第79話《原初の粒vs新型の神編 最終章 神話を描け②moon like a moon前編》
ガンマとデルタの居城に潜入した、ねこにゃんとぴょこにゃん
二柱のピコピコハンマーとスプーンが本物へと変わった瞬間、超次元空間は一変する。
人工の月《moon like a moon》が浮かび、静寂の庭は熱帯雨林のジャングルへと書き換えられる。
神々の放つ圧倒的な攻撃をも軽くいなす、ねこぴょこの変幻自在のねこボディ。
ふざけた奇策の数々で神々を翻弄する二柱だったが、現実世界のタイムリミットは刻一刻と迫っていた——。
新章『原初の粒vs新型の神編』、激闘の第79話!
第79話《原初の粒vs新型の神編 最終章 神話を描け②moon like a moon前編》
ここは超次元空間。
ミラーリング境界の膜で閉ざされた、この空間は観測を拒絶し、ガンマとデルタの許可したモノ以外の出入りはできない。
ーーはずだった。
ーー
ねこにゃん「にゃーん。にゃーん。」
ぴょこにゃん「にゃあ、にゃあ、」
神殿の方からガンマとデルタに向かって二匹の子猫が、てけてけと歩いてくる。
一匹は目映い銀白の体毛につつまれた、チンチラシルバー。
もう一匹は銀色の体毛に漆黒の模様を描く、アメリカンショートヘア。
ーー
ガンマ「デルタ…。」
デルタ「ああ、わかっておる。ここに猫など迷い込めるはずがない。」
ガンマの瞳は紅蓮の炎を吹き出し、デルタの瞳からは氷結の青い炎を吹き上げてた。
合理的な判断。迷いはない。
《クヮーーーン》
超次元空間が二人に呼応するような響きを上げた。
粒の振動によるエコー。
ガンマとデルタは即時に臨戦態勢に移る。
ガンマ「何か咥えているぞ。…オモチャ?…ハンマーか?」
デルタ「こっちは…スプーンか?」
ーー
ねこにゃんとぴょこにゃんは《知》の共有モードで会話している。
ねこにゃん《おい。こんにゃ可愛らしい子猫見て、怪しんでるぞ。即臨戦態勢かよ。人でなしにゃん》
ぴょこにゃん《(*≧ω≦)いやー。突然のねこは怪しすぎるだろ。当たり前の反応にゃん。人でなしは正解だにゃ。人の形してるだけにゃん。》ーー
ーー
ガンマ「観測結果…。有機体…普通の猫だと?かまわぬ。ワレが焼きつくしてやる」
デルタ「ガンマ待て。射線をずらせ。貴様に神殿を壊されてはたまらん。まずは拘束するぞ。」
ねこにゃん《突撃ー!》
ぴょこにゃん《エレガントにやれよにゃ》
ぽてぽてぽてぽて。
てけてけより一段ギアを上げて走り寄る。
ねこにゃん《はい。おりはここーっと。》
ぴょこにゃん《じゃあ、おりは、ここらへんだにゃ》
ガンマとデルタの足元に一匹ずつねこが止まった。
ねこにゃん「にゃあ。」
《ぽとり》
主人に獲物を持ってきたように、ガンマの足元に口からハンマーを落とした。
ねこにゃん「にゃあ。」
誇らしげな表情でガンマを見上げる。
置かれたハンマーの見た目はプラスチック。
ちっちゃなピコピコハンマーだ。
ーー
ぴょこにゃん「にゃあ。」
《ぽとり》
こちらも見た目はプラスチック。
離乳食に使うようなちっちゃなスプーン。
こちらも得意気な表情でデルタを見上げる。
ぴょこにゃん「にゃん」
褒めてほしそうに鳴いた。
ーー
ガンマ「大人しくしろ。」
ガンマより放たれたのは見えない《手》
ねこにゃんとぴょこにゃんの二次元レンズで使う《遠い手》の簡易版のようだ。
地上のオカルト世界で言うところのサイコキネシス。
同様にデルタも無言で押さえつけにかかった。
ーー
ねこにゃん「( ・`ω・´)フー!カーッ!」
ぴょこにゃん「( ;∀;)にゃーん」
二匹は人にいきなり押さえつけられた野良猫のように振る舞う。
ガンマ「肉、骨、内臓。細胞ーーDNA構造も普通の猫だぞ?」
デルタ「…おかしい。戻らせたver5も完璧すぎる。」
ガンマ「確かに。…怪しくないのが余計に怪しい。」
デルタ「お伽噺の神隠しでもあるまい。この空間に普通の猫など入ってこれるものか。ガンマ。ver5を向かわせてから、今までのメモリをチェックしろ。胸騒ぎがする。何かおかしい。」
