第64話《マッドピエロ編 最終章 祝福を掴め⑤ねこ裁判》
三か月前、一人の少女が絶望の末に投げ出した命。
その怨嗟と失われた未来を取り戻すため、高次元の裁き《ねこ裁判》が開廷する。
罪の重さを映す透明な牢獄、体感率100%の現実再生、そして命運を賭けた不条理な「にゃんけん」——。
マッドピエロの残党どもに突きつけられるのは、絶望の代償か、それとも改心の機会か。
一方、現実世界では狭いバラック街で半泣きになりながらアメ車を走らせる41たち。
共感の果てに頭の中で鳴り響く「イッツ・ア・スモールワールド」と、帰宅した41の胸を突く謎の鼓動。
全てが決着を迎えたかに思えたその時、41の内側で静かに覚醒する真実とは——!?
第64話《マッドピエロ編 最終章 祝福を掴め⑤ねこ裁判》
ここは、T13区。
まだ、戦後のバラック街の面影が残る地区。
道は複雑で狭く入り組んでいる。
41たちははサルのナビに従って、エミの家に向かっていた。
古い木造アパートやスーパーと新しいマンションが立ち並ぶ。空地になっているところも多い。
いずれ新しいマンションか駐車場になるのだろう。
昭和の景色はまだカラーだけど、いずれ古臭く見えるんだろうね。
レコード屋もCDばっかりになってきた。
CDなんてプリントだ。大量コピーの複製に過ぎない。
レコードの針は音と共に、土地の空気も、その場の時間の匂いも雰囲気も刻み込む。
日本で録音すると湿気が多い音になるんだってさ。
演歌向きだよね。
だから、軽くて乾いた空気を求めてカリフォルニアあたりにわざわざ録音しに行くんだ。
湿気が少ない分、音も通りがいいんだろう。
便利は快適だ。
でも、不便の中にしか味わえない質感もある。
デジタルとアナログは、性能の違いじゃなくて役割だろ。
生き方だって、結局は同じこと。
今のオレをダイレクトカッティングしたら、どんな音になるんだろう?
湿って重いのはイヤだな。
軽くて乾いた音になりたい。
オレ《今はまだ面白いけどさ。だんだん、つまらない世の中になってきそう》
《カラフルなのに色がない》
ーーーー
夜も11時を過ぎれば明かりのついている家も少ない。
近所迷惑にならないよう、大人しく走っているのだが、そもそもエンジン音がでかい。
ーー
サル「41。そこを右だ。一方通行んとこ。」
オレ「( ;∀;)ここ?ひー。ここも狭いよー。ケイ運転代わってよー。」
ケイ「(*≧ω≦)ぶつけても文句言わないか?そもそも事故なんて起こして警察の厄介になるなんてイヤだからな。」
オレ「( ̄^ ̄)いえ、文句も言いますし警察のお世話にもなりません。」
オレ《くっそー。ケイのリンカーンが通れたのに、カトラスで出来ないわけない!…のはずー!》
ケイ「( *´艸`)みんなー。危ないもの持って避難準備しとけ。ぶつかったら41置いて逃げるぞー。」
41「この薄情者!うわ狭っ!あらよーっとー!こうか?こう!とりゃー!」
アメ車のハンドルは常に軽い。
今のパワステみたいに速度で重さが変わらないから、きまぐれにくるくる回るんだ。
ケイ「( ; ゜Д゜)うおー!ここ、切り返え無しで、よく曲がったな。こっち、あと2センチくらいしか隙間なかったぞ。」
オレ「マジか。危ねー。それより前がぶつかると思った。夜だし、ここ暗いんだもん。」
サル「お前らもそろそろ国産乗ればいいじゃねえか?馬力もあるし乗りやすい。楽だぞ。」
オレ「そうじゃないんだよ。まだ不便を楽しみたいわけよ。コイツみたいにさ。あらよーっとー!」
