ「外出てみようよ。」


靴を履いて一歩外に出る。懐かしい匂いがした。


土臭さ。


植物の香り。


ご近所のご飯の匂い。


昭和の空気だ。


ーー


オレ「あれ?これって子供の頃の景色じゃん。」


家の前の道は未舗装。

お向かいの家も隣も、瓦屋根の一軒家が並んでいる。


振り向くと自分の家も建て替える前の、瓦屋根の一軒家に変わっていた。


スカスカの生け垣の屏。

庭には梅の木や紫陽花が植えてある。


母が大事に育ててた薔薇の植木が見える。


ーーオレ「まさか…。」


オレは勝手口のある方へ向かう。


庭に面した軒下で足をぶらぶらさせている少年。


少年の後ろには…母親が座っている。


オレ《あれはオレ…。ママだ…。この後のやりとり覚えてる…。思い出した…。》


胸が締め付けられる。


ーー


オレ「かみかみ。オレ泣きそうだわ。ギャップありすぎだよ、この夢。」


かみかみ「ボクも、このシーン見て泣いたお。」


この作戦前に、かみかみも41の過去《リバース》を見てきている。


ーー


かみかみが四足歩行で足元をスリっと擦っていった。


オレ「ズルいよな。こんな時だけ、ねこしちゃってさ。グスン。」


かみかみ「この先も見るの?」


オレ「いや。思い出したからいい。心の中で一言だけ伝えとく。」


オレ《いいかオレ。希望・友情・勇気!一人ぼっちにならない『呪文』だ。忘れるなよ》」


オレはそれを言い残し、気配のする方へ目を向けた。

ーーーー新宿。京王プラザのとこだ。


《スン!》


オレとかみかみは、夢の中で新宿へ跳躍した。


ーーーー


極彩色の地獄と化した京王プラザの前で、三柱の悪魔とサトゥーの力は互角にぶつかり合い、空間が悲鳴を上げていた。


ーー


オレ《何だこりゃ?オレのそっくりさんが負けそうなのか?というか何のためにケンカしてる?…。》


ーー


それを見つめるオレの心は、急速に冷めていった。

自分と同じ顔をした存在が、化け物じみた力で自分を否定し、壊そうとしている。


その景色が、たまらなく嫌になった。


オレ《何だよ…。さっきまで懐かしくて嬉しい景色だったのに。こんな景色、たくさんだ!》


ーーー子供の頃の約束。ーー


ーー「ねえ、お祖父ちゃん。あのホテルが出来たらさ。一番上のレストラン行ってみたい。どんな景色なんだろ。おうちも見えるかな」ーー「ああ、いいよ。お母さんといっしょに、みんなで行こう…。」ーーーー


オレ《ここに来る度に見てたんだ…。…お祖父ちゃんて呼んでたのが、お父さんだって知ったのはいつだっけ…。子供の頃の約束は叶わず。もうとっくに、一人で行ける年になっちゃったよ…。》


オレ《…ふざけんなよ》


オレの叫びが、爆風を切り裂いて響き渡った。


オレ「( ・`ω・´)やめろーッ!」


その一言は言霊となり、三悪魔はピタリと動きを止めた。

彼女たちは恭しく41の足元へ膝をつく。


オレはスタスタと、サトゥーへと近づいていく。


そして見据える。


《ピシッ》


その瞬間、41の瞳が《二次元レンズ》へと変貌し、サトゥーを世界のパノラマの中に「固定」した。


ーー


サトゥー「固定され、た?…。私が……41だ……。貴様が消えるのだ……。キャンセル、キャンセル…。」


オレ「……はあ。いくら夢でもさ、オレは自分に向かってそんな寂しいこと言わねえよ。だってオレは、自分が大好きなんだよ。……これでも打って、マトモになれ。お前、オレなんだろ?オレで平気なら仲間にもすすめられる。いっしょに挑戦してみようぜ。ぶっ倒れても仲間が起こしてくれるからさw」


