第83話《原初の粒vs新型の神編 最終章 神話を描け③託されたモノたち後編 優しさ有限・寂しさ無限》
ネオンに彩られた夜の新宿。
懐かしい喧騒に包まれた街並みの中、静かに動き始める不穏な影。 変わらぬ日常のすぐそばで、誰にも気づかれぬまま、何かが迫りつつあった。
一方、41の家では、エミが自らの胸に秘めた想いと向き合っていた。
誰かを大切に思うからこそ生まれる感情。 感謝、嫉妬、そして、簡単には割り切れない心の揺らぎ。
そんな彼女に、41は何を語るのか。
優しさには限りがある。 けれど、寂しさには終わりがない――。
それぞれが抱える想いが交錯する中、穏やかな日常にも少しずつ変化の兆しが現れ始める。
そして、見えないところで進行する計画。 まだ知らぬ脅威と、託された想い。
小さな違和感がやがて大きなうねりとなり、物語は新たな局面へと動き出す。
第83話《原初の粒vs新型の神編 最終章 神話を描け③託されたモノたち後編 優しさ有限・寂しさ無限》
ーーここは新宿アルタ前。
夕暮れを過ぎ、街はネオンに照らされ出していた。
渋谷の待ち合わせの定番がハチ公前なら、新宿の定番はアルタ前。
大型カメラ店のテーマソングが鳴り響き。目の前は雑踏という景色が流れている。
着飾った平和。
表向きは小綺麗になったが新宿は変わらない。
コマ劇場の広場には酔っぱらいと、行く宛のない暇人たちがたむろする。
ゲロの跡。チンピラの喧嘩。ピンク店の同伴カップル。客引きにポン引き。額縁みたいなもんだ。
無理矢理作った新しいファッションビル《スタジオアルタ》。
そのパネルにはお昼休みはウキウキウォッチン「笑っていいとも」。夏には屋上ビアガーデン。モノ珍しさで人は集まる。
だが、西武新宿側の横の道には、箸に刺したパイナップルを売る昔ながらの青果店や、店頭で炭火焼きの海老を売っている居酒屋など、昔ながらの風景が残っている。
アルタ前。ここに来たものなら一度は経験する、もしくはその光景を目にしたことはあるだろう。
学ランを着た、いかつい右翼系の大学生が学校名の入ったマッチ箱を高く売り付けてくる。
「映画好きですか?」と言いつつ安く映画が見れる特別チケットがあると勧誘してくる。
チャラチャラした男がパーティー券を売ってくる。
田舎者や弱者を見分ける嗅覚を持ってヤツラが笑顔で話しかけてくる。
見映えは良くなったが、こういった詐欺や恐喝まがいの行為は日中から横行している。
ーー41たちもアルタ前で待ち合わせをする事は何度もあるが、被害者になる事はない。
逆に加害者への加害者として振る舞う事は多い。
東京生まれの正義のジャンキーたち。
一般的に《東京の人は冷たい》とか《東京の人は怖い》とか耳にする。
それがイヤだった。だからムカつくヤツらを見逃さない。
そして、いきなり加害者と被害者に声をかける。
ーー
41「おい。マッチが一箱1000円もするわけねーだろ。何が、このマッチ箱持ってれば安全なんだよ。こんなダセえ学校名の入ったマッチなんてありがたくも何ともねえ。イヤなら買う必要ねえぞ。」
ーー
41「なあ。ただで映画何本も見れるなんて、そんなうまい話なんてあるわけねーだろ。詐欺だよ。最初に1000円取られて終わりだぞ。」
ーー
41「ねえ。このパー券の場所って六本木だろ?貸切なんてできるわけねーじゃん。どうせ行ってもビンゴ大会なんてやらねえし、何なら追加で参加料1万とか取られるぜ。」