ケイ「うちの家族は国産車乗ってるよ。誰が乗っても上手く走らせられる車なんてつまらん。まあ、そのうちだな。欲しいヤツがないんだよ。今のZならいいかもね。」
ジュン「スポーツカー?だったらケイも928乗りなよ。早いし安いよ。」
サル「ポルシェを牛丼みたいに言うなw」
パイロットの必死な操縦を他所に、呑気な会話は弾んでる。
オレ《( ;∀;)カトラス!パパがんばるからな》
ーーーー
オレ「(´・ω・`; )ふう…。やっと着いた…。サル。さっき言ってたコンビニってここか?ここからどう行く?」
ーー
ここは一昨日、エミを訪ねる際に立ち寄ったコンビニ。
もちろん、サルには内緒。
ケイやジュンにも言えない事がある。
サル「この十字路真っ直ぐ行ってすぐだけど狭いぜ。すぐだからオレ歩いて行ってこようか?」
オレ「もう狭いのイヤ。じゃあ頼むわ。それと、遊びに行くから派手でお洒落なカッコして出掛けようって言ってきて。」
サル「DISCO行くような服だろ?六本木と新宿じゃ違うぜ。」
オレ「六本木もドレスコードとか言う店増えてきたからな。偉そうによー。」
ケイ「女は平気だろ。」
オレ「男をイモ扱いする黒服いるような店は行かないよ。どうせ横浜まで足伸ばすし。それなりで任せるよ。」
ジュン「えー。そしたら一度ジュピタンの家にも帰ろうよ。アタシも着替える。この服、焼肉臭いもん。」
ケイ「オレもー。41。お前の服貸せよ。サイズ同じくらいだろ。」
ジュン「ジュピタンは、また木星のTシャツじゃない?」
オレ「いやいや、そういう感じじゃない。どうせなら、今晩は『マイアミバイス』みたいなノリで行こう。」
サル「オレたち捕まる側だけどね。オレ、普段着だけど?」
オレ「んー。オーバーサイズだけどサルもオレのジャケットとか羽織って行けば?」
ケイ「じゃあ、お前のアルマーニ貸せよ。オレがドン・ジョンソンやる。」
オレ「えー。貸してもいいけど、カレーうどんとかミートソース食うなよ。…じゃあオレはグレン・フライ役にしよう。運び屋風ファッションw 家に帰るなら《ユー・ビロング・トゥ・ザ・シティ》入ってるドライブカセット持ってくよ。メロウなBGMでドライブだ。」
サル「オッケー。じゃあ行ってくるわ!」
ーーサルはエミを迎えに行った。
ケイ「(*≧∀≦)どーこがメロウだよ?オレはお前がいろいろ動き出してから、アタマの中にフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッド流れてる。」
ジュン「そんなことないよ。アタシは心配したけどファンカデリックとかユーリズミックス流れてたかな。ジュピタン、ミッショナリーマンだったしw」
オレ「んーと。…オレは…イッツ・ア・スモールワールドかな?」
ケイ「(((*≧艸≦)ププッ はあ?何でディズニー?」
ジュン「(((*≧艸≦)ププッ アタマから離れないヤツね!」
オレ「いや、マジでそう。コークスクリューやってると良くも悪くも共感できちゃって、せーかいーは、ひーとつーって流れてくる。これこそコークスクリューの真髄かも!」
ケイ「(*≧∀≦)真顔で言うな。解毒にディズニーね。相変わらず天才的なバカの発想だ。また失敗作の強化人間なっちまった。」
オレ「( ・`ω・´)いや、そーでもねーぞ。きっちり覚醒した気がするもん。お前らも後でたっぷりやってみろ。言ってる事わかるから。」
