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第5話《夢遊病という種 ~特別と異物の間~》

第5話《夢遊病という種 ~特別と異物の間~》


ここは明晰夢の中。

オレは知らない街をあてもなく裸足で歩いている。


いつから明晰夢が見れるようになったんだろう。


ーー

《種》を持っていたからなのかな…。

夢が進化していくなんて、今でも聞いたことがない。


オレは小さい頃ーー

幼稚園に上がる前から小学校の3~4年生あたりまで、夢遊病にかかっていたらしい。


後から聞かされただけなので、夢遊病の行動も記憶もない。


親も気を使って言わなかったのだろう。


今でも覚えてるのは目覚めた時のシーン。


心配した顔の母親が、何度もオレの名前を呼んでいる場面。


41《え…?どうしたの?》


覚えてない。


いつもそうだった。

きょとんとして目覚めるときもあれば、怯えてギャン泣きするときもあったらしい。


ただ子供ながらに回りの視線に、安堵以外の感情混ざってるのには気づいてた。


ーー

最初は母親といっしょに寝ていた息子が、夜中にいなくなっていたのに気づいて、両親と共に、同居していた親戚で家中を探したそうだ。


家の中では見つからず皆、外にまで出て暗闇の中、手分けしてオレの行方を探したんだってさ。


見つけたときには、真っ暗な庭で、母親が植えた薔薇の花の前に立っていたらしい。


ーーそれも母親に呼ばれ気づくまで、花とキャッキャッ笑いながら話をしていたそうだ。


それが最初の奇行だった。


ーー

後に母親から自分が夢遊病だった頃の話を聞いた。


この子はアタマがおかしくなったか、ナニカに取り憑かれたと母親は心配したらしい。


あるときは、母親と地下鉄で買い物に出かけ、帰りに寝てしまったらしい。


気がついたら地下鉄の中で母親が名前を何度も呼んでる。回りには、たくさんの大人の人たちが、オレを囲んで、「よかった、よかった」と心配そうな顔をしていた事。


何をしたのかも、寝てたのかも、すっぽり記憶が飛んでいてわからない。


だけど起きたときに別世界かと感じるほどの違和感あったのは今でも、うっすら覚えてる。


自分が寝ると、たまに迷惑かかるみたいだって子供心に胸が痛んだよ。


ーー笑えるのもある。


この話はバカみたいで救われた。


3才になりたてのオレが昼寝から突然起きて縁側に向かい「希望・友情・勇気!」と空に向かって大きな声で叫んで、また寝たそうだ。


それを見ていた家族は「この子ちょっと、おかしいけど天才かも?」って思ったらしいw


そんな微笑ましいエピソードだけならいいんだけど…。


ーー

年齢とともに症状が収まり、そろそろ話すのも時効と判断したのか、親や親戚から笑い話のように夢遊病のエピソードを聞かされた。


話されるたびに思い出すのは、何度も名を呼ばれ「起きた?わかる?」と聞かれた事。


その時の母親の不安と安堵の表情だけだ。


本人にしてみれば、聞かされるたびに「それホントに自分の事なの?」って恥ずかしくなるし、「ボクが寝ると迷惑かかるんだ」って思ってた、幼かった頃の胸の古傷が疼いた。


だって子供だもん。寝ぼける事くらいあるだろ?って、恥ずかしさに逆らう気持ちも起こるが、どれも常軌を逸してるのは子供のオレにも理解できた。


ーー

おそらく他にオレに話してないのもあるんだろう。


ーーーーもうひとつ覚えてるシーンがある。


医者と母親が「夢遊病」という言葉を使ってたシーンだ。その時に「夢遊病」という言葉を覚えた。何の事かもわからなかったけど、妙に素敵な響きに聞こえた。


回りはさぞかし心配し、迷惑かけたのだろうと理解したのはもっと後の話。小学校高学年のころには症状もなくなったというが、それとともに自分が夢遊病だったという事も忘れていた。そもそも記憶がないんだから覚えてるわけない。


