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第84話《原初の粒vs新型の神編 最終章 神話を描け④ 寂しさの力 三悪魔防衛戦》

LSDの幻覚とファンクのグルーヴが混ざり合う41の家。

その玄関前では、41と同じ顔を持つ新型モデル《サトゥー》が、現実世界の物理法則を歪ませながら侵攻を開始していた。

圧倒的な異質を前に、41を守るべく立ち上がる三悪魔(ソノリス、クロノア、ラミーノ)。

「音・色・夢」の防壁で時間を稼ぐ中、異空間ではついに「エスネコ」へと完全変身を遂げたねこぴょこたちが、神々の居城へと不敵に乗り込む。

ガンマとデルタの目の前で41の魂の粒を自ら飲み込み、すべてを巻き込んで発動する「121層の封印」。

神話の裏側で、現実と超次元の境界が激しく揺らぎ始める――。

第84話《原初の粒vs新型の神編 最終章 神話を描け④ 寂しさの力 三悪魔防衛戦》


ここは41の家。


かみかみ「( ・`ω・´)シャー!」


かみかみが玄関の方に向かって威嚇している。


オレ「かみかみ、どした?さっき『敵』って言ったか?」

オレ《( ̄□ ̄;)幻聴?ヤベーな。さっきのLSDがもうピークに効いてきたか?景色もグラグラだ。それに、この部屋こんなに広かったっけ?》


オレは応接間の隣のダイニングキッチンで、エミの話を聞いている。


振り向いて見た隣の応接間が遠く離れて見えていた。


オレと同時にLSDを食ったジュンとケイが、ソファに沈み込んでいる。


こいつらも、すでにぶっ飛んでるみたいだ。


まだマトモそうなのはサル。

だが、三人の姿も応接間の景色も遠く歪んで見える。


流れている音はロバート・パーマーの《スニーキング・スルー・ジ・アレー》


グルーヴの効いたミーターズの演奏に乗って、ロバート・パーマーが歌われる歌詞が、さらにLSDの幻覚を加速させる。


《サリーは路地裏をこそこそ歩く…。》


音が、歌詞がLを加速させてる。


オレ「何でサリーは路地をこそこそ逃げていくのさ?…オレもこそこそ逃げろってメッセージなのか?」


エミ「何ですか?」


ふいに音に対して言葉が出た。


いっつも景色に合わせて音楽が流れる。


フツーは逆だろ。

雰囲気作るのに音楽流すのに。


流れてる音が状況作ってくんだ。


オレ《それに敵?さらにわけわかんねえよ…。でも…。》


オレ「あー。何でもない。一人言。この曲、好きなんだよ。エミちゃん。応接間に戻ってて。好きなのキメてていいから。それと…。」


オレにはエミちゃんの姿も厚みが消えて見えてきている。

等身大ポスターに話しかけてるみたい…。


エミ「それと?何ですか?」


オレ「オレ、ちょっと玄関見てくるわ。かみかみが何か威嚇してるから。」


エミ「誰か来たの?大丈夫ですか?」


オレ「わからん。でも、もしオレが『逃げろー』って言ったら庭から逃げてね。オレたち、もしもの時の緊急避難訓練してるから大丈夫。ケイたちもわかってるから。あ。靴だけ玄関から持ってく?車の中に女用のサンダルあるけど。」


エミ「え?警察とかですか?」


オレ「ガサ入れの事?警察は夜に来ないよ。まあ、それも含めてね。ジャンキーはいつでも緊急事態に備えてるって事。恨みも買うし、襲撃される可能性だってある。オレの知り合いのプッシャー(売人)は銃を突きつけられて金とブツを強奪された事がある。そういう世界なんだよ。」


エミ「…怖いですね。」


オレ「(*≧ω≦)アハハハ。そうなんだよ。油断禁物なの。だから、偽名も使うし家や連絡先も信用できるヤツにしか教えない。相手の事も必要最小限しか知らないようにしてるんだ。」


エミ《こういうの笑って言える話?だからか…。》


オレ「心配?」


オレ《目の前の景色はまるでテレビ。大きなモニターにうちの背景とエミが映ってる。心配とかオレが聞いてる場合じゃないよなw》


エミ「心配だけど安心。マッドピエロにいたときより怖くない。」


視界にLのフィルターがかかってる。


モニター越しに話してる女。


目の前のエミはまるで女優だ。

ドラマのセリフにしか聞こえない。


喋る写真?