ジュン「( *´艸`)その代償がディズニーなの?だったら覚醒したくない。お花畑じゃない。」
ケイ「イッツ・ア・スモールワールドがアタマに流れてるジャンキー怖すぎだよ。」
ジュン「サイコパスガンダムなんて乗るからよ。」
オレ「( ;∀;)シロッコだったのにー。」
ーーーー
それから15分ほどたって、サルがエミを連れて戻ってきた。
エミは化粧もバッチリ。
精一杯お洒落なカッコしてきてた。
表情も心なしか明るく見える。
たぶん、サルからタツの話を聞いたのだろう。
ーー
オレ「エミちゃん久しぶり。いきなり誘って悪いね。」
エミ「大丈夫です!誘ってもらってスッゴい嬉しい!アタシもいいんですか?」
エミ《今度は嬉しくて泣きそう…。ホントに助けてくれたんだ。41さんには言えないけど、あの後、エミもがんばったんだよ》
エミ《でも、この前会った時と顔が違うように見える。初めて会った時の顔だよね?何でだろ?》
すでにエミは41から敵として思われていない。
《フェイクマスク》は解除されていた、
ーー
オレ《何だろう?ずいぶんと吹っ切れたような顔してるなー。何かあったんか?…女の子わかんねえなーw》
ーー《まあ、いっけどさ》
オレ「(*≧∀≦)いいに決まってる。取り敢えず乗って。オレたちも一度家に帰る。んで、とっとと着替えて出かけるから。」
ーーケイが助手席から出て、エミは後ろに乗せる。
エミ「この車、顔が可愛い!こんな大きい車乗るの初めて!みんなで、どこに行くんですか?」
オレ「(*≧ω≦)いっぱい!とにかく今日は遊び倒す!」
近所迷惑にならぬようそーっと発進。
それでもカトラスのV8は、獲物を狙う猛獣のような唸り声をあげている。
《ブロロロロロロロ》
《グルルルルルルル》
オレ《しーっ!ここ抜けたら走らせてやるから静かにしとけ》
ーー迷路のような道を抜け大通りに入る。
これでちゃんとアクセル踏めると思った、
その時ーー
ーーーー《では、裁判を始める》ーーーーーー
オレ《何だ?幻聴?》
一瞬、回りの音が置いてきぼりになり、オレのアタマの深いところで声が聞こえた。
ーーどこか聞き覚えのあるような声…、
オレん中に誰か住んでるのか?
ーーー
オレ「(´・ω・`; )…んー?うーむ…。」
隣のケイがオレの変化に気づいてたようだ。
ケイ「どうした?またフリーズか?別の事考えてんなら戻ってこい。運転気をつけろよ。」
ジュン「ジュピタンて、突然意識がどっか行っちゃうからなー。」
エミ「そうなんですか?w」
サル「しょっちゅうだよw」
ーー回りの軽口と相反して、神妙な気持ちになった。
オレ《何だ今の?お告げ?ーーはっきり聞こえたぞ》
オレ《ーあ。家でかみかみが「にゃいにゃん」って鳴いたの「裁判」って聞こえた。アレの事?》
オレ《やべえな…オレもいよいよ壊れてきたかな?》
オレ「(*≧ω≦)いや。何でもない。ただの幻聴。とにかく一度、焼肉の匂い消しに帰ろう。」
ケイ「(´・ω・`; )ただの幻聴だぁ?当たり前に言うなよ。気になるわー。」
ジュン「(´・ω・`; )こういうとこよねー。」
オレ「わりいわりい。擬似ニュータイプなんで許してw」
ケイ「(*≧ω≦)じゃあ、しょうがねえな。」
エミ「何の話なんですか?」
ジュン「(*≧∀≦)バカうつるから気にしない方がいいわよ。」
オレ《(´・ω・`; )いつから雑に扱われるキャラなったんだろ。どして?》
ーー
山手通りから青梅街道の交差点が見えてきた。
