第59.話《マッドピエロ編 サーチ&アタック――マッドピエロ掃討戦④》
原宿の雑居ビル地下に潜む、マッドピエロのアジト「サーカス」。
少女たちを追い詰め、罪の連鎖を自己弁護で語るピエロたちに、41の冷ややかな怒りが静かに満ちていく。
罪悪感を暴走させ、脳をじわじわと破壊していくコークスクリューの惨劇。
救済のニルヴァーナを与える価値すら見出さず放置されたアジトに、ドアを開けることなく現れたのは——言葉を失うほど狂おしい「ドッペルゲンガー」の影。
蔓延する幻覚、伝染する恐怖、そして高次元の神々が仕掛ける不可避の審判の予感。《ねこ隠し》の真相が描かれる…。
第59.話《マッドピエロ編 サーチ&アタック――マッドピエロ掃討戦④》
《ここは41の中の異空間》
ねこにゃん「(*≧ω≦)この41のフェイクボディ。完璧にゃん。」
ぴょこにゃん「41の髪型と服だけ変えたにゃ」
ねこにゃん「なあ、41が帰る時に幽霊っぽくスーっと姿が消えるように見せたいよな。41が帰る時のドア開ける音消したり、フェイクスクリーン貼れるか?」
ぴょこにゃん「(*≧ω≦)そんなん、楽勝にゃ。そこから、おりたちの出番だにゃ。コークスクリュー状態で、この演出は怖いぞー。真夏の心霊体験にゃ。」
ねこにゃん「41から糸伸ばして、ここのやつら見たけどにゃ。ひどいよなー。誰が一番、ヤバイ事できるかって残酷競争してるにゃん。」
ぴょこにゃん「これがマッドピエロの実態か…。まあ、いい。41が帰った後が出番にゃ。」
ーーーーここは原宿。
古いアパートの裏にある雑居ビル。
エミから、ここの地下にマッドピエロのたまり場かあると教えられた。
サーカスという名の店にオレは来ている。
マッドピエロ見学のつもりだったが、成り行きでコークスクリューを試させてみることにした。
ーー少し、ムカついたからな。
ーー
オレ「このヤクの名前はコークスクリューって言うんだ。何を味わいたいかで変化するブレンドだよ。スピード以外のレシピは…全部入りだ。好きなの楽しんでくれ。」
横に抱きついてる女が横で何かボソボソ言ってる。
ミキ「アタシは悪くない…。しょうがなかったんだ。アタシは悪くない…。」
これは、ミキって名前だったよな。
ーーそうか、
アシッドでバッドトリップしてるのか。
LSDは落ち込むとひどいもんな。
ーー
オレ「悪くない?何の話?ミキはマッドピエロで何か悪いことしたの?」
ミキ「…気に入らない女いたから、ここに連れてきて回させた…。」
オレ《ひでえ…。》
オレ「その子はどうなった?」
ミキ「スピード漬けにされてソープに売られた。」
オレ《女沈めてるって噂は本当だったんだ…。》
オレ「ミキは何でマッドピエロに入ったのさ?」
ミキ「…アタシも先輩に回された。でも紹介すれば助けてやるって。でもAV録られたりしたから、言うこと聞くしかなかった…。」
オレ「そっか。ミキも被害者なんだね。でも加害者に加わったわけだ。ねえ、ここはスピードばっかりやってるんだろ?おかしくなるやついなかった?」
ミキ「捕まった子もいるし。おかしくなって…自殺未遂とか…本当に死んじゃった子もいる…。」
オレ《ひどい…。こいつら、そこまで追い込むのか。》
オレ「それは、ミキも絡んでる?」
ミキ「…ちょっと。」
オレ《ちょっと?人が死んでて、ちょっとはないだろ。》
オレ《懺悔する相手はオレじゃないだろ?ちょっとコークスクリューしてやろう。幻覚の暗示入るかな?》
オレ「ミキ。正面の壁が溶けだしたの見えるか?オレの木星のTシャツの縞模様みたいにさ。」
ミキはオレの隣。カウンター席に座ってる。
正面の酒の棚が絵の具のように溶け、カラフルな触手を伸ばしてきた。オレのTシャツの木星はゆっくり回転を始めてる。
壁からも木星からもサイケデリックな触手が伸びてくる。木星の縞模様がほどけて触手に変わり、それはエサを探すように蠢いていた。
オレ《ーーこれは、話したオレに見えてる幻覚。この幻覚生きてるみたいだ…。スゲーきれい。これ、同じ幻覚見せてあげられるかな?》
オレ「おー。スゲー景色。ミキにも見える?あの壁はミキを喰うつもりかもな。オレのTシャツの木星も回転しながら変なの出てきてるー。」
オレはミキの膝をポンポンと叩く。
オレ「これでミキは動けない。あの触手はミキの罪悪感に反応してるみたいだね。それとも、この木星の嵐の中に引きずり込むのかな。最初に飲まれちゃうのはオレか。ヤッベーw」
ミキ「ネコキチさん!足が動かない!逃げれない!」
オレ《ふむ。見えてるみたいだな。もう少し聞いてみるか。》
オレ「ねえ。君が追いつめた人は何人いるの?」
ミキ「…20~30人くらい…。」
オレ《はあ?》
オレ「その人たちも逃げられなかったんだよな。」
ミキ「アタシも逃げたかったんだよ!」
オレ「…そうだろうな。」
オレ《被害者を加害者に仕立てあげる構造。…胸くそ悪いなー。》
オレ「おーい。他のみんなは楽しんでるかー?お前らの好きなスピードの世界だ。これ使って被害者と加害者作ってたんだろ?罪悪感なんて持ってらんないよなー。」
誰からも返事がない。
もう一人の女もオレにしがみついてる。
エリだっけ?