ーー
当然、邪魔された者の怒りは買うが慣れたものだ。相手はイキり散らかしてくるし、何なら胸ぐらも捕まれる。
ーー
41「じゃあ、ケイとサル。頼むねw」
ケイ「はあ?」
サル「オメーはよーw」
ーーと言いつつーー
《ゴツッ!》
41「パンチにゃー!逃げろー!」
ケイ「今のはキックだろーw」
サル「またかよー。」
41「あははははは」
三人は走り去る。
助けるのはたまにだよ。騙されといた方が良さそうなヤツは放っておくから。
これも嗅覚。そこの選別はつけてるつもり。ーー
ーー
だが、今日アルタ前に41と同じ顔をした男が立っていた。
それはガンマとデルタに41の肉体を捕獲するために送り込まれた《サトゥー》である。
サトゥーは鏡の中から出てきたが、周囲は気づかない。
ーーただ一組。ある3人の男たちは41の顔を覚えていた。
商売を邪魔され殴り逃げしていった青年。
3人はサトゥーに詰め寄る。
ーー
男「おう、てめえー。この前は…」
男の手がサトゥーの肩に触れようとした時ーー。
《グシャ!》
男「いてえ!手が!」
男の手は握り拳半分の大きさに圧縮されていた。開くこともできない。
男「オレの!オレの手が!」
《ミリミリミリ…》ーーさらに拳は縮んでいく。
他の二人は硬直している。
サトゥー「…私と知り合いか?41を知っているのか?」
男「知らねえ!痛い!やめてくれ!やめてください!」
サトゥー「…騒ぎは面倒だな。」
ーー《パッ!》
男「え?」
男の手は元通りになっていた。
三人組は恐怖にかられジリジリと距離を取る。足がすくんで走れないのだ。
ーー
サトゥー「41の座標を住所に変換。…N区。…本町…。…それにしても汚い街だ。不快な匂いがする…。排気ガスにタバコ。これが1980年代の新宿か。空も狭い。」
サトゥーは新宿東口の方へ歩き出した。
サトゥー《ver7能力試験としてテレポーテーション許可申請ーー》
ーー《肉体負荷80%ーー却下》
サトゥー「仕方ない。タクシーを利用してみよう。大して時間もかからぬ楽な仕事だ。捕まえて穴に放り込むだけだ。」
拳を握り潰された男たちは、去っていくサトゥーの背中を隠れながら見ていた。
男「…アイツ。人間じゃねえ…。」
ーーーー
ところ変わって、ここは東京T13区。
エミの家。
エミはサルと電話中。
サルから41の家に行こうと誘われていた。
ーー
エミ「今から?…別に用事はないけど。あんまり会いたくないんですよ…。」
サル「お前さー。田舎帰るにしても、一度は直接挨拶しなきゃダメじゃね?41は恩着せがましくないけどさ。オレたちには恩人だろ?」
エミ「わかってるんですけど…。」
サル「じゃあ、今日オレと行かなくてもいいからさ。田舎帰る前に、電話くらいしといたほうがいいよ。いつ帰るか決まってないんだろ?つーかさー。仕事決まって、やる気出してたのに突然何?ネイリストなりたいって言ってたじゃん。理由もわかんねえ。言いたくねえなら仕方ないけどさ…。逆に41から聞いてくると思うぜ。シカトはするなよ。」
エミ「…ですよね。…。」
サル「じゃあ、オレだけ行ってくるわ。」
エミ「待って!やっぱり行く。ゴメン。」
サル「何だよwじゃあ迎えに行こうか?」
エミ「うん。お願いします。どこか出かけるのかな?」
サル「わかんねえ。何かケイが通り魔に遇って逃げてきたとか言ってたぞ?」