フロントガラス正面に満月が見える。
コークスクリューの影響かな。
月の回りに虹が見える。
ーー幻想的。
《楽しい》に手を引っ張られてるみたい。
オレ「さあ、基地まであと少しだぞー。」
ーーーーーー
その頃ーー
41が作った夢ーー《概念の世界》では、マッドピエロたちと、その愚行に加担した者たちが集められていた。
ねこの姿で連れ去られた者も、人の姿に戻されている。
裁きを行う広場は、まるでローマのコロシアムを思わせる石造りの円形闘技場。
観客席に座っているのは鎌を持ちフードを被った死神たち。
よく見れば自分たちが入れた、見慣れたタトゥーの死神が実体化されたモノであった。
その死神たちにマッドピエロは見物されている。
隣同士でヒソヒソと話してる様子も見て取れる。
広場に並ぶのは大きさの異なる透明な円筒。
ひとつひとつの円筒の内部に押し込められているのは、百名を越える被告たち。
広場の正面に高い台座がある。
裁判台だ。
左右には宙に浮かぶ巨大なスクリーン。
裁判台に座っているのは二匹のねこ。
種類はチンチラシルバーとアメリカンショートヘア。
ねこにゃんとぴょこにゃんである。
ーー
ねこにゃん「では、裁判を始める。被告人たちは、そのままで構わん。楽にしてろ。」
その声はマッドピエロ一味のアタマの中に直接響く。
マッドピエロたちは、ねこにゃんとぴょこにゃんから伸ばされた見えない《糸》でつながれていた。
11次元構造体である二柱から伸ばされた《糸》は、被告たちの全てにアクセスしている。
二柱の能力である《二次元レンズ》は、次元を超えて情報(因果・思考・感情・概念)を観測する装置 。
ふざけた二柱が持つ、ふざけた機能。
こいつらは神ではないが
《神様は何でもお見通し》の真似事ができる。
マッドピエロたちは、突然の場面展開に理解が追いつかない。
この直前に見たのは巨大なメロンと、そこから顔を出した黄色いねこ。
それは、先に留置場に入れられた者の前にも現れていた。
ーー
被告として集められた者たちは、何故ここにいるのか、どうやって連れてこられたのかもわからない。
そして告げられたのは突然の裁判の開始。
裁きを言い渡そうとしているのは二匹のねこだ。
それも、流暢に人語を話している。
マッドピエロたちは現実か夢かも判断できず、
混乱と狼狽の中にいた。
ーー
ぴょこにゃん「その円筒は我々が、お前ら一人一人を観測し構築したものだ。直径は、お前らの罪を示す。狭ければ狭いほど罪は重い。そして高さは、現在のお前らの寿命を表す。高さは分かりやすいように、目安として1メートルを1年としている。円柱の壁面を見ろ。そこにはデジタルで刻まれた残りの寿命が表示されているぞ。」
被告たちは一斉に壁を凝視する。
緑色の数字が冷たく点滅し、残りの年月を容赦なく刻んでいた。
60を越える数字もあれば、今の年齢の1年後を示しているものもいた。
それを寿命と取るか余命と取るかは本人の自由だ。
もちろん死因まではわからない。
ねこにゃん「これから、マッドピエロの愚行により命を落とした犠牲者や人生を台無しにされた被害者たちの救済を行う。そのためにはエネルギーが要る。代償は貴様らから取り立てる」
円筒の内部に満ちる空気が変質する。興奮、不安、焦燥、落胆、怒り、そして虚脱感。さまざまな気分が渦を巻く。
《ココココ…》
声が響いた瞬間、円筒の直径がわずかに縮んだ。
被告たちの体は壁に押され、悲鳴が上がる。