ガンマ「…気になるのはこの《ノイズ》だな。ver5が時空ポケットに落ちたと推測したモノだ。」
デルタ「そのノイズも偽物だとしたら?」
ガンマ「その根拠は?」
デルタ「完璧すぎるからだ。気に食わぬが貴様も連結しろ。急げ!過去視可能性計算!」
ーーその時ーー
《すくっ》
二匹のねこが二足で立ち上がる。
ねこにゃん「のろまーw」
ぴょこにゃん「いや。おりたちが優秀すぎて困っちゃうにゃんw」
ーー
ねこにゃんとぴょこにゃんの本体は、41のアタマの中の異空間にある。
《知》の共有モードで二柱は会話している。
ねこにゃん《さて。潜入用の糸で作ったこのボディでどこまでやれるかにゃ。おまいも観測したよにゃ?》
ぴょこにゃん《ああ。これじゃ勝てにゃい。たぶん演算速度もおりたちの数万倍にゃ。でも怒りに任せて戦うのは主人公の役目にゃ。そこ計算しないとこが好きにゃんよ。》
ねこにゃん《ほめられたにゃ。やるかにゃ》
ぴょこにゃん《ほめてにゃい。バカねこ。ポジティブバカねこ。やれ!》
ーー
ねこにゃん「《魔のつくもの全て》の力において、擬態の悪魔に命ず!ーージャングルの夜空を照らし出せ!」
ーーーー
テラスの上で霧のように漂っていたver5のガンマとデルタの粒。
それはねこぴょこに再構築されたパチもんである。
ver5は粒子となり、一つに集まりはじめると、柔らかい光を帯び、ぷくりと風船のように膨らんだ。
ーー
ガンマ「何?」
《…プク》
最初は掌ほどのサイズ。
《プワッ!》
だが瞬きの一回ごとに、風船は家ほど、 山ほど、天を覆うほどの球体へと肥大し、最後には青空を遮るほとの巨大な球体となって浮上していった。
球体に青空はふさがれ、影は暗闇を作り出した。
ーー
デルタ「ガンマ!このver5は偽物だ!」
ねこにゃんは小さく息を吸い、愉快そうに口角を吊り上げた。
ねこにゃん「おまいら月は好きか?ーー《moon like a moon》!」
その一言が世界の合図だった。
《パリン!》
乾いた音。
次の瞬間、青空が裂けた。
青が砕け、欠片が夜へ落ちていく。
昼は音もなく剥がれ落ち、代わりに濃紺の闇がそっと世界を包んだ。
風船は白く輝きを増しながら夜空へ昇っていく。
それがバスケットボールほどの大きさになった頃、内部に生まれた光の海は波紋を描き、
ゆっくり、確かな質量を持つ月へと変わった。
虹の冠を纏わせた黄金の輪郭が空を満たす。
そして、その周囲には星々が瞬き、
やがて視界いっぱいに巨大な銀河が現れ遠ざかっていく。
流れる星雲、尾を引く彗星。見たことのない星座。
それらは、現れては、予めデザインされてたように配置につく。
夜空はただの空ではなく天体の園となる。
ーー
同時に、静寂の庭の周囲にも影が生まれた。
石畳が湿った土へ、美しい神殿も密生した蔦で覆われていった。
熱帯雨林の森が生まれ、風の音は、葉のざわめきへ。
静寂の庭の回りは、いつの間にかジャングルへと変貌していた。
ガサガサと茂みが震える。
《グルルルルル…》
低く唸る獣の声。
《キーッ、キーッ!》
木の上からサルの甲高い叫び。
《バサバサババサ!》
羽ばたきが夜気を切り裂き、鳥が黒い影となって飛ぶ。
風は生温く湿り、甘い腐葉土の匂いが漂う。
神殿だけが異物のように、月光の下で孤立していた。
まるで現実の層が剥がされ、神話側の裏面が露出したかのように、一瞬にして景色はジャングルの夜に変わった。
ーー
ガンマ「…有機物だ。それに宇宙のサイズも…数光年先の奥行きまであるぞ。」
デルタ「土まで本物だ…。いったいどこから?」ーー
ねこにゃんはしっぽをふりふりと揺らし、月を見上げながらつぶやいた。
ねこにゃん「ほら、舞台は整ったにゃ。」
ぴょこにゃん「ねこにゃーん。ジャングルかよー。もっとファンタジーっぽくやると思ったにゃん。これじゃプレデター出そうにゃw」
ねこにゃん「わーざーとにゃ。ここ、無機質過ぎてたからにゃ。」
ぴょこにゃん「時代はマヤ文明を参考にしてみましたかにゃ?」
いつもの軽口。だが、月光の夜が牙をむこうとしていた。
ーー