エミ「え?さっきのニュースの?ケイさん、大丈夫なんですか?」
サル「大丈夫じゃねえかな!?41からの電話はいつもみたいにふざけてたし。電話の向こうで笑い声聞こえてた。出かけるかどうかは、わかんねえ。あ、どんな服着てくかって事?」
エミ「そう。…でも話したらすぐ帰ろうかな…。」
サル「それは無理だと思う。アイツらんとこ行くなら振り回される覚悟で遊びに行かねえとw」
エミ《クスッ。アタシ、バカみたい。行くって決めたら楽しくなってきちゃった》
エミ「わかりました。待ってるね。」
サル「じゃあ、後でな」
ーー
エミ《会ったら何て顔すればいいの?…田舎帰るって言っちゃったもんなー。アタシって何でいつもこうなんだろ。一度言っちゃったら取り消せないよね…。でも、41さんが悪いんだよ…。41さんが麻薬なんだ。アタシは幸せの中毒にされてる。昨日の夢って何だったんだろ…。夢に出てきた、あの子も41さんの使い?》
ーーーー
エミは昨晩の夢を鮮明に覚えてる。
寝る前に抱えてた、恩が憎しみに変わるようなザワザワした気持ちも。
ーーエミ《夢で祓われたの?また不思議くれたの?もういいよ。十分もらったんだよ。》
《…近くで見て感じた。異質。…41さんは運が良すぎる。何かに守られ過ぎてる。…世界が41さん中心に都合よく動き始めてる…。言葉にならない怖さ。この人、ここに、この世に長くいない。アタシは最後まで見たくない。あの人を好きでいつづけたら、アタシが壊す側になる。》
――《最初は、ただ感謝してただけ
助けられたから。名前を呼んでもらえたから。人として扱われたから。それだけで十分なはずだった。
なのに、どうしてだろう。あの人が笑うたび、胸の奥がざらつく。
私じゃない誰かに向けられた優しさを見るたび、世界が少しだけ歪む。欲しいなんて、思っちゃいけないのに。
奪う資格なんて、最初からなかったのに。
――私は「救われた側」だ。それは、変えようのない事実。
あの人は、与える。
私は、受け取る。
その距離は、どんなに近づいても縮まらない。
わかってる。頭では、ずっと前から。
それなのに――どうして、他の人に笑いかける顔を見ると、胸が焼けるみたいに痛くなるんだろう。
それもーー男女問わずに。
「ありがとう」だけじゃ、足りなくなった。
それに気づいた瞬間、私はもう間違えてた。
優しさが、毒に変わる音がした。
静かで、でも確実な音。この人が消えたら、私は何を憎めばいい?世界?運命?
それとも――最後まで、私を選ばなかった、この人?
違う。
一番憎いのは、
期待してしまった自分。救われたくせに、
並びたかった。隣に立ちたかった。
特別でいたかった。そんな資格、最初からなかったのに。
だから、逃げる。
憎しみに変わる前に。
田舎に帰る。名前を捨てて、顔を隠して、
「何もなかった私」に戻る。
そうしないと――
私はいつか、この人がくれた光を刃物みたいに振り回す。
それだけは、したくない。
だって、あの人はいつでも優しかったから。
でも、誰にでも優しいんだ。
――なのに。どうして、胸の奥で、こんな声がするんだろう。
「ずるい」「置いていかないで」「私も、選んでよ」
……ああ。これが、嫉妬。憎悪になる一歩手前。
だから私は、消えた方がいい。
普通に帰る。この気持ちに名前がつく前に。
恩知らずでも、恩人を壊すよりいい。
それが、私にできる、唯一の…。
ーー何で、急にこんな気持ちが膨れあがったの?
