第76話《原初の粒vs新型の神編 崩壊プロトコル③団結》
にゃんこシティの広場に集まった数十万の概念のねこ神たち。
上映された映画を通じて、自分たちが「41の魂のバックアップ」であり、彼こそが未知の神々に作られた実験体であることを知った彼らは、圧倒的な熱気と連帯感をもって立ち上がる。
ねこぴょこの二柱でも書き換えられない41の「絶望設計」。
しかし、アムリアの一喝をきっかけに閃いた二柱は、いつもの「ふざけシステム」を全開にした反撃の作戦を打ち出す。
一方、現実世界。
41の日常に、背筋を凍らせる不気味な気配が忍び寄る。
第76話《原初の粒vs新型の神編 崩壊プロトコル③団結》
ここは、にゃんこシティ。
41の見る夢の世界だ。
今、ここには、ねこにゃんとぴょこにゃんの、緊急事態宣言で呼びかけられた数十万のねこ神たちが、よろずやの裏の広場に集まっていた。
広場に設置された高いステージには、ねこにゃんとぴょこにゃん、かみかみ、アムリア、ヨーニャの姿が並ぶ。
この概念の世界で、初めから自我を持っていた原初のねこ神たちだ。
会場は巨大フェスの演出のように、空には七色のレーザービームが飛び交い、上空に巨大なリングライトが虹色に回転する。
ところが、ねこぴょこの二柱から明かされたのは、にゃんこ世界の秘密と崩壊の危機。
集合時の熱気は一変し、ねこ神たちは静かに、空に浮かぶ巨大スクリーンに目を奪われている。
上映されているのは41の魂の設計工程
自分たちを創った神の歴史ーー未知の神に作られたリサイクル実検体《198X41》という粒の数千年数万年の物語だ。
場面は、41の幼少期を映し出していた。
ーー
ここは東京N23区。
新宿のベッドタウンである。
新宿の皇居方向へ向かう通りは靖国通りと呼ばれ、新宿西口ガード下を境に、通りの名前は青梅街道と変わる。
通りには金物屋、乾物屋、味噌屋などが並ぶ昭和の風景を映し出している。
41の家は青梅街道から少し入ったところにある、
瓦屋根の古びた一軒家。
垣根に囲まれた小さな庭には紫陽花が彩り、梅の木や母親が育てている薔薇の木が植えてある。
軒先で足をブラブラと揺らしながら座っているのは、小学生低学年くらいの小さな子供ーー41だ。
41は空を見上げたり、庭に咲いた薔薇の話に視線を移しながら、躊躇いがちに背中越しの誰かに話しかけた。
41「…ねえ、お母さん。何でボクにはお父さんがいないの?お仕事?」
彩子「大丈夫。お父さんはいるよ。お仕事忙しくて帰ってこれないんだ。たまに、帰って来ても、ようちゃんが寝てる時に帰って、起きる前に出掛けちゃうから会えないんだ。でも、ちゃんとお前の寝顔は見てるよ。」
母親は返事をしながら41の後ろに座り、背中から両手を41の首に回し抱きしめる。
41《…また、聞いちゃった。お母さん困ってる…。》
彩子「ねえ。ようちゃん。何で最近『ママ』から『お母さん』て呼ぶように変えたの?」
41「…学校でお母さんの事ママって言ったら、からかわれたの…。ママって呼ぶのは赤ちゃんだって。」
彩子「そっか。じゃあ、ようちゃんはどっちで呼びたいのかな?」
41「…ボクはママでいいんだけど、からかわれると恥ずかしいから…。」
彩子「そっか。ママって言っちゃうと恥ずかしいのかー。ごめんね。ママはどっちでもいいよ。ようちゃんの好きなように呼びな。」
41「…呼び方変えるのって悪いことじゃないの?」
彩子「あのね。呼び方って大切なんだよ。関係って言葉わかる?」
41「わかるよ。人間関係とか、何々関係って聞いたことあるもん。」
彩子「ようちゃんは、ママからようちゃんて呼ばれるのと『よういち』って呼ばれるのどっちが好きかな?」