オレ「君も同じような事してたの?」
エリ「ごめんなさい。ごめんなさい…。」
オレ「誰に謝ってるの?」
もう、オレの言葉は誰にも届いてない。
オレ《ここまでか。ニルヴァーナ吸わせてやる義理もないな。もう少し耐えれると思ったけど、こんなもんか。》
オレ「じゃあ、オレはそろそろ帰るから。せいぜい、がんばれ。乗り越えられたら。上のクラスだ。んじゃな。」
ーー全員が41の後ろ姿を追っていた。
このまま放置して帰るの?
何に錯乱してるのかもわからない。
スピードだと思い込んでいたが、次の瞬間には違う現実に引きずり込まれていた。
ミキには、かつて沈めた女たちの怯えた瞳が幾重にも浮かび上がり、触手の影と重なって絡みつく。
ミキ「いやぁーー!来ないでー!」
エリには、永遠に「ごめんなさい」と繰り返す自分自身の姿が、鏡の向こうで何百体も並んでいた。
エリ「ごめんなさい!ごめんなさい!」
女たちの声がさらに恐怖を跳ねあげた。
他の者には、それぞれが犯した「ちょっと」の罪が、膨張して脳への圧力を高めていった。
「アタマが破裂する!」
男たちの誰かが言った言葉は伝染病のように感染していく。
「あ、あ、アタマが!ぐぅーっ!」
《ガン!》
誰かが何かにぶつかった音がした。
その音を聞いた誰かが、自分のアタマが破裂したと思い込む。
「ぎゃあーー!」
目から耳から鼻から脳みそが漏れてくる。
ただの幻覚だ。
それを必死に止めようと穴を押さえるが、指の間から滴っていく。
「うーっ、うーーっ!」
スピードの昂揚、ヘロインの虚脱、アシッドの幻覚、コカインの焦燥――それらが渦を巻き、全員を「罪の幻覚地獄」に引き込んでいった。
そしてーー。
オレ「うっさい!何も起きてねえし、始まってもいねえよ。黙って反省してろ。少しは気楽に味わえ。」
《気持ちいい。どうでもいいや。自分は悪くない》
《やりすぎた。断れなかった。だから人を踏みつけるのが楽しかった。でも、相手の怯えた顔が浮かぶ。》
恐怖から一転。
歪んだ自己肯定と言い訳探し。
そして沈黙ーー。
ーー
オレ「ごちそうさまでしたー。」
オレはカウンターにコーラ代金の1000円を置き、しがみつく女をはがして立ち上がる。
そのまま振り向かずドアに向かっていった。
オレ《ジュンたち待たせちゃったな。謝んなきゃ》
だがーー。
全員の目に写ったのは41が消えていく姿。
41の後ろ姿がスーっと消える。
ドアも開けずに41は消えていった。
それを目撃した全員に新たな混乱と恐怖が襲う。
リアルすぎる幻覚が彼らを冷徹な現実に引き戻した。
幽霊?いや、実体はあった。話もした。
女は密着した時の腕の感触も残っている。
来たときから幻覚?そんな…。
ーーーー
《ガチャ》
そんな折、ドアが開く。
現れたのは41。
41「あれ?この店やってます?」
これはねこにゃんの『41』フェイクボディ。
《フェイクマスク》の力によって、再び『知り合いの誰かに似てる顔』になる。その知り合いはさっき見た『41』の顔。
少し、髪型が違う。着ている服も違う。
だがそれは、さっき消え去った41である。
41「お前らはやりすぎた。私は41であり異なるものだ。さきほどの懺悔より私たちは貴様らの深いところまで、知りくしている。」
《ガチャ》ーー
ーーすると、また扉が開く。また41である。
41.「あれ、この店やってます?」
これはぴょこにゃんの『41』フェイクボディ。
ねこにゃん41「お前は誰だ?」
ぴょこにゃん41「お前こそ誰だ?」
コーククスリューでかき混ぜられたモノたちには理解が追いつかない。眼前の光景の理解不能な恐怖に縛られている。それも幻覚ではない。
《ゾクゥ!》
血も凍りつく恐怖。
カラダが温度を失いガタガタと震え出す。
するとーー。
《スタスタスタスタ》
一人の41が佐藤と名乗った男の肩に手を置き揺さぶる。
ねこにゃん41「おい。私たちの前に現れたやつがいるのか?それは誰だ?お前らは何を受けた?」
佐藤「うー!うぅーーっ!」
佐藤は床で平泳ぎをするようにもがいている。
ねこにゃん41「答えられぬなら、そのまま溺れてろ。」
《スタスタスタスタ》
《グイッ》
そして、あとから現れたもう一人の41が片手でミキの首を持ち上げる。ミキのカラダは体重が消えたように浮かんだ。