ーーわからない。
自由になったのに。
誰かに命令されてる生活から抜け出せたのに。
そしてエミは眠りに落ちた。
ーーーー
絶望設計ーー
41はガンマとデルタに《人は神になれるか》という実験体として構築された粒の魂を持つ。
そして願いが叶うと死ぬ設計。
死の設計は41が周囲に与えた幸せを毒にする。
エミの嫉妬心が憎悪に変わりつつある事を知った夢の悪魔は、構築者のねこにゃんに報告。
ねこにゃんに命令を受けエミの毒を排除するために、エミの夢に侵入していく。
ラミーノ《さてと。直してあげなきゃ。41様の与えた幸せを毒に変化させるなんて許せないもん》
ラミーノ《エミちゃん。深く入るよ…。》
ーー
夢は、音がない。
でも、感情だけはやけに鮮明だった。
エミは、どこかわからない夜の駅に立っていた。
ーー
終電が行ったあと。
ベンチは冷たく、時計は動いていない。
ーー
エミ「……ここ、どこ?」
答えは返らない。
代わりに、隣に最初からいたみたいに座っている女の子がいた。
長い銀髪、銀色の瞳の少女。透き通る雪のように白い肌。シルバーのドレス。
まるで神話の世界からやってきたような出で立ちだ。
ーー
ラミーノ「ここは、あなたが帰る前に立ち止まった場所かな?」
声は優しく、静か。
エミ《え…。夢?夢だよね?こんな鮮明な夢初めて…。怖い。でも懐かしい気持ちもある。》
エミ「……あなた、誰?」
ラミーノ「名前はあるけど、今はどうでもいい。聞き役。慰め役。それだけで十分w」
エミは鼻で笑った。
エミ「慰め?アタシが、何を言うと思ってるの?」
ラミーノ「さあ?」
女の子は、肩をすくめる。
ラミーノ「じゃあ当ててみようか…『ずるい』『なんで私じゃない』『全部あの人のせいだ』――だいたい、そのあたり?」
エミの指先が、きゅっと握られた。
エミ「……わかったふうに言わないで」
ラミーノ「わかってないよ。だから聞く」
しばらく、沈黙が続いた。
いつの間にか駅には雪が舞っている。
時計は相変わらず止まったまま。
エミ「雪?この前まで夏だったのに…。楽しさを覚えた夏…。」
エミ「……憎い、のかな?」
ぽつりと、エミは言った。
エミ「誰かを憎むなんて、最低だってわかってる。でも、優しくされた分だけ、苦しいんだ。おかしいよね。」
ラミーノ「…」
ラミーノは、何も言わない。遮らない。正さない。
エミ「助けてもらったの…。名前を呼ばれた。ちゃんと、人として見てもらえたの。」
エミの声が少し震える。
エミ「それなのにさ……それ以上を欲しがった瞬間、全部、汚くなった気がして。」
ラミーノ「うん」
ラミーノが、静かにうなずく。
ラミーノ「それは、汚れじゃないなー。生き残った証拠だよ」
エミは、はっと顔を上げた。
エミ「……は?」
ラミーノ「欲しいと思えるってことは、もうエミは物じゃないってこと。当たり前でしょ?」
ラミーノは、少し雪が積もったベンチの床を指でなぞる。
そこに、薄く波紋が広がる。
ラミーノ「でも、その欲が奪えなかった自分を憎み、与えた相手を呪い始めたら――それは刃になっちゃう。違う?」
エミは、唇を噛んだ。
エミ「……だから、逃げるの。」
ラミーノ「うん」
ーー
ラミーノは、初めて肯定した。
ラミーノ「逃げるのは、負けじゃない。まだ人を壊したくない人間の選択だ。」
エミの目から、ぽろっと涙が落ちた。
エミ「……あたし、この気持ちを抱えたまま、あの人の世界にいちゃいけない。」
ラミーノ「そうだね」
エミ「でも……消えたら、あの人は、何も知らないままなんだよね」
ラミーノは、少しだけ首をかしげる。
ラミーノ「知る必要がないこともある。神話には、語られない犠牲が必要だから。」