ねこにゃん「あー。ちゃんと動くようだな。お前らから代償を取る時、この円筒は罪が重いと狭くなる。低くなれば、その分お前らの寿命が削られる。そして体積に耐えきれぬほど圧縮されたとき――お前らはただの野良猫の姿に変わる」
ーーー《野良猫に変わる?》
場内の空気が凍りつく。
ぴょこにゃん「仮に六十年の寿命が残っていても、それは猫に換算される。六十歳の野良猫など、生きて十年が限界だろう。」
ねこにゃん「お前らがやってたのは、赤信号みんなで渡れば怖くないってヤツかにゃ?代償もみんなから取るから怖くないにゃんよ。」
ぴょこにゃん「というわけでだにゃ、」
ーー
そこで一人のマッドピエロから野次が飛んだ。
タンクトップ姿。
両肩に死神と悪魔のタトゥーを入れた男。
かみかみが原宿で捕獲した幹部の一人である。
マッドピエロ「わけわかんねーこと言ってんな!ねこの説教なんて聞きたくねー!いいからここから出せよ!」
ねこにゃん「そっか。おまいはひとまず潰れてろ。浮遊・圧縮・紙。」
《フワリ》
男が入れられた円筒が、全員が見えるように浮かび上がる。
《クシャ》
紙屑を握り潰すような音。
男は圧倒的な力で上からぺしゃんこに潰された。
しかし、血や内臓が飛び出るような事はない。
紙でできた人形のように潰され、ペラペラの一枚の紙に圧縮されていた。
ぴょこにゃん「(*≧∀≦)カエルに折ってやるにゃん」
《ピシ。ピシ。ピシ…》
折り畳まれる音とともに、紙から男の声がする。
男「痛っ!痛い!腕が折れた!アタマがへこむ!痛っ!いてえー!」
そして、男は折り畳まれカエルの折り紙にされた。
男「苦しい…。い、息ができない。痛い。やめて…。」
折り紙のカエルが苦悶の言葉を吐きながら、円筒の中をぴょんぴょんと跳び跳ねる。
男の回りの空気は厚く粘り、息の出し方を学び直す必要があるかのようだった。
指先が床に突き刺さっても、指先は紙の感触しか返してこない。
声は出るが、空気がそれを丸めてしまう。
ーー
ねこにゃん「やめにゃいよ。大事な話を遮ったからにゃ。他は?話したそうなヤツ、先にまとめて潰しとこうか?」
ぴょこにゃん「次は折鶴か手裏剣かにゃ。畳まれる回数が増えるほど苦しくなるにゃん。ほら、何か言え。」
マッドピエロたち《………》
全員が硬直し震える。
息一つ漏れぬように、両手で口を押さえるモノもいた。
ねこにゃん「ぴょこ。とっとと代償を搾取して祝福のエネルギーに充填するにゃ。おりたちの遊ぶ時間もなくなるぞ。」
ぴょこにゃん「そうしよう。具体的に映像で見せときゃいいな。」
ねこにゃん「では始めるぞー。何に相当して削り取られるのかは、貴様らのアタマに映像として映し出されるようになっている。事の顛末まで観測してあるからな。因果応報ってヤツにゃ。」
ピエロたちは恐怖で怯え震える。
壁を叩き、蹴り、壁に爪を立てるが、
透明な牢獄はびくともしない。
それぞれの脳の中に愚行の記憶が甦る。
そして記憶は、本人をその場所に飛ばす。
女の子の絶叫。殴られ蹴られる被害者の怯えた目。
バットで人の肉を叩く感触。
全てリアルに再現される。
《みんながやってたから…》ーーNO
《断ったら自分がひどい目に合うから》ーーNO
《これは自分は知らない。見てただけだ。関わってない》ーーNO
《騙された方が悪いんだ。やられる理由もあるだろ》ーーNO
《やられたら、やり返せばいいだろ》ーーNO
《自分だってやられたんだ。やらなきゃ、またやられる。》ーーNO
《全部、タツが悪いんだ》ーーOUT