41「ようちゃん。」
彩子「でしょ?ようちゃんはさ。これからどんどん大人になってって、お友達もたくさんできる。本名も大事だけど、呼び方とか呼ばれ方で、その人との関係性が決まるんだよ。わかるかな?」
41「かんけーせー?」
彩子「その人と仲良しになれるかなって事だよ。」
41「ママからお母さんて呼び方変えると、ママに嫌われちゃう?」
彩子「そんなことないよ。でもね、相手もどう呼ばれたいかって事だよ。ママは、おうちの中ならママって呼んでてほしいな。」
41「わかった。」
彩子「ママは自分の名前キライだったなー…。だって末っ子だったから、これで最後にしようってサイコにしたんだって。そしたらさ、ようちゃんが生まれた後に《サイコ》って名前の怖い映画出たんだよ。そしたら、もっとキライになっちゃった。だから、今はママって呼ばれるのが好きなんだよ。」
41「アハハハハ。変なのーw」
彩子「お前、子供なのに、こういう話わかるんだね。賢い子だよ。ママの自慢だ。」
41「(*≧ω≦)えへへへへー」
彩子「お庭で何見てたの?」
41「んーとねー。お空と大きい雲。空にはユーフォーいるんだって。それと薔薇の花。ママの薔薇の花咲いたね。」
彩子「いっしょに、お水あげてたもんね。この前、ようちゃんは、ママといっしょに寝てたのに、寝ぼけてお外に出ちゃったんだよ。夜にお花とお話してたの覚えてる?」
41「…覚えてない。でも、お花見てると何か言ってるような気持ちになる。」
彩子「そうなんだ。お花は何て言ってるのかな?」
41「咲いたよーって」
ーーその時。
《ジジッ!》ー《ジーーーーーーー!》
突然画面は歪み、ノイズが走った。
断片的な映像。
消しゴムでジグザグに消したような画像が続く。
41本人の記憶を消すように、意図的に消しているのがわかる。
ーー再び画面は変わる。
古いフィルムのような映像ーー
シンナーをやってる少年たち。
少年になった41が興味と覚悟を持つシーンが続く。
音楽との出会いーー薬物の過剰摂取で死んだミュージシャンたちの音楽と映像。
41《この人たちは何に触れたの?何を見たの?》
41《オレも見たいーー同じ事やったら届くのかな?》
興味と願いが引き寄せの法則を生み出し、41の回りには、必然のような偶然が生まれ、音楽の友と共に薬物の仲間たちが集まっていった。
41《音がよく聞こえる。…わかる。この先なのかな?》
Mちゃんとの出会い。
ケイやサル。ジュンとの出会い。
41《この楽しいを守るんだ。大事なものは大事にしなくちゃ。道を外しちゃダメなんだ。》
ーー
いつも笑ってたはずなのに、誰かがもう戻らないと気づいた夜。
そして、41が描いた物語が始まる決定的なシーンが映し出される。
《チッコォオーーーーーーン》
何かが弾ける音が響く。
LSDを接種した41が異空間の幻覚をつつき、アルファとベータからエスネコを分裂させるシーンだ。
そこからのシーンは一切のノイズも干渉もなく、現在まで鮮明に映し出された。
スクリーンに流れるのは、41の作った、夢と現実の境界が曖昧な世界の物語。
そして上映されてる映像のタイトルは《リバース》から新しいタイトルに変わる。
『198X41無限の檻にゃんこキック』
ねこにゃんとぴょこにゃんが編集した物語は、にゃんこたちの士気を上げるような演出になっている。
それはお伽噺のようなSFメタ神話。
聖地でエスネコとかみかみが虚無と戦うシーン。
さらに、ヨーニャの目覚めから、夢を通して現実世界の41へとリンクする、ねこぴょこたち。
暴力とスピードが支配する組織との戦い。
ーー代償と救済。断罪と祝福。
キラキラした祝宴の夜のエピソード。