エミは、苦く笑った。
エミ「神話?語られない犠牲がアタシ?…ひどいこと言うね。」
ラミーノ「フフ。アタシは夢の悪魔だから」
ラミーノは、静かに立ち上がる。
ラミーノ「いい?あなたの憎悪は、まだ未完成だ。完成させなければ、武器にも怪物にもならない。私はあなたの思ってる人の味方なの。あなたも信じてるんでしょ?」
ラミーノが指を鳴らす。
《パチン》
駅の風景が、ゆっくり溶け始める。
ラミーノ「この物語を最後まで見たくないなら田舎に帰りなさい。登場人物から名前を捨てて。この感情が毒になる前に。」
エミは、目を閉じた。
エミ《物語…。》
エミ「……あたし、また夢見る?」
ラミーノ「見るよ。でも、次は怒りじゃなくて後悔だ。」
ラミーノは、少しだけ微笑った気がした。
ラミーノ「それなら、まだ戻れる。自分の言葉なんかに縛られちゃダメだよ。」
――目が覚める直前、
エミの耳元で、最後の言葉が落ちた。
ラミーノ「あなたは、誰かを憎まずに消えることを選んだ。それは、その人への救いじゃない。あなたの意志だ。…でも、それでいいの?」
ラミーノ「またね」
ーーーー
ところ変わって、ここは東京23区。41の家。
ーー
ケイ「おい」
オレ「(*≧ω≦)にゃ?」
ケイ「( ・`ω・´)にゃ。じゃねーよ。お前また何作ってる?」
オレ「コークスクリューだよ?あとはサルの持ってくるLSD溶かして混ぜるだけ。」
ケイ「そこのスプーンに溶かした紙は?」
オレ「LSDであります。」
ケイ「そっちの結晶は?」
オレ「す、すぺーどであります。」
ケイ「スピードな。」
オレ「ひゃい…。」
ケイ「その粉は?」
オレ「え、えくすたぴーであります。」
ケイ「エクスタシーね。そっちは?」
オレ「ケタミンビーであります。」
ケイ「( ・`ω・´)ケタミンー?象の麻酔薬じゃねーか。コラ。何しようとしてた?」
オレ「(*≧ω≦)新型コークスクリュー作ってみようかと。バンビも入れてみっかな。『バンビ食いてえ、この通り!』ってなw」
ケイ「なんだその標語だか、わけわかんねえキャッチフレーズは?バンビ?…あ!」
オレ「( ̄^ ̄)みなまで言うな。」
ケイ「バルビツール?お前、そんなのまで手に入れられるのかよ!」」
オレ「言いません。バンビです!」
ケイ「バカ!そんなに混ぜたらどうなるか、わかってんのか?」
オレ「わかんないよ。ケイは知ってる?」
ケイ「知らんなー。死ぬほどヤバそうな気はする。」
ジュン「( ・`ω・´)コラー!救急車なんて呼べないわよ!変なの作って死んだらどうすんのよ!」
オレ「実験台はオレだけど?」
ジュン「やーめーなーさい!」
オレ「もう、混ぜちゃったよ。打つ?」
ケイ「お先にどうぞ。お前が無事ならやるw」
ジュン「ケイちゃん!ジュピタンほんとにやるから止めなさいよ!」
オレ「打たないよ。とりあえず作った分はポンプに入れとく。あとでちょっとだけ舐めてみるわ。じゃなきゃニルヴァーナに混ぜて煙にするかな。」
ケイ「同じじゃねーか。舐めるだけにしとけ。んで、そのポンプも間違わないようにどっか寄せとけ。」
オレ「ちぇー。」
ジュン「ちぇーじゃない!」
オレ「はーい。」
オレはソファから立ち上がる。
本棚の上に祀るように、新型コークスクリューを置いた。
ーー
オレ「なむなむなむなむ」
ケイ「何やってんだ?」
オレ「拝んでる。効きますようにって。熟成させるの。」
ケイ「神棚の方がいいだろ。」
オレ「そっか!パワーストーンのとこに置こう!」
ジュン「ジュピタン!ケイちゃんも乗るな。」
ケイ「こいつは何やっても死ななそうだけどな。」