ーーーー
ねこにゃん「全否定される気持ちはどうかにゃ?まあ、わからなくもにゃいよ。」
ぴょこにゃん「お前らの言い訳や言い分は予めリストアップしてたにゃん。そのうえで代償の分配率も決めたにゃ。」
ねこにゃん「ついでに、もうひとつ。マミという少女が体験した痛みや恐怖を味わわせてやろう。この子が、どうやって絶望に追いやられていったか体験してみるといい。案内人は、お前らの好きなヤツにしてやる。ーー《魔のつくもの全て》の力において、《死神の悪魔》を構築。マミの絶望の経路をマッドピエロたちに案内せよ。」
ぴょこにゃん「まあ、マミの名前は覚える必要ない。これを魂に刻め。ーー《マッドサイエンティスト》の力においてマミの記憶と脳神経・痛覚をマッドピエロに接続、体感率100%。ショック死を制御。発狂リミッターを限界まで解除。バーチャルリアリティってヤツだ。ほら、人の痛みを味わえ」
マッドピエロにマミのリアルが再現される。
《いや!やめてー!》ーー
《それ何?そんな量打たれたら死んじゃう!》
《そんなことやりたくない。何でやらなきゃならないの?》ーー
ーー《…言うこと聞きますから。…もう殴らないで》
《もう、何も考えたくない。考えられない…。》
《死ぬのは怖い。生きてるのはもっと辛い》
ーーー
《ぎゃああああ!》
マッドピエロたちから恐怖と痛みの悲鳴があがる。
首が一様に曲がっている。
手足もあらぬ方向に折れ曲がっている。
さらに、死神のタトゥーに切り刻まれる痛みが襲う。
マッドピエロ《グウぅ。ゲホッ!ゴボッ》
ーーーー《死ねない。狂えない。助けてくれー!》
ーー
ねこにゃん「よし。ストップ。元に戻れ」
ぴょこにゃん「もう一回やるか?」
首を縦に振る者などいない。全員がガタガタ震え、元に戻ったカラダをあちこち確かめるように触っている。
ねこにゃん「これは、本当に起きた事。追い詰められ絶望し、命を断つ者の苦しみや痛みが少しはわかったか?」
ぴょこにゃん「おりたちには、お前らが残酷競争してるようにしか見えなかった。ひどいシーンばかりにゃん。みんなで一人を押さえつけて指を折ってるヤツがいた。そしたら他のヤツが出てきて、オレなら二本折れるって。次は次はってエスカレートしていく。これは何を競ってるんだ?」
ねこにゃん「一度被害者になったヤツも、自分がやられたくなかったら、次の犠牲者連れてこいって生け贄を出す。これは何のバトン競争にゃ?それがつながって、誰にもバトン渡せないヤツは忘れ去られていく。そして、この子のように消えていく。」
《沈黙》ーー
マッドピエロから言葉ひとつも出てこない。
ぴょこにゃん「まあ、いい。おりたちは人じゃないからにゃ。一応、世界中の法律にも裁判にもアクセスしたにゃん。曖昧だよにゃ。でも、ズルはよくにゃい。お前らと別の人間にもアクセスしたけどな。バカでふざけたヤツらだけど、正義は持っていたぞ。」
ねこにゃん「野良猫の姿になってしまったヤツには最後のチャンスをやる。この世界は《にゃんけん》という勝負がある。お前らの世界のじゃんけんのようなモノだ。ルールは石板を見ろ。」
石板に彫ってあるのは四種類のレリーフと説明。
それは個々の円筒の壁面にも映し出されている。
石板には、にゃんけんの4種の手のシンボルが、レリーフのように刻まれ、ルールが書かれていた。
▷ スーパーグー(親指を立てたグッドサイン)
「ねこぴーちゅキラーに勝てる。オーケーパーとねこぴーちゅに負ける」