ラストはガンマとデルタと名乗る敵を圧倒する、ねこにゃんとぴょこにゃんのバトルシーンで盛り上がる。
ーー再び会場はフェスのような熱気に包まれ、みんなから大きな歓声が飛ぶ。
《ウォーーー!》
《ねこにゃーん!》《ぴょこにゃんー!》
《負けないで!》《がんばって!》
《やっちまえー!》
《やったー!カッコいいー!》
ーーそして上映は終わる。
エンドロールには41を含め、ねこにゃん、ぴょこにゃん、かみかみ。この世界で生まれたアムリアやヨーニャの名前が浮かぶ。
流れる音楽は『FUN FUN In The Night』
続いて、にゃんこシティの数十万の《概念の神》たちの名前が流れていく。
ねこ神のみんなが登場人物だからだ。
流れるエンドロールに自分の名前を探す、ねこ神たち。
《あ、アタシの名前だ!超感動!》
《ちっちゃ!もっと頑張らないとな。》
《ロケ地は代々木公園?ああ、フリマのシーンか。》
最後は「この物語は今も続いている」の言葉で締め括られていた。
ーー
ねこにゃん「みんなー!どうだったにゃー?」
《ウォーーー!》
コール&レスポンス。大歓声が鳴り響く。
ぴょこにゃん「おりたちの全員の物語にゃー!」
《ウォーーーーーー!》
会場の歓声は、大気が揺れるほどの振動を生み出し、それに応えるように、空に浮かぶ虹色のリングは、さらに大きく太い輪になって輝いた。
ーー
ねこにゃん「見てくれてありがとにゃん。ちょっと静かに聞いてくれ。みんなの気持ちも、ひとつになったと思う。そして、無自覚とはいえ、41が何のために、みんなを生み出したのか、わかるよにゃ?ここは41の魂のバックアップの世界。みんなは41の魂にゃん。おりたちも、いつの間にか41の魂に引きずり込まされてて一部となった。いいか。ここからが大事にゃん。」
ぴょこにゃん「おりたちはアルファでありベータでもある。」
ねこにゃん「そして、この世界において無敵の、ねこにゃんとぴょこにゃんだ!この名に懸けて、全力でみんなと41を守るにゃ!」
《ウォーーーーーーー!》
さらに熱気は上がる。
ここの概念の集合体が《41》という、ひとつの魂であること。
全員が自分の存在意義を理解した。
ぴょこにゃん「では、これから、おりたちが考えた作戦を伝えるにゃん。まず、おりたち解析結果としてだ。残念なことに、おりたちでも41の絶望設計は書き換えられない。」
ザワザザワザワ…。
《え?ねこにゃんたちでも?》
全知全能から告げられた不可能の言葉。
会場はざわめきたつ。
そこで会場から一つの声が飛んだ。
《魂》の概念のねこ神だ。
魂「マッドピエロの時のマミちゃんのように、過去に戻って魂の再構築はできないのですか?」
ねこにゃん「…それができにゃいんだ。それは41の魂が《粒》だからにゃん。41のアドバンテージでもある、耐久性まで損なわれる可能性あるにょさ。」
ぴょこにゃん「確かに、それも考えたんだけどにゃ。まだガンマとデルタってヤツらの正体も不明にゃん。今度はこっちから乗り込んで、そいつらに直接聞いてやるつもりにゃ。」
ねこにゃん「まず、捕獲したガンマとデルタのver5に仕掛けをつけたにゃ。それを親玉のところに返す。」
ぴょこにゃん「それと、言いづらいんだけどにゃ…。今、エスネコが41の魂の崩壊を抑えてるけど、エスネコが離れたら…。おそらく持って一週間…。仮に41が他人に、たくさん幸せ分け与え過ぎたら、1日も持たないかもしれにゃい。」
ザワザザワザワ…。
再び会場はざわめきたつ。
魂「そんなに早く…。」
ねこにゃん「だから作戦考えたにゃん。けっこう、一か八かだけどにゃ。うまくいくと思ったら、うまくいくもんにゃ。」