オレ「粗悪品は死ぬ。ヤクで死ぬなら最後は上物で死ぬって決めてるからw」
ジュン「じゃあ毎日死んじゃってるじゃん。」
オレ「ホントだ!」
ケイ「ホントだじゃねーよ。バーカ。とっくにオレたちゾンビなってるじゃん。」
ジュン「元気なゾンビw」
ケイ「ちげーなー。ヤクが切れたらゾンビになるゾンビか?」
オレ「長い!なら、ゾンビ準備中ゾンビ?」
ジュン「誰が一番うまいこと言えるかってなってなるよw」
ーーーー
《ピンポーン》チャイムが鳴った。
オレ「サルたちかな?ドア開けてくるわ。」
ーーーー
ここは玄関。
サルはいつも通り。クールな感じだ。
エミちゃんは、きちんとお化粧済み。
服も可愛い。
ちょっとオレたちよりになってきたかな。
お出掛け対応モード。準備がいい。
こうなると、後で出掛けなきゃって気持ちがモクモク沸いてくる。
ーー
サル「よお。エミも連れてきたぞ。」
エミ「41さん。こんばんわ!」
オレ「ああ。上がれよ。ちょうど今、エンジン暖まってきたとこだ。今日の話はスゴいぞー。ケイが浮き輪で二階から降りてきたんだ!」
サル「はあ?」
エミ「浮き輪で?」
応接間からケイも出てきた。
ケイ「よお、サル。お土産あるんだろ?オレの奇跡の話聞かせてやるよ。41の話は三段跳びするからほっとけw」
オレ「まあ、いいじゃん。二人とも上がりな。何飲む?」
エミ《あー。ダメだー。この笑顔にやられちゃうんだよー。》
ーーーー
応接間にサルとエミを通す。
タバコとハッパの煙で霧がかってる。
玄関から戻ったら異世界でした。
現実から切り離されないように換気しないとな。
ーー
ジュン「エミちゃん久しぶり!」
エミ「ジュンさんも!こんばんわ!」
サル「どうする?最初にL決めちゃう?」
サルがテーブルにミシン目がついてる一枚のシートを置いた。
オレ《絵柄が真実の目?…ホルスの目か。…エジプトかよ。》
オレ「変わった模様だなー。オレはいつでも。もうコークスクリューは決めちゃってるし。すぐ食える。元気一杯だよ。」
ケイ「(*≧ω≦)オレもだな。」
ジュン「(*≧ω≦)アタシもいいよ。」
サル「じゃあ、まずハッパ一服させてくれよ。そっからやるわ。」
オレ「サルは試したの?」
サル「ああ。けっこう、ぶっ飛ぶw」
オレ「(*≧ω≦)じゃあ決めてドライブ行く?」
サル「試してからにしろよ。オレはお前といっしょの幻覚見るのもうヤダw」
オレ「じゃあ、ケイとジュン。いっしょにスタートしようぜ。このLの効果時間計ろう。せーの。あーん。」
オレとケイとジュンは同時に舌の上にLSDを置いた。
オレ「幻覚スタートーー!」
ーーー
オレ「エミちゃんは?そうだ。田舎帰るんだって?」
エミ「えーと…。その話、後でいいですか?」
オレ「わりいわりい。エミちゃんは何かやる?何でもあるよ。」
エミ「41さん。今日はメニュー発表しないんですか?あれ好きなんですけど。フルコースの案内みたいでw」
オレ「わかった。けど先に始めちゃったからな。では、最初に前菜としてこちらのハッパはハワイ産のコナゴールドになります。軽い風味と若葉のような色合い。雌花のトップ。シンセミアでございます。種無しで吸いやすさも抜群。とても効きますよー。」
ーーシンセミアとは大麻の受精前の雌花。要は一番効く部分てことだ。
オレ「続きまして、こちらのコークはボリビア産。混ぜ物無しの純度100%。昔々、インカ帝国では農作業で一休みする際に、コカの葉で入れたコカ茶で疲労回復していましたとさ…。」
エミ《初めていっしょに遊んだとき思い出す…。楽しかったなー。》
オレは次々とメニューを紹介していく。
ーー
エミ「じゃあメニュー通りにw」