▷ オーケーパー(人差し指と親指で丸を作ったオーケーサイン)「スーパーグーとねこぴーちゅキラーに勝てる。ねこぴーちゅに負ける」
▷ ねこぴーちゅ(中指と薬指を立てたピースサイン)「スーパーグーとオーケーパーに勝てる。ねこぴーちゅキラーに負ける」
▷ ねこぴーちゅキラー(中指と親指だけを立て握り込む)「ねこぴーちゅだけに勝てる。スーパーグーとオーケーパーに負ける」
ーーーー
マッドピエロたち《何だこれ?四種類のじゃんけん?じゃあ、…『ねこぴーちゅ』を出しとけば勝てる?あれ?天敵がいるのか?》
石板には不条理を盛り込んだ、四すくみのルールが書かれていた。
ーー
ねこにゃん「面白いだろ?最強の手は最弱に負ける。最弱は最強にしか勝てない。」
ぴょこにゃん「じゃあ、あとの二つはどう出すかだよにゃ。これは勝ち負けだけじゃなく、勝ち方にも、こだわってるにょさ。」
ねこにゃん「勝てた者には、人としての記憶を消して、ただの野良猫にしてやるにゃ。だが負ければ、人の記憶を持ったまま野良猫として生きる事になる。」
ぴょこにゃん「おりは、どっちもイヤだにゃーw」
ーー《いやだぁーーーー!》
最悪の罰に呻き声と泣き声が交錯する。
ーーーー
ねこにゃん「それでは、判決とともに執行を開始する。全員、有罪。代償をもらうぞ!」
ぴょこにゃん「反省も後悔もいらないよ。お前らはツケ払うだけにゃ。」
判決の宣言と共に、ねこの鳴き声が響き渡った。
《にゃーにゃー、にゃーにゃー》
《にゃーにゃー、にゃーにゃー》
幾重にも折り重なる鳴き声が、
空気を震わせ、空の大気をたわませる。
何千匹か、いや、何万匹か──。
見えないはずのねこの群れが、確かにそこにいるかのように。
鳴き声は波となって押し寄せ、広場全体を揺さぶる。
《スー》
そして、その宣告と同時に、円筒の壁面が音もなく動き出した。数字がカウントダウンを始め、石畳の広場には、悲鳴と嗤いが渦を巻いた。
《近寄るなー!狭いっ!きつい!》
近づく壁を両手で押さえる者。
《天井が下がってくる!止まれ。止まってくれ!もう、これ以上下がったら立ってられない!》
天井を必死に押さえ頭を抱える者。
そしてーーーー円柱の動きが止まる。
ねこにゃん「こんなもんか?」
ぴょこにゃん「いや、被害者が辛い思いした分、もう少しもらっとくにゃん。被害者にサービスしてやろう。」
ねこにゃん「ねこ賛成にゃん。じゃあ、お前らが搾取される番だにゃ。同時にお前らの未来見せてやろう。」
ぴょこにゃん「これは、情けと思え。このまま、行ったらの未来にゃ。直せるチャンスだぞ。」
《ココココ…》
再び円筒が僅かに動き出す。
そして、全員のアタマの中に未来の自分が映し出された。
《ヒイッ》
《え?》
《そんな…》
見知らぬ未来の募集広告ー闇バイト。
安易な金儲けに飛びつき強盗致傷の罪を負う者。
詐欺集団の護送シーン、長い刑務所での暮らし。
出所後、職にありつけず生活苦になり、さらに罪を重ね人生の大半を刑務所で終わる者。
暴行を受けているホームレスになった自分。
女には内縁の夫からのDVを受ける姿や、
子供が虐待死されるシーンが浮かぶ。
ーー
これは、ねこぴょこたちが見せた最悪の未来線。
重たい沈黙が流れる。
突きつけられた未来に言葉を失う。
誰一人どれも目を背けたくなる惨めな姿だ。
ねこにゃん「見えたよな?じゃあ、もうひとつ見せてやろう。未来はまだ変えられるぞ。」