ぴょこにゃん41「41を見たのか?41と話したのか?」
ミキ「み、み…。話してない!話してません!」
首を掴まれてるのに言葉はスムーズに出た。
何が起きている?誰も答えることができない。
ーー
ねこにゃん41「仕方ない。ドッペルゲンガーになってしまったようだ」
ぴょこにゃん41「やむをえまい。どちらかが、このまま消えるしかないようだな。」
二人の41は、マッドピエロたちを背に互いに向かい合う。
次の瞬間、
ーー《ビュウッ!》
二人の身体から赤黒い糸と白い光の糸がほとばしり、コークスクリューの渦に呑み込まれていく。
《ジュオゥーーー》
光と闇の螺旋が交差し、裂けた鏡を押し潰すように、一人の41へと収束していった。
その過程を見たマッドピエロたちは、言葉を失い、ただただ血が凍りつく感覚に縛られていた。
ねこにゃん41は低く呟いた。
ねこにゃん41「……貴様らの中に、41が刻み残したものがあるな。見つけ次第、私は貴様らの前に現れる。必ず、だ。貴様らの精神は、すでに私の《糸》でつながれている。41を隠し通してみろ。――だが忘れるな。見つけた時には、今度は私が41になるのだから。」
マッドピエロたちには、その言葉の意味がわからない。理解が追いつかない。とにかく41を隠し通さなければ、何か悪いことが起きてしまう。
《スーーー…》
そう言って41はドアを開くことなく消えていった。
《グズグズグズ…》
呆然とする間もなく、店は一瞬で廃墟のように変貌する。
――そして朝。
全員は床に倒れ込むように眠り込んでいた。
リミッターが働いたおかげで完全な発狂には至らなかったが、生き残った者たちに残ったのは震えと怯えだけだった。
だが、その中で、佐藤とロクの二人は姿を消したまま行方不明。
やがてこの出来事は《ねこ隠し》という都市伝説となって広まっていくことになる。
ーーーー
その数時間前。
原宿。午前2時を回った頃、41が車に向かって歩いてきた。
ケイ「あれ。41じゃない?」
ジュン「(*≧ω≦)シュピタンだ。暗くてもニヤニヤ悪い顔してるのわかるー」
《ガチャ》
オレはケイのリンカーンに乗り込んだ。
オレ「(*≧ω≦)ただいまー!」
ジュン「ジュピタン!無事でよかったぁ!」
ケイ「どうだった?」
オレ「(*≧ω≦)見学だけのつもりだったけど、ちょっとだけ、やっつけちゃった」
ジュン「コークスクリューで?ニルヴァーナまでやらせてあげたの?」
オレ「んにゃ。イラっとしたんで、放置して帰ってきちゃった。オレは今からニルヴァーナ吸うよ。」
ケイ「まあ、無事でよかったよ。このまま家帰るだろ?」
オレ「アイス買って帰ろうよ。ホブソンズ。」
ジュン「(*≧ω≦)アタシはコーン。」
オレ「とにかくケイもジュンも。今日はサンキュー。おうち帰ってゆっくりしよ。」
ーーー
――その日の夕方。
テレビの画面には、警察突入の映像と「違法賭博店摘発」のテロップが流れていた。
カメラの奥で運び出される担架。
その一方で、数名の行方不明者の名前が読み上げられる。
だがその頃、41の家では――。
アイスを食べたあとの3人が、布団に潜り込み、安心した寝息を立てていた。
世界の暗部を一歩覗いたはずの彼らは、その顛末を夢の外に置き去りにして、気持ちよく爆睡していた。
ーーーー
ねこにゃん「(*≧ω≦)怖いニュースだにゃー」
ぴょこにゃん「(*≧ω≦)気を付けましょうねー」
ーーーー
佐藤「ここは、どこだ?オレは…。何?目の前で、ねこが鳴いてる…。四つん這いで立ってる?…。お、俺の足が!まさか、ねこの姿になってるのか?夢?」
ロク「佐藤さん!オレはロクです!オレも、ねこの姿になってます!!
だが、言葉は鳴き声にしかならない。
佐藤「にゃー!にゃー!」
ロク「んにゃおー!」
二匹は檻の中に入れられていた。
ーー
そこに、金色の瞳の青いねこが現れる。
瞳は満月のように輝いていた。
その目はラリったように虚ろで、しかし底知れない冷たさを宿していた。
ヨーニャ「うるさいぞ。ここは人の世ではない。裁判まで静かに待ってろ。弁護士は…。つかないからな。」
佐藤とロクはその声に背筋を凍らせる。鳴き声しか出せない自分たちが、いつの間にか「被告」となっていたことに気づいたのだ。