オレはずーっと握りしめていた注射器を見つめる。


オレ《液体が虹色に光ってる…》


オレは注射器を持ち上げ、空に透かした。


オレ《揺らぐけど、液体?なのか?気体にも見える…。》


《シャカシャカシャカ。》


注射器を振ってみた。


中身の液体は泡立つ事もなく、さらに鮮やかな虹色の縞模様を描き出した。


オレ《溶かして、うねる事はあるけど、色つきは初めてだ…。こりゃヤベーかもなw》


ーー


サトゥー「動けん…。二次元レンズと推測。クソ!たかが人間が…。」


オレ「もう、そういうのやめようぜ。お前が誰かは知らねえけどさ。夢の中でもオレは、そんなんじゃねーよ。明るい正義のジャンキーだ。ほら、腕出しとけ。オレの後に打ってやるから。」


オレは迷いなく自分の静脈に、まだ名前のない特製ブレンドを打ち込んだ。そしてーー


世界が一変する。


ーーオレ「お?おおおおお?」


あらゆる世界線を見通せる気がした。


一番幸せな景色はどこにつながってる?


冷める。乾く。加速する。


時間が止まり景色が滲み、光が後ろにぶっ飛んで行く。


だがーー

オレ《ぜんぜん冷静じゃん。これいいな。名前?名前何てつけよう…。》


ーーヨーニャ《ルナピスだよ》


オレ「ん!…幻聴。…誰?」


アタマの底から声が聞こえた。


オレ《誰だ?ルナピス?…ルナは月…。ピースは平和…。月光の砂漠に平和って意味か?》


ーーヨーニャ《わかってんじゃねえか》


オレ《だからさー。あんた、ところで誰?どこの幻聴さん?w》


ーーヨーニャ《クッククククw》


アタマの中で青い影が笑ってるような気がした。


するとーー


街の景色はみるみる現代に変わっていく。


昭和の発展の早回し映像だ。


足元の地面には建物の基礎が現れ、高層ビルがそびえ立っていく。

街がひまわりのように成長していった。


ーー


オレ「あぶなっ!建物がニョキニョキ生えてくるぞ。みんなも道路の方へ逃げろー!あっははははw」


オレはサトゥーの差し出した腕を引き、道路へ向かう。

かみかみと悪魔たちも続いた。


ーーー


車も人もいない副都心の交差点。


発展も現在で落ちついたみたい。

見たことある景色だ。


オレ《京王プラザも一番ノッポじゃなくなっちゃったね…》


ーー


オレ「さて。じゃあお前の番だな。これはいいぞ。出来がいい。コークスクリュー越えたかも。」


サトゥーは固定されたまま動けない。


サトゥー「貴様。何をする気だ。解除しろ!」


オレ「やだね。オレの夢のルールがあってな。オレの明晰夢の中のヤツはさ。人も、生き物も建物でもさ。じーっと見るとペラペラの紙になるんだよ。お前も喋る写真になってる。でも、紙にプスっと穴開けたら突き抜けちゃうのかな?まあ夢だしな。それも含めて人体実験に参加しろ。」


サトゥー「やめろー!」


オレ「(*≧ω≦)やだね。」


《プス》


《チュー》


オレはサトゥーの肘の内側に、注射器の残りの液体を打ち込んだ。


オレ「オレどうしなら同じ針使っても大丈夫だろ。病気なんて持ってないよ。ほら楽しめ。」


《ブーーーーーン》


サトゥーの人工精神は即座に侵食されていく。


サトゥー「な……何を……!?エラー。エラー!演算が追いつかない!」


オレ「演算ー?電卓でも叩いてるのか?そんなこと考えても無駄だよ。効くだろ? いろいろ混ぜたんだ。前に作った『コークスクリュー』は解毒だったけどさ。まあ、落ち着けよ。一つずつ理解して楽しむんだ。計算するなら、そろばんの粒を並べてくようにさ。形で見て理解するんだ。お前がオレならコントロールできるだろ?」