動いてるから動画か。


変なの…。


正面しか見えない。

コイツ、後ろ向いたら背中あるんだよな?


ーー

オレ「コラ。あんなのといっしょにすんじゃねーよ。とにかく、そういう事だから。気になるなら後はケイたちに聞きな。アイツらだってわかってる。オレは玄関見てくるって言っといて。」


オレ《怖がってるな。ついでだ。幻覚実験w》


ーー《チョン》


オレは人差し指で軽くエミの胸を突っついた。


柔らかい肉の感触。

二次元に見える幻覚だけど現実とつながってる。


エミ「キャッ」


オレ「(*≧∀≦)ジュンに、おっぱい突っつかれたってチクるなよ。怒られるからw」


エミ「もう!」


ーー

エミ《ビックリした。この人、普段から変なタイミングでふざけるんだよなー。ジュンさんにも、しょっちゅう怒られてる。けど、イヤじゃない。アタシちょっと嬉しかったりしてる?…田舎帰る決心、薄らいじゃうよ…》


エミ「じゃあ、応接間戻ってますね」


オレ「おー。」


ーー

それを見ていた、かみかみが呆れたように鳴いた。


かみかみ「(´・ω・`; )にゃー」

《はあ…。マジで危険なのになー。41は、ねこにゃんと、ぴょこにゃんたちと同じふざけシステムで動いてるのか?》



ーー

かみかみ「( ・`ω・´)にゃー。41。エミいなくなったから直接話すお。ボクの言葉わかるよね?今、ねこにゃんたちが送ってくれたラミーノたちが『敵』と戦ってる。でも、もう時間がない。ボクが41を守るからね!」


オレ「はあ?ラミーノ?…お前、かみかみだよな?」


ーー幻聴じゃない。


オレは歪んだ幻覚の世界でハッキリと、かみかみが話しているのが理解できる。


ねこが人語を話している?

ねこ語が人語に聞こえてる?


ーー

かみかみ「だーかーらー!ボクは、かみかみだってば!41は夢で、ねこにゃんとラミーノに会ったでしょ。思い出して!」


オレ《あ!》


頭の中に明晰夢がよみがえる。


二つの干し首が置かれた和室。


大きな屋敷ーー。


…あれは。…お祖父ちゃんの家だ。


お祖父ちゃんと呼ばされていた父親の家…。


ママと引き離されて住まされた家の夢。


ーーそして夢の中でオレは《恐怖》に襲われてーー


《ザシュ!ザシュザシュ!》


スクラッチ音…。


オレ《あ!思い出した!何で忘れてたんだろう。夢の悪魔、『ラミーノ』と名乗った美少女に助けられて…。そうだ。その後に、ねこにゃんと会ってピンチだって教えられたんだった》