ーーーー
しばらく、どうでもいい話が続く。
ケイの《通り魔事件》も昔の都市伝説のよう。
今日はいろいろ詰め込みすぎだ。
さっき思い付きで作ったオリジナルブレンド。
ーーーー《あれ?思いつき?》
オレ《いつも動機がわからない。何となく…だよな?》
オレ《…だってヤクから音がした。色が見えた》
今はLSDが効き始めて夢幻の境界にきている。
オレ《このLの加速スゲーな》
振り向くとパワーストーンの前に置かれたポンプが、陽炎のようなオーラを出している。
また一つ。そして一つ。
何かが生まれて壊れていく。
みんなの笑い声。ジュン。ケイ。サル。そしてエミ。
オレ《温かい映画見てるみたい。オレも登場人物だよね?》
オレ《オレずっと寂しかったんだよ。子供の頃からの話をしたいけど、明日でもいいかな?今日もみんなに楽しいをあげる。オレはたくさんもらってるから》
ーー《ドクン!》ーー
オレ《…また?間隔が短くなってる。ふむ…。》
オレ「飲み物持ってくるわ、」
ーーオレが飲み物を取りに立つ。
エミはそれを見逃さなかった。
そのままキッチンについてきた。
ーー
エミ「あのね。」
オレが振り返る。
エミ「今日、これ言いに来た」
少しだけ、エミの声が小さくなる。
エミ「私、田舎に帰る」
空気が止まる。
オレ「ふーん」
オレはちょっとだけ驚いた顔をした。
エミ「急だよね。もう決めたの。でもね。」
オレ「なんで?」
エミは、その一言が来るのは、わかってた。
だから、エミは即答しない。
不安定な覚悟が視線を、床に落とす。
エミ「……理由、ちゃんとしたやつじゃない。」
オレは黙っている。
もう聞いてたし、予想される言葉を待っているだけだ。
エミ「なんていうか……ここにいると、自分が、どんどん欲張りになるから」
オレは眉をひそめる。
オレ「んー?欲張り?」
エミはうなずいた。
エミ「最初はさ、助けてもらえただけでよかったの。」
オレ「うん…」《…やめとこ》
エミは41が何か言いかけて、やめたのがわかる。
エミ「でもね、これ以上は望んじゃいけないって線、自分で引けなくなってきて。」
エミは、ようやく顔を上げた。
エミ「アタシ、ここにいると41さんの中毒になってる。それが怖くなった」
沈黙。
エミは、続ける。
エミ「誰かを好きになる前に、嫌いになる前に、離れたほうがいいって思った」
オレ「……オレ、なんかした?」
オレ《これも幸せの毒?こんな形もあるのか?》
エミにはその言葉が、一番刺さる。
エミは、首を振った。
エミ「何もしてない」
一拍置いて、はっきり言う。
エミ「何もしてないから、だよ」
オレ《だよなー。でも、これもオレが不幸にさせてるになるわけ?》
エミ「優しくされるの、当たり前みたいに受け取っちゃいそうでさ」
エミは、肩をすくめた。
エミ「それ、私にはまだ早い。うまくコントロールできなくなっちゃった。」
エミ「だからね」
エミは、最後に一歩だけ近づいた。
エミ「私を、人として扱ってくれてありがとうございました。」
エミはお辞儀する。
でもさ、こういので堅苦しいの苦手だ。
追い詰められる気分になる。
オレ《そうくるよなー。マッドピエロなんかに捕まっちゃってたけど、元々、真面目な子なんだろうな。》
オレ「あのさー。エミの話はわかった。今からみんなにもオレの事話そうと思ってたんだよ。秘密多いでしょオレ?」
エミ「秘密?どんな話ですか?」
オレ「オレはオレに優しくしてくれる人にしか優しくできない。ビジネス笑顔とは別にね。オレ、子供の頃からずーっと寂しかったんだよ。だから優しさは有限。限られた人にだけしか優しくできない。でも、寂しいのはどこまでも寂しい。だから寂しさは無限。キリがないんだ。」