ぴょこにゃん「ガンマとデルタって、おりたちより新型らしいけどにゃ。あいつらの誤算は、41をなめていたことにゃん。みんなも、この世界の意味わかっただろ?まったく本人は自覚ないだろうけどにゃ。41って、したたかなヤツにゃんよ。大丈夫にゃん。」
ねこにゃん「じゃあ、さっきみんなに入れた圧縮メモリに作戦入れるにゃ。話すより早いにゃん。パチもんのガンマとデルタを突っ返したとこがスタートにゃ。」
ぴょこにゃん「じゃあ、作戦名は…」
するとアムリアが前に出た。
アムリア「じゃあ!アイドルアムリア争奪戦!」
かみかみ「あー。じゃあボクは、おぴれーしょん砂場王!」
ねこにゃん「(´・ω・`; )ぴょこ。こいつら、いないとこで決めにゃいか?」
ぴょこにゃん「(´・ω・`; )こいつら映画見ないで、ポップコーンばっか食ってたからにゃ」
アムリア「( ・`ω・´)にゃによー。アタシだって心配してるのよ。和ませただけじゃない。41だってシリアスな物語なんて望んでないわヨ。どんな夢を見たいかでしょ。いつもの、ふざけシステムどうしたのよ。ふざけないと最適解出せないんでしょ。いつもみたいに、もっとふざけなさいよー。重い話ばっかりで、息詰まりそうだわ!」
ねこにゃん「あ!閃いた!もしかして、全部わかったにゃん!ぴょこ。《共有モード》で伝えるぞ!」
二柱が瞬時に《知》の共有モードをつなぐ。
ぴょこにゃん「(*≧ω≦)ねこ。おまい天才かよ。ふざけるにゃよ。だとしたら原初の謎も、そういうことになるよにゃ。」
ねこにゃん「それでは作戦名を伝える!圧縮メモリ上書き!」
ぴょこにゃん「オペレーション《怒濤の原初人》!スタートにゃ~!」
《ウォーーーーーーー!》
ーー《え!?》
《ダサ…》ーー
ーー
アムリア「( ・`ω・´)にゃによー。フンッ!ポンコツねこー!」
かみかみ「どとう?げんしょ…じん?って何だお?」
ねこにゃん「かみかみ。そこは《ふざけニスト》として、気にしちゃダメにゃのさ。ノリで言っただけにゃん。」
ぴょこにゃん「ガンマとデルタが《原初》って言ってたからにゃ。パクってやったにょさ。意外と、何か関係あるかもにゃ。」
かみかみ「ふざけるの大事だもんね。わかったおー。」
新型を名乗る未知の神との戦いが始まる。
ーー
ここは、N区総合病院。
病院のロビー。
41は人間ドックを受診していた。
ーー
オレ「会計も終わり!あー。1日長かったー。腹ペコだよ。何か食べに行こ。」
ジュン「それで?検査結果は?」
オレ「この前、おかしくなった耳も異常なし。血液検査も肺のレントゲンも大丈夫。胃カメラは、おえーってなったくらいだな。」
ジュン「よかったー。でも、それも不思議よねー。健康なジャンキーってのもねw」
オレ「ん?みんなテレビ見てるよ。何の騒ぎだ?速報流れてるみたい。」
オレとジュンは病院のロビーに置かれてるテレビに近づいてった。ニュースキャスターが緊迫した様子で現場中継してる。
ジュン「えー!怖い!通り魔だぅてさ!倒れてる人いるよ。あれ?ここって…。」
オレ「は?これ、あそこだろ。これ…ケイの家の近くだ。」
その時、オレの背筋を冷たいモノが通り抜ける。
オレ《ーーえ?何かが右に走ってったぞ…》
視線を気配の方向へ移した時、一瞬、影が揺らめき霧散したように見えた。
オレ《…また幻覚?》
ーーーー
41たちのガーディアンたちが囁く。
クロノア《まずは一匹。こちらは大丈夫です。そちらは?》
ソノリス《こちらも仕留めましたよ。ケイさんも無事です。ただ犠牲者が…。》
ーー
聴覚剥奪に続く崩壊プロトコル。
41の絶望設計は周囲の現実世界に異変を起こし始めていた。