オレ「なあ、かみかみ」


かみかみ「なんだお?」


オレ《フツーに話せるぞ?》


オレ「『敵』って誰よ?何でオレがピンチなの?」


かみかみ「話すと長くなるお。それにボクは説明下手だお。」


オレ「ふーん。それ、あっちにいるジュンたちもヤバイ?」


かみかみ「たぶん大丈夫。悪魔たちが守るから。ケイを助けたのも、ねこにゃんが作った悪魔だお。」


オレ「悪魔たちぃ?オレ今、めっちゃLSD決まってるんだけどさ。これ現実?それともオレ寝てる?さっきまでエミと話してたんだけど?」


かみかみ「げーんーじーつっ!」


オレ「外で悪魔たちが戦ってて、子猫のお前がオレを守るー?どーやって?」


かみかみ「これでだお」


ポトリ。


何もない空間から、かみかみの前に子供用のハンドシャベルが落ちてきた。


黄金色。刃面には不思議な紋様が描かれてる。


オレ「シャベル?」


かみかみ「砂場王だお。これは、ねこにゃんとぴょこにゃんが作ってくれた、ボクの遊び道具で武器なんだお。」


かみかみが自慢気な顔でオレを見上げる。


オレ「(*≧∀≦)マジ?あはははは!えーと。ねこに聞くのも何ですけど、これはファンタジーの幻覚でしょうか?ぜんぜん、追いついてないんですけど。オレは何をすればいいんでしょうか?」