ガンマ「ver5たちを偽の月に再構築したのか。なるほどな。この空。プラネタリウムでも作ったつもりか?」
デルタ「…あのノイズも貴様らの仕業か。ver5たちを作り替えただと?…いや、ワレらのメモリもおかしい。辻褄が合いすぎてる。まさかな…貴様ら世界線を変えずに時間操作したとでもいうのか?」
ねこにゃん「何も教える気はない。質問はまとめてファックスで送れ。気が向いたら返してやるにゃん。」
ぴょこにゃん「じゃあ、一個だけサービスにゃん。おりたちは縫い物得意にゃん。つぎはぎチクチクってね。ヒントになったか?答え出してみろ。ケラケラケラw」
ガンマ「ver5たちに潜んで侵入してきたとはな。大したやつらだ。消す前に聞いてやる。何をしに来た?」
デルタ「ガンマ。油断するなよ。ねこの姿はフェイク。ここに侵入しボディを維持できてる。11次元アクセス構造体と考えられる。…シリーズか?」
ガンマ「わかっている。単体とはいえ《遠い手》の拘束を振りほどいたヤツラだ。おそらくver5は騙されたのだろう。化け猫たちめ。皮を剥いでやるわ。」
デルタ「この夜も剥いで、じっくりと調べてやるわ。ガンマ合わせるぞ…。」
ーー
その会話を遮るように、二柱が叫ぶ。
ねこぴょこ「せーのー!」
ねこぴょこ「行け!ファンネル!」
ーーねこにゃんの専用武器『ハンマー』は中性子星の物質から作られたもの。
《魔のつくもの全て》の力で形も変えられ重さを消しているが、本来はスプーン一杯ほどの量で数十億トンもの重さがある。
それが掛け声と共に、本来の大きさと重さに変わる。
《ドゴッ!》
地面にハンマーがめり込んだ。
ハンマーの置かれたガンマの足元の地面は、すり鉢上に凹み、ハンマーはそのまま宙を飛び上がる。
ガンマ「何!?」
即座にガンマも防御と迎撃体制に移るーーが。
ーー《ドッゴォオーーーン!》
子猫が持てるほどの小さなハンマーは瞬間移動するように宙を飛び交い、ガンマが防御しようとした腕ごと、頭部を容赦なく跡形もなく粉砕した。
その打撃の軌道の先の空間も、衝撃波で歪曲する。
ねこにゃん「あったりーw」
一方、ぴょこにゃんの専用武器『スプーン』はあらゆる次元に干渉可能な、最適化された11次元ナノ合金でできている。
このスプーンはあらゆる空間や事象さえ掬い、削り取り、相手の揚げ足まで取れる。
起動したスプーンは、デルタの足と足元の地面ごと大きくすり鉢上に削り取った。
さらにスプーンは、ねこにゃんのハンマーと同様に予測不能な軌道を描く。
《スッ》ー《スルン》ーー
《パッ》
デルタの目の前に突如出現したスプーンは、意思を持って掬うような動きを見せた。
デルタ「ぬうっ!」
《スルン》ーー
ーー《ザグリ!》
瞬時にデルタは体をずらしたが、顔から左半身を削り取られていた。
ーー
ねこにゃんは「あー。スッキリした。でも、これくらいじゃ死なないだろ。」
ぴょこにゃん「同感にゃん。ムカつかせた分、パンチ入れてやったにゃ。」
ねこにゃん「パンチじゃにゃいよ。おまいのはスプーンにゃんw」
ぴょこにゃん「( ・`ω・´)細かいにゃー。そもそもファンネルってゼータのネタにゃん。おまいも大雑把になるようアタマ削ってやろうか。」
ーー
ガンマ「…フフフ」
頭部の吹き飛んだガンマから笑い声がした。
ねこぴょこたちも軽口で会話しながら警戒は解いていない。
二柱は再生されていくガンマとデルタを視界に入れていた。
ねこぴょこたちは《知》の共有モードで、次の未来視可能性計算を行っていた。
ねこにゃん《まあ、そうなるよにゃ。油断するなよ》
ぴょこにゃん《ふざけても油断はしないにゃん。一応、これが『親玉』にゃんだろ》
ーー
ガンマ「フン…面白い。実に面白い武器だ。こんな衝撃を、その武器は乗せられるのか。なるほど。よくできてる。空間の歪みごと修復せねば直せないわけか。」
超速再生ーー
ガンマとデルタは再生の際に物理再生ではなく、時空を巻き戻して身体ごと戻していく。
破壊されたはずの部位が別の可能世界の肉体と同期して復活する。
壊れた空間を計算式一行で再構築。
半身を削られたデルタも元の白のスーツ姿に復元されている。