ぴょこにゃん「そこに見えてるカウンターは代償を払った今の寿命だ。今から見せるのは別の未来。この寿命を伸ばせるかどうかもお前ら次第だ。」
その言葉と共に、また別の景色が見えてきた。
資格を取って好きな自動車整備をする姿。
薬物や酒、タバコをやめストイックに格闘技に打ち込む姿。
起業して家族のような会社を経営する者。
子供の出産に立ち会い泣いてる自分。
希望に満ちた未来が浮かぶ。
跪く者。
声をあげて泣く者。
思わず手を伸ばし掴もうとする者もいた。
ーー
ねこにゃん「さあ、未来はお前らの選択でいくつにも枝分かれしていく。どうする?ここには病院や施設がある。希望の未来を選択したものは、ここでしばらく更正するがいい。ただし、その決意の真偽はこちらで判定させてもらう。わかるからな。」
ねこにゃん「…全員、残るようだにゃ。じゃあ病院に行け。消えていいぞ。」
《パチン》
ねこにゃんが指を鳴らす。
残る事を決意した者たちは全員、《ヤクの神》であるヨーニャの「青ねこ病院」に転送された。
ーーーー
ねこにゃん「…野良猫になったのはタツだけか。お前はやり過ぎた。そして卑怯だった。自分の手を汚さず、間接的とはいえ、人の命を奪い人生を台無しにした。お前の暴力で一生治らない障害を持った者もいる。お前に手を貸してたのは、賄賂をもらってた警察官や代議士の息子のようだな。おりたちは、そいつらからも代償を搾取する。現実世界で上乗せして罰せられるようになるだろう。」
ぴょこにゃん「さあ、タツ。にゃんけんするぞ。石板に掘ってあるルールはわかったよな?チンチラとアメショー。どっちとやる?一番勝負だ。」
タツ「…選べない。やりたくない。お願いだ、許してくれ。」
ねこにゃん「それってお前の被害者の言葉ジャマイカ。真似するなよ。お前は、その言葉を言う権利ないよ。」
ぴょこにゃん「おりたち、遊びにいくから時間がないにゃん。じゃあ、おりたちが決めていいんだにゃ?」
ねこにゃん「じゃあ、おりと勝負だ。やるぞー!にゃーんけーん…ぽいっ!」
タツ「…ぽいっ!」
《人のままだけはイヤだ…》
ーーーー勝負はついた。
ーーーー
ここは東京N23区。
41たちは着替えに帰ってきた。
ドアを開けるとかみかみが出迎えていてくれた。
かみかみ「おきゃーりー!おきゃーりー!」
オレ「かみかみ、ただいまー。いい子にしてたかー」
かみかみ「にゅーん」
かみかみは、しっぽを振ってジュンに飛びついていった。
オレ「( ・`ω・´)そっちかい!」
ジュン「(*≧ω≦)アタシみたいよ。かみかみただいま!」
かみかみ「おきゃーりー!」
その時ーー
《ドクン!》
オレ「……ん?」
オレの心臓の鼓動が、ひとつだけ大きく鳴り響いた。
瞬間、視界が揺らぎ、目眩に襲われる。
景色が滲み、輪郭が曖昧になっていく。
オレ《何だ?太鼓の合図みたいに心臓が鳴ったぞ。こんなの初めてだ。変な鼓動…。スイッチが入ったような…。健康診断は異常なしだったけど…やりすぎか?》
すべてに決着がついた――そんな気もした。
オレ《…落ち着いたら、念のため一度医者にも行っとくか》
オレ《ジャンキーやるなら健康じゃないとね》
ーーーーそして、
この鼓動で別の何かを感知したモノがいる。
エスネコ《やっぱり……。ボクを生んだのも、ボクたちの未来をくれたのもキミだ。なのに、生まれるたび望みは叶わず、万が一叶えば死ぬように仕組まれているなんて。…許さない。そんな残酷な設計をしたアイツらになんて、キミを奪わせない。》