オレ《面白くなってきた。ジュンやケイたちも同じ幻覚見てるのかな?LSDもピーク。その前に決めたコークスクリューもバッチリ仕上がってる》


かみかみ「危にゃいから、何もしなくていいお。41が好きな音楽をかけてて。それが『ソノリス』の力になるから。あ、そうだ。さっき混ぜたヤツだけ持ってきて。」


オレ「あれをー?つか、ソノリスって誰?」


かみかみ「ケイを助けた《音の悪魔》だお。」


オレ「助けた?通り魔からケイを助けた女?」


かみかみ「そーだお。」


オレ「(*≧ω≦)ふーん。とりあえずわかった。ソノリスって悪魔、超美人なんだろ。じゃあブレンド入れたポンプ持って見に行くわ。コークスクリューに続く新兵器だーw」


かみかみ「(´・ω・`; )はー。エスネコ相手にしてるみたいだお。アイツは『にゃ』しか喋らないから41よりマシだお。」


オレ「( ・`д・´)ワタシも真剣であります!ひとまず武器取りに応接間に戻ります。玄関に集合でっ!じゃっ!」


オレは、かみかみに敬礼をして応接間に戻っていった。


かみかみ「バカはやりづらいお。」


ーーどの口が言う。




ーーーー

ここは41の家の前。


庭に面した道の前を人が歩き、車も行き来している。

日常の風景だ。


そんな中、41の家の玄関の前では41の姿をした新型モデル『サトゥー』と三柱の悪魔たちが戦いを始めていた。


現実世界での物理的な破壊を防ぐために、悪魔たちは音・色・夢の防壁を張っている。


そのため、通りすがりの人々には見えない。


動物やスピリチュアルなセンスを持つものなら、かすかに邪悪な気配を感じるかもしれない。


ーーそこに立っている男『サトゥー』は、偽の魂の乗り物として作られた人間。


姿を見せぬ神、ガンマとデルタが1000年後の未来で、構築した有機ヒューマンボディ。


それはガンマとデルタの戦闘用のボディである最高傑作「ガデス」の端末でもある。


魂を持たず、計算だけで存在を定義された「色と夢のない人工精神」を搭載し、さらにガンマとデルタのver7の能力を付与されている。


その異質な存在が、41の愛する「賑やかな日常」という膜を突き破ろうとしていた。


だが、41には、彼と彼の仲間たちを守る三柱のガーディアンがついている。


ーー


まず動いたのは音の悪魔『ソノリス・ミューゼ』


サトゥーが足を踏み出そうとした瞬間、41の家の前の空間から「音」が消失した。


夜の静寂がさらに消える。


道路の車の音。人や野良猫、野良犬の足音。住宅街の生活音。虫の声。全て消し去る。


サトゥーの内部演算回路「AP」に警告が走る。


《邪魔をするものがいる。外部音響感知不能——空間振動の完全停止を確認》


次の瞬間、鼓膜を直接引き裂くような、41の家から流れるファンクミュージックが増幅した《超指向性重低音》がサトゥーを襲う。


「音」とは震動であり、震動とは物質の結合を揺らすエネルギー。


音の悪魔ソノリスは、サトゥーの金属質な肉体の固有振動数を一瞬で割り出し、内部から粉砕しようと共鳴音を叩き込む。


ソノリス「チープな機械でもわかるでしょ?41様の好きな音楽を楽しみなさい。」


サトゥー「……不快なノイズだ。周波数相殺を開始。」


サトゥーは眉一つ動かさず、自身の体表面から逆位相の波動を放ち、悪魔の攻撃を無効化した。


サトゥー「そうか。姿は見えないが…。三体。護衛をつけているのか。」


ソノリス「これは…電子制御だけじゃない。ねこにゃん様たちと似た力?」


続いて、色の悪魔『クロノア・クロティカス』が牙を剥く。


サトゥーの視覚センサーが捉えていた「玄関」という景色が、突如として極彩色の万華鏡へと変貌した。


LSDで拡張された41の視界が具現化したかのように、月明かり、街頭、住宅の屋根の色など、夜の景色がドロドロと溶け合い、原色の波となってサトゥーを飲み込む。


クロノア「色がないなら、くれてやる。貴様のセンサーが処理しきれないほどのカオスの光を。」


サトゥーの視界は、毎秒数億色という情報の濁流に晒される。


赤、青、金、虹——色彩は熱を持ち、光となってサトゥーの「輪郭」を溶かそうとする。


サトゥー「……情報の過負荷による処理遅延。だが、私の演算域は無限に近い。」


サトゥーは目を閉じ、視覚情報をシャットダウン。


重力波センサーで41の空間座標を捕捉するため、盲目的に右手を突き出した。


サトゥー「それがどうした。私は《ver7》の力を与えられている。41をサイコキネシスで捕まえ、ここに空間移動させれば終わりだ。」


クロノア「フフ。ver7ですか。私はver10『テン』様と仕事をした事があります。あなたの主のver5は雑魚でしたよ。そのカラダ、ずいぶん健康そうに作られているようですが、能力に耐えきれますか?それに波とは音。音にも色はあります。41様の色はここからは見せない。」


サトゥー「穏やかに生け捕りしたいのだがな。貴様らは精神生命体であろう?ならばエーテルから構築され自我を与えられたか。貴様らの主は面白い遊びをするんだな。だが無駄だ。私には精神攻撃は効かぬ。それに、ここら一帯を41を残して廃墟にする事もできる。東京大空襲の時の不発弾が爆発したことにするか?」


ラミーノ「それは無理ね。うちのマスターは、あなたの主よりずっと上なの。あなたの主が想像もできない事ができるの。人間は人間以上の事を考えられない。AIやAPも同じよ。私たちのマスターはね。構築された私たちだって理解も想像もできない《外》からやってきたの。わからないでしょ?あなたが知ることもないだろうけど。」


ソノリス「ずいぶんな能力を与えられたようだけど、41様と同じなのは姿だけね。もうすぐ私たちも消える。そして41様も眠りにつく。私たちに与えられた命令は、あなたを倒す事じゃない。それまでの時間稼ぎができればいいのよ。」


クロノア「破壊が最後の一線だとお思いですか?。ここはすでにマスターに時空間固定されてます。いくら破壊したところでマスターの構築した時空間復元力で《なかった事》にされるだけです。うちのマスターは、いつもふざけてるんです。理解できないでしょ?私もです。ククク。」


サトゥー「時間稼ぎ?何のためのだ?確かに理解できぬな。私には私の使命がある。やってみてから考えよう。」


ラミーノ「時間稼ぎも、そろそろだよね。それに私たちが消えた後の方が大変よ。マスターたちはね。サプライズが大好きなの。その優れた知能でマスターたちの、ふざけ方を予測すればいいわ。」