エミ「無限の寂しさ?」
ーー
その時、かみかみが大きな声で鳴いた。
かみかみ「シャー!」《41。敵だお!》
ーー
ここは41の家の前。
姿を隠した三悪魔たちが、41たちを保護するため待機していた。
夢の悪魔ラミーノ「え?白昼夢のシールド抜けてきた?精神感知できなかった?」
色の悪魔クロノア「私もです。41様の姿なのに色がない。」
音の悪魔ソノリス「出番よ。音は出ている。コイツは機械。人工精神を積んでる肉体。そして、マスターたちと似た力を与えられている!」
ーーーー
ここは41のアタマの中の異空間。
ねこぴょこたちも脅威の接近を感知した。
ーー
ねこにゃん「やっぱり肉体狙ってきたにゃ。」
ぴょこにゃん「まさか41と同じカラダにAP(人工人格)のせてくるとはな。観測値ーー。それも《ver7》にゃん。」
ねこにゃん「ver7なんて、人間じゃ扱いきれないにゃろ。それに41と同じボディしてても41とは違う。身体能力は上みたいだけどにゃ。」
ぴょこにゃん「かみかみの砂場王も強化した。LSDと41の家の空気吸ってマトモにいられるかにゃ。おりたちは作戦続行にゃん。」
ねこにゃん「それにヨーニャ。41にインスピレーション渡したけど何作らせたにゃ?」
41のアタマの中に招かれたのはヨーニャ。
ダークブルーの体毛に金色の満月の瞳を持つ、にゃんこ世界の41の分身。
《ヤクのねこ神》である。
ヨーニャ「もしもの時に備えてな。オレが眠る前に41の新しい《武器》を用意しといた。コークスクリューなんてもんじゃない。名前は《ルナピス》。月の平和。ルナ・ピースからつけた。APだろが人工精神なんざ関係ない。機械でも生き物でも、概念ごとぶっ飛ぶだろうぜ。クッククク」
ぴょこにゃん「ヨーニャは悪者似合うよーにゃ。」
ねこにゃん「ヨーニャは、たまにしか出番ないよーにゃ。」
ヨーニャ「( ・`ω・´)そこの、ふざけシステム生命体。そのやり取りから何の最適解出すんだ?」
ねこにゃん「作戦名何だっけ?」
ぴょこにゃん「怒濤の…?原初人とか言ってなかったか?」
エスネコ「(*≧ω≦)にゃー!」《行こう!》
ねこにゃん「作戦名なんて、どーでいもいいか。ぴょこ。エスネコに変身するぞ!オペレーション《ルナピス》開始にゃ!」
ヨーニャ「今、パクっただろ。」
ぴょこにゃん「代わりに《怒濤の原初人》あげるにゃん。ねこ!変身にゃ!」
ねこにゃん「やるぞー!」
空間が一点に捻れる。
ねこにゃんとぴょこにゃんが粒子になり対消滅した。
そして無の空間から間抜けな音が響く。
《キュン!》ーー
《ぽんっ!》
エスネコ「(*≧∀≦)/にゃーーーー!」
黄緑の体毛に逆立った鬣。
瞳はスカイブルーを基調に、二次元レンズのフィルターごとに色が変化する。
額に赤い稲妻形のS。
胸から腹にかけて赤いNの模様が刻まれている。
エスネコ内部の二柱が叫ぶ。
ねこにゃん《エスネコ!見えるな。飛べ!》
エスネコ《(*≧ω≦)にゃ!》
《キョオンッ!》
エスネコの瞳が曼荼羅模様の二次元レンズに変化する。
エスネコ《リアルフォーカス!つかまえたよ。》
ぴょこにゃん《ガンマとデルタの超次元空間を『遠い手』で掴め!ゼロ時間移動。スリングショットーー!》
《スン》ーーー!!
ノーモーション。
変身の雄叫び「にゃー」から一瞬でエスネコの姿は消え去った。
ヨーニャ「じゃあ、頼んだぞ。オレは41と眠りにつく。…41。迷わず使えよ。」
ヨーニャの手に光るのは《バックアップ・ソウル》
41の夢ーー《概念のねこ神》たちの世界を圧縮した仮の魂。
それは願いであり、唯一の希望だ。