デルタ「フン。それでも予定の修復スピードに誤差。削り取った空間は固着するのか。ーーガンマ。貴様の観測結果も同じか?」
ガンマ「ああ。こいつらが武器に応用してるのは二次元レンズだ。だが古い。原理不明な部分もあるが間違いあるまい。貴様との同一率99.9%」
デルタ「原初ーーおとぎ話か。猫の姿は意外だった。ずいぶん想像してたモノと違うようだ。」
ーー
ねこにゃん「またかよ。原初、原初って何にゃん?」
ぴょこにゃん「計算ー?何が、同一率99.9%にゃ。0.1%合ってないにゃん。ポンコツめ。それじゃそろばん落第にゃん。」
ーー
超速再生した紳士たち。
ジャングルに似つかわしくないスーツには、汚れ一つ見えない。
ガンマ「では、試してやろう。耐えられるかな?」
ガンマーー《次元爆裂焼殺炎》
《ゴオッ!》
ガンマの瞳から発せられた紅蓮の炎が、ねこにゃんに浴びせられる。
ねこにゃん「とりゃ!」
《コン!》
ねこにゃん「あり?」
《シュゴオォオォーーー!》
ハンマーで叩かれた炎は二次元化し、地面にめり込まされた。
だがーー
炎はめり込まされた形のまま爆裂。
紅蓮からさらに青い高熱の炎に変わり、ねこにゃんは巨大な炎に包まれた。
《ゴーーーーー!》
ねこにゃん《あっつ!》
ーー
デルタ「ガンマ、やりすぎだ!この超次元フィールドを破壊するつもりか!どうせ、ここからは逃げられぬ。活動を止めればいいのだ。捕獲しろ。」
ガンマを牽制しながらも、デルタの目からぴょこにゃんに発せられたのはーー
次元振動凍結波ーー《コールドゼロ》
分子から原子、素粒子。
あるいは多次元へと逃げる量子までの活動を凍結させる。
《キンッ!》
ぴょこにゃん《さむっ!》
《ピキィーー》
液体窒素をかけられた花のように、ぴょこにゃんは凍りついた。
そしてーー。
凍結されたぴょこにゃんは動きも色も失い透明化していく。
その姿が完全に見えなくなったと同時に、ぴょこにゃんのいた場所から、薄いガラスが少しずつ粉砕されるような音が響いてきた。
《カシャッ…カシャン…カシャン》
ーー
ガンマ「デルタ。貴様も粉砕してしまったではないか。少しでも破片が残ってれば良いのであろう?ーー炎よ戻れ!」
ガンマは、ねこにゃんのいた場所でバーナーのように吹き上がる炎に対して命じた。
デルタ「貴様ほど雑な仕事はせぬ。透明に粉砕されたが、かすかでも破片は残る。それを調べれば十分だ。もし原初ならば取り込めばよい。さらなる進化を期待できるかもしれぬ。」
デルタの言葉には興奮が嗅ぎとられた。
普段の氷のような表情は少し微笑んでいるように見えた。
だがーー
ーーーー
ガンマ「む?炎が一部戻らん…もうよい。戻れ。」
青白い炎の中から笑い声が響く。
ねこにゃん「ゲラゲラゲラ。こいつ炎に呼びかけてるにょか?この火、もーらったw」
《スォン…シャク。サクサク…》
炎は気体、液体、固体になり結晶化。
最後には細かい結晶が集まって、ねこにゃんは、フサフサのチンチラシルバーの姿に再構築された。
ねこにゃん「(*≧∀≦)あひゃひゃひゃ。いいだろー。このカラダは状態変化対応型ねこボディにゃん。ほら、ぴょこも起きろ。」
ぴょこにゃん「うっさいにゃー。先に手の内、見せちゃって。潜入調査にならないにゃん。」
ひょこにゃんの声が何もない空間から響く。
ぴょこにゃん《敵攻撃を解析。11次元知能モードにて最適化ナノ結合にて再構築》
空間から最適化されたエーテルナノ粒子が集まり、ねこの姿を作り出す。
《ーーーーーーフォーーン…》
やがて金色の瞳が現れ漆黒の模様が浮き出た頃には、元のアメリカンショートヘアの姿に戻っていた。
ひょこにゃん「おりのもいいだろ。ナノハイブリッドねこボディにゃん」
ーー
ガンマ「何?バカな…。」
デルタ「ぬう…。」
ーー
再び《知》の共有モードで会話する二柱。
ねこにゃん《ハッタリ効くのはここまでにゃん。そろそろ41も心配にゃん。この超次元の時間の流れは遅くなってる。》
ぴょこにゃん《ああ。わかってるにょさ。この応急のねこボディじゃ、次、攻撃されたらキツイ。派手に逃げるにゃ。》