夢の悪魔ラミーノが、門扉と玄関の通路の間に「存在しない距離」を挿入した。


サトゥーがどれだけ歩いても、41の家の玄関との距離が縮まらない。


門扉から玄関までの石畳が無限の砂漠に変わり、家屋が夜空へと溶けていく。


ラミーノ「ここは、私の夢の中。あなたの「論理」は、ここでは通用しない。AIもね、APやAMのように進化して人工でも人格や精神を持つと夢を見るのよ。夢は夢素。夢素は量子。マスターはね。とっくに『AIの悪魔』の構築実験をしてる。まだロールアウトされてないだけ。詳しく聞くチャンスがあるといいわね。あなたが生き延びてマスターに会えればの話w」


サトゥーが突き出した手は、41の喉元ではなく、数万キロ先の銀河の果てを掴むかのように空を切る。


物理法則を無視した「夢」の力。

これこそが、ラミーノが展開していた最強のシールドだった。


ーー


しかし、サトゥーは足を止めない。


彼は指先から、ガンマとデルタが授けた『ガデス』の一部ーー《次元圧縮》の力を解放した。


サトゥー「……夢も、色も、音も。この三次元における定義に過ぎない。全てを圧縮し、無に帰す。」


《ミ、ミリミリミリ……!!》


ラミーノが作った夢の空間が、クロノアが放った極彩色の光が、音の悪魔が奏でる振動が、まるで紙屑のように丸められ、サトゥーの手のひらの中に吸い込まれていく。


ーーーー


その頃。


ここはガンマとデルタの超次元空間。


すっかり修復が終え、二人は静寂の庭のテラスでコーヒーを嗜んでいる。


ガンマとデルタは41の肉体を捕獲するために送り込んだサトゥーをモニタリングしていた。


ガンマ「音、色、夢の悪魔だと?くだらん。何の時間稼ぎだ。願いが叶った41の《粒》は崩壊するだけだ。AIが夢を見る?笑わせるな。」


デルタ「フフ。人工知能が夢を見てもいいではないか。すでにあのAIは神を持った。我々という神をな。そもそもだが創造主が神という定義ならばAIの神は人間になる。41の肉体はアイツらが来たときの人質に使うだけだ。興味があるのは41の《粒》の耐久性だ。次はリサイクルはせん。手に入れたら、サトゥーのAPに融合させてみるか。」