サトゥーのAP(人工人格)は狂気の自我を保てなくなる。


サトゥー「私は……私とは何だ……?」


オレ「いきなり哲学者かよw あれ?あららら?」


レンズに固定されたまま、サトゥーの輪郭はぼやけ、粒子へと溶け始める。


オレ「お前にゃ無理か…。オレはこのジャンキーの世界にいるんだ。覚えたろ?」


オレはペラペラになったサトゥーを抱き締める。


オレ《お前みたいにならないように気をつけるよ。》


《クシャ》


サトゥーは紙屑のように粉々なって消えていった。


さっきまでの青空も夜に侵食されていく。


そびえ立つ高層ビルも輪郭を失い溶けだした。


三悪魔もサトゥーの最後を見送った。


ラミーノ《こんな終わらせ方なんだ…。》


そして、三悪魔は黙ったまま41の元にかしづき、次の命令を待つ。


ーー


オレ「この明晰夢も終わりか…。やんなきゃならないこと思い出した。目が覚めても忘れませんように…。まずは、家に帰らなきゃ。アイツら待ってるし。これ注射しちゃったって言ったら怒られるかなw」


オレ「かみかみ。家に帰ろうぜ。」


かみかみ「わかったおー。」


《スン!》

41はかみかみと再び自宅に跳躍していった。


ーー


ラミーノ「行っちゃった。」


ソノリス「まるで無視。相手にされてないわね。」


クロノア「自己紹介は次の機会に。次こそは物語の登場人物で描いてもらいたいですね。では、ねこにゃん様の元に戻りましょう。」


三柱の悪魔は陽炎のように消えていった。


ーーーー


オレは再び家の玄関の廊下に戻った。


さっき見た幼い頃の景色はもうない。


夢が消えかけて行くとともに、玄関も破壊された景色に戻っていく。


オレ《本当がこれ?これが現実だって?ふざけんなよ。》


そしてオレは体内に広がる感覚に身を委ね、廊下の壁に手を突いた。


そして自分に言い聞かせるように呟く。


自分を見失うな。取り戻せ。

思い込みこそジャンキーの力だ。


ーー

オレ「オレ……しっかりしろ。現実の玄関も壊れてない。砂漠なんてない。ここはいつもの、オレんちだ……!夢に、幻覚に飲まれるな。オレは帰る!」


41の瞳に曼荼羅模様の二次元レンズが現れる。


耳元に微かな声が聞こえる…。


ーーエスネコ「(*≧ω≦)にゃ」

《大丈夫。遠い手で掴めるよ。》


《パラパラパラパラ…》


世界がページをめくるように逆再生を始めた。


陥没した床がせり上がり、砂の海が消え、天井の蛍光灯が瞬く。


オレ《ほら…。夢をコントロールできるようになったぞ…。》


ーーエスネコ「(*≧ω≦)にゃー」

《愛する日常の中だよ。ゆっくり休んで…。》


ーー

そして、オレの意識は真っ白な光の中に吸い込まれ、そのまま深い断絶へと落ちていった。




ーーーーーー


ケイ「……おい、41! おい!」


聞き慣れたケイの声。揺さぶられるカラダ…。


オレ「あ…。んーむ…。」


オレは目を開けた。


そこには、いつものカビ臭い玄関の空気があった。


ケイ「( ・`ω・´)おい、わかるか?玄関に寝転がって何してる? …大丈夫か?あー! お前、それ打ったのか?」


ジュン「大丈夫なの? 誰か来たの? 玄関見に行ったきり、戻ってこないから見に来たのよ」


41は焦点の合わない目で二人を見上げた。


オレ「……う? うん。考えてた……」


ケイ「何をだよ」


オレ「今……見てた、幻覚?夢かな?それについて。ひどかったんだよ……」


ケイが呆れたように鼻で笑う。


ケイ「(*≧∀≦)バッドトリップでもしてたのか? ったく、お前どのくらい、ここにいたと思ってんだ。ぶっ倒れたんか?」