その時ーー


ーー《スンッ》ーー


ガンマ「何っ!」


デルタ「むっ!」


エスネコ「(*≧ω≦)にゃ」


突然、ガンマとデルタの前のテープルに薄いライムグリーン体毛の子猫が座っていた。


スカイブルーの瞳。


頭部は逆立った鬣。耳は鬣に隠れて見えない。


額には深紅の稲妻形の《S》の模様が浮かぶ。


胸から腹部にかけて柔らかい線で、深紅の《N》の模様が描かれている。


ガンマ「エス…」


デルタ「エヌ…!」


合理的な判断。

迷うことなく二人は即座に襲いかかる。


《ドッゴォーーーン!》


《バキィーー!》


ガンマは瞳から密度の高い《焼殺炎》を浴びせ、ガンマは瞳から次元を凍結させる《コールドゼロ》を放射した。


ーーー《バツン!》


次元が抉られる音が鳴る。


テーブルのあった場所は極限の熱と次元をも凍結させる零度の力で、巨大な爆発を起こし大きなクレーターになっていた。ーー


ガンマ「どこに行った?」


ガンマは空中に移動し超次元空間を《フルフォーカス》している。


ねこぴょこたちの二次元レンズがフイルムならば、彼らのレンズはデジタルの画素。


それは多層次元を貫き固定させる。


先の不意打ちからの教訓と学習。

初めて味あわされた屈辱と怒り。


ガンマとデルタに油断はない。


あらゆるシミュレーションによる最適な攻撃と防御。

それは数億、数兆通りに及ぶ。


演算結果は全て同じ。


例えそれが未知の『エスネコ』という《存在》であってもシミュレーションを凌駕するものではない。


確定した勝利。

ーー《敗北》はなかった。


ーー

デルタ「フフ。このくらいで死ぬものか。ガンマ。おそらくあれがエスネコだ。」


デルタも瞬時に空中に移動。


ガンマと二次元レンズを同期し、超次元空間をくまなく観測していた。


ーー


《スカッ!》


テラスは瞬時に超速再生し元通りになる。


テーブルにはコーヒーカップ。

コーヒーの温かさも元のままだ。


そしてまたーー。


そこには、黄緑色のねこが座って二人を見上げていた。


デルタ「ぬ!」


エスネコ「(*≧ω≦)にゃ」


エスネコは二足で立ち上がる。


ガンマ「こいつ、攻撃を受けてワレらの超速再生を使ったのか?」


デルタ「それもシミュレーションにある。原理を盗まれたのだ。…見ろ。手に何か持っているぞ。」


エスネコは虹色の膜に包まれた《粒》を両手に持っていた。


エスネコ「(*≧ω≦)にゃー」


それを愛おしそうに頬擦りしている。


ガンマ「まさか、41の粒!」


デルタ「レンズで固定しろ!フォーカス!」


ガンマ「遠い手で捕まえるぞ!」


《スンッ》


ガンマ「消えた?」


デルタ「気配も何もない…。」


《パッ!》


エスネコ「(*≧∀≦)/にゃー」


今度は神殿の上に現れる。


移動に一切のタイムロスがない。

元々そこにいたかのように現れる。


ーー《スンッ》ーー《パッ!》


エスネコ「( ・`ω・´)にゃ?」


再び現れたのはガンマとデルタの構築した戦闘用ボディ《ガデス》の前。


宙に浮かんだ8面多様体『ガ・デス』を不思議そうに見ている。


ーー

ガンマ「テレポーテーション?いやテレポーテーションなら察知できるはずだ。空間移動や連結の痕跡も観測できんぞ?」


デルタ「こいつ、まさか…。単体で消滅とゼロからの再構築ができるのか…。」


ーーするとエスネコの口から言葉が発せられた。


ねこにゃん「正解。よくわかったにゃ。でもそれじゃ10点だにゃ。」


ぴょこにゃん「エスネコの粒は単体でもそれができる。おりたちの《対消滅》なんて古いにょさ。おりたちが合体してカラダを持って初めて『エスネコ』になるにゃん。カッコいいにゃろ?」


ガンマ「その声!貴様ら、あの時の!」


デルタ「合体?粒の合体は対消滅が絶対の法則ではないのか?」


ねこにゃん「絶対なんて気軽に言うなよ。あれはただの《仲良し設計》にゃん。て、あれ?これ前にも話したような?」


ぴょこにゃん「健忘症かよ。こいつらの『ver5』も同じこと聞いてたからにゃ。」


ねこにゃん「そーだった。というわけにゃん。わかったかバーカw」


エスネコ「(*≧ω≦)にゃっ!」


ガンマ「なるほどな。一つのカラダに三つの自我が入っているのか…。」


ぴょこにゃん「昭和の変身モノや合体モノ知らんにょか。テレビ見ろw」


デルタ「ガンマ。『ガデス』を使うぞ。フィールドでカバーしてるようだが、41の《粒》は崩壊寸前だ。エスネコが何だかなど、どうでもいい。」


ねこにゃん「お前ら41の肉体を拐って《粒》を奪おうとしてたんにゃろ?崩壊してもエスネコが包んでる膜から、41の《粒》は出れないよ。お前らのリサイクルには戻らない。」


ガンマ「なるほど。では、死んだ魂をいつまでも抱えていくのか。」


ぴょこにゃん「だから、生きてるうちにこうする。お前らの前でな。」


ねこにゃん「エスネコ。食え!」


エスネコ「(*≧∀≦)にゃー」


《パクリ》ーー《チュルン》


41の《粒》はエスネコの口から飲み込まれていった。


ガンマ「魂を食っただと…。」


デルタ「何のために…。」


シミュレーションにない行動。

ガンマとデルタは再び、高速演算を開始する。


その速度は、ねこぴょこたちの数万倍。

彼らのデジタルの《二次元レンズ》同様、アナログを凌駕する。


ねこにゃん「おまいらなんかに渡すくらいなら、おりたちが食ってやるにゃん。」


そう告げながらも、エスネコの輪郭は陽炎のようにボヤける。


ぴょこにゃん「これは必然にゃ。あとでわ…か、…る。…。」


エスネコ「(*≧ω≦)にゃー」


鳴き声をあとに、エスネコは粒子となり空間に消えていく。


《フッ…》


そしてーー


ーー《ジッ》


エスネコの『いた場所』に、一瞬、深紅の《S》のマークシティが浮かび上がる。


そして奇妙な立体ホログラフィーが浮かび上がる。


《シュンッ!》


それは音もなく地面に張り付き《S》のマークも消えていった。


ーー

ガンマ「41の《魂》を食っただと。逃げたのか?」


デルタ「今のは…。ガンマ。今、エスネコが消えたシーンは二次元レンズで捉えてた。スロー再生するぞ。」


ーー


一瞬現れたのは色も形も模様もバラバラ。


それは複雑なジェンガ。目的もわからず組み立てたレゴ。


組み立て方も、ばらし方もわからない。

サイコパスなおもちゃのように見えた。


だが、そのパーツ一つ一つは二次元の輪で重なりあい、回転しながら構成されている。


ミステリーサークルのような幾何学模様。


フラクタル模様。


ファンタジー世界の魔法陣。


古代文字のような法印。


渦巻き状態に書かれた見たことのない数字の数式など。


それが音もなく一気に圧縮され、超次元空間の地面に張り付いていく様子が再生された。


ーー


ガンマ「これは、あの時の…。」


デルタ「ああ、そうだ。間違いない。《アカシックレコード》に一瞬浮かび上がったものだ。」


ーーそれは二次元の形状だが「121」層の圧縮された次元を封印する。


元は、エスネコが自らを封印するために構築したものだ。


121層の封印は縦横、斜めに方向、角度、速度を変えながら回転しているが、圧縮されているので平面に見える。


回転しながら「S」や「N」の模様が現れる。

ねじれ双曲構造による錯視である。


ーーフッ…。


それがエスネコの消滅とともに、ガンマとデルタの目の前に現れ消えた。


ーー


デルタ「アカシックレコードが示してたのはこの未来…。」


ガンマ「む!まずい。サトゥーとのリンクが切れたぞ。」


デルタ「何ということだ…。ヤツラは、この空間を閉じ込めて消えていった。あれは封印か?」


ガンマ「封印。クソ。ワレらを道連れにしたのか。」


デルタ「完全に消滅している。封印もすでに何も見えぬ。」


ガンマ「…ガデスの力なら、こじ開けられるかもしれんぞ。」


デルタ「ああ。可能かもしれんな。演算結果ーー《トライ》か。やってみる価値はある。だが、ここを廃棄することになるがな…。」


ガンマ「いや…。待て。何か違うぞ。空の色を見ろ。」


デルタ「何?《虹色の帯》がうねっている…。これは、侵食されてるのか。演算結果ーー《ステイ》か。特に危険はなさそうだが。」


ガンマ「フン。ならば、待つしかあるまい。警戒は怠るなよ。ワレらには時間など関係ない。ガデスを使うのもよい。空も超速再生されるか見極めようではないか。ワレはコーヒーを嗜む。」


デルタ「フッ。そうだな。リンクが切れたサトゥーは?」


ガンマ「それは想定外だ。仮にコマンドを失いリミッターが壊れたとしたら、暴走の可能性はある。自律回復するとよいがな。人工の人格《AP》は自我を持つか否か…。それも一興だ。もはや41の《粒》は失われた。肉体も後を追うだろう。その前にサトゥーに殺されなければ良いがな。」


超次元空間に揺れる虹色の帯は、夕焼けにかかる虹のように見えた。

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