オレ「……オレ、どのくらいここにいた?」


ジュン「わからない。まあ5分~10分くらいじゃない?アタシたちもまだLSD効いてるからヘロヘロなのよ。」


41は絶句した。


オレ「……あれが、5分?!」


ケイ「『あれ』って何だよ。ぶっ飛びすぎw 隠れてそんなの打ってるからだぞコラ。……で、なんで打ったんだよ、それを」


オレ「(´・ω・`)?……なんで打ったのかな……」


自分でも思い出せない。


ただ、何かを終わらせなければならなかった感覚だけが残っている。


ジュンがオレの手を引いた。起こそうとする。


ジュン「いいから!まだアタシもフラフラなのよ。早く部屋に戻ろう。」


その時、奥の部屋からイントロが流れてきた。


チャカ・カーンの『アイ・フィール・フォー・ユー』。


オレ「……あれ? この曲、巻き戻したの?」


ケイ「何もいじってねえよ」


ジュン「自分で作ったテープでしょ。順番くらい知ってるんでしょ」


オレ「さっきも、聞いたような気が……」


ケイ「お前、なんかスッキリしてねえか? さっき打ったの、どうだったんだよ」


オレ「よいしょっとー。んーーーっ」


オレは立ち上がり、軽く体を伸ばした。


重かった四肢が驚くほど軽い。


オレ「ん? リセットされた気がする。元気……かな」


ジュン「まだ、景色が写真に見えてるの? 立ち上がれる?」


オレ「ああ、平気。……じゃあ、どこか出かけようか」


ケイとジュンが同時に声を揃えた。


「(´・ω・`; )えー!?」


41の瞳の奥で、小さな黄緑色の光が一度だけ瞬き、消えた。


ーーエスネコ「(*≧ω≦)あとでね」




ーーーー


ところ変わって、ここはガンマとデルタの居城。

ーー超次元空間。


《ぽんっ》


間抜けな音とともに現れたのは二匹の子猫。


チンチラシルバー《ねこにゃん》


アメリカンショートヘア《ぴょこにゃん》


子猫たちは唐突に話を始めた。


ーー


ねこにゃん「それで?決めたか?」


ガンマとデルタに驚いた様子はない。


驚きは瞬時に警戒に変わりーー

冷徹な戦闘体制に変わる。


ガンマ「…貴様ら消滅したのではなかったのか?」


ぴょこにゃん「お前らだって粒にゃんだろ?対消滅と再構築の設計は『模倣』されてるはずにゃん。」


デルタ「模倣?決めたとは何のことだ。」


ねこにゃん「記憶メモリがファミコンかよ。じゃあ、滅ぶか?それとも滅びたくないか?それだけ言え。」


ぴょこにゃん「やっと原初の意味もわかったよ。滅びを選択するなら教えてやる。」


ーーーー


ガンマ「フン。」


ガンマとデルタは笑った。


デルタ《起動!ガデス!》


《パッキィイィーーーーン!!》


ガンマとデルタはダイヤモンドのように乱反射する光を閉じ込めた戦闘用ボディ《ガデス》と融合した。


このガデスはガンマとデルタが同シリーズの、イータとシータを補食して構築されたものである。


その姿は八面多様体。頭部・両腕・脚部・ボディが分離し、パーツ一つずつに異次元を切り裂く殺意が満ちていた。


ガデスからガンマとデルタの声が響く。


ガデス「こちらからも聞いてやる。食われたいか?それとも滅びたいか?答えろ?」


ねこにゃんとぴょこにゃんは質問に答えない。

二次元レンズの観測結果のみ伝えた。


ねこにゃん「(*≧∀≦)ふーん。粒、四個分か。」


ぴょこにゃん「(*≧ω≦)おまけつきか。昭和だよにゃw」



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