ーーーー

ところが彼女ができて、いっしょに寝るようになって夢遊病だったことを思い出させられた。


つきあった、どの彼女にも「あんたの寝言変わってるね」と言われる。


はっきりと「誰か」と話してるらしい。

それも会話の間に「ケラケラケラ」とフツーに笑う。


彼女が、面白がって「何が面白いの?」と寝言に話しかけたらちゃんと答えたそうだ。


起きてから彼女に「こんな寝言言ってたよ」と言われても、その夢は全く覚えてない。


ーー例えばこんな寝言。


オレ「ゲラゲラゲラゲラ」


彼女「41くん。何が、そんなにおかしいの?w」


オレ「駅の隣のパチンコ屋の横に空き地あるだろ?」


彼女「うん。あったっけ?それがどうしたの?」


オレ「その真ん中に冷蔵庫が立っててさ、ゲラゲラ……www」


彼女「冷蔵庫?それが面白いの?」


オレ「しゃべるんだよ!開いたり閉じたりしながら!」


彼女「あんた、冷蔵庫と話してるわけ?w」


オレ「そいつ言ってた。“あの火事、見てた”って」


彼女「火事の夢なの?」


オレ「自分は生き残りだって!それで一部始終見てたって!さすが冷蔵庫だよな。火事に強い。アハハハハ。」


彼女「何の話?」


オレ「オレが見た夢の話!それも研究所が爆発して火災が起きた時の事知ってるの!オマエが助けた小熊、オマエ、自分が助かるために、やっぱりいらねえって、途中で捨てただろってw オマエ、研究所の中にいたくせに、どこでそれ見てたんだよー?ゲラゲラゲラゲラ」


彼女「……」


彼女は、目をつぶりながら、寝言で狂気を話すオレに呆れて途中で会話をやめた。


それと同時にオレの寝言も止まり、平和な顔してスヤスヤと寝てたらしい。


翌日、彼女から寝言の事を聞かされた。


彼女と話したのも冷蔵庫と話したのも覚えていない。


ーーただ、寝言の中で《冷蔵庫がオレに話した夢の話》はハッキリ覚えていた。


前に見た明晰夢。誰にも話したことはない。


オレは山頂にある研究所の爆発火災で、崖から降りて逃げようとした。途中で岩肌に捕まってる小熊を見つけて、抱えいっしょに逃げたんだ。


ところが足場も無くなり、片手で小熊を抱えたままじゃ逃げれないと判断したオレは、近くまで来てた火に小熊を投じた。


オレ「片手じゃ無理だ。仕方ない。」


《ぽーい!》


オレは躊躇なく小熊を火に投げ入れた。


オレ「おー。よく燃える。ちょっとだけ長生きできたな。夢だから大丈夫。すまん」


小熊に向かって放った一言。


その一部始終を、研究所にあった冷蔵庫が見てたと言うのだ。


(火に投じられた小熊。それを見ていたという冷蔵庫)


冷蔵庫「……それ、全部見てたからな。おまえ、途中で投げたろ?」


ーー明晰夢を見てたのか?


いや、冷蔵庫との会話なんて覚えてない。ただの寝言?


でも夢の中の冷蔵庫の声とリアルの寝言が、奇妙にリンクしていた。


明晰夢見てるときオレは夢の中の会話を口に出す。

それがはっきりとした寝言になる。


でも、起きてる人と寝言で話すとーー消される?


夢に現実が干渉すると夢の記憶は、思い出せなくなるのか?


ーーーー


彼女「ホントに覚えてないの?あんたフツーにアタシと話してたよ。そのしゃべる冷蔵庫と話しながら」


オレ「覚えてねーよ。火事の話してたんだろ?火事の夢は縁起がいいって言うじゃん。変な寝言で悪かったよ。つーかさ、寝言に話しかけちゃ狂っちゃうって聞いたことあるぞ。マジで狂ったらどーすんだよ。やめろよなーw 」


彼女「あんた、とっくに狂ってるよw」


オレ「自分が狂ってるかも?って思ってるうちは大丈夫らしいぜ。狂ってたらそれすらわかんないじゃん。」


彼女「じゃあ、今のあんたそれなんじゃない?w」


オレ「いや、たまに狂ってるかもって思う時あるから大丈夫w」


ーーーー

オレは念のために、次の日に駅前のパチンコ屋さんまで足を運んだ。


パチンコ屋の隣の駅前の空地は、とっくにマンション建ってる。


オレ「……だよね」


ーーでも、あの冷蔵庫…いたような気がしてならない。


帰り道、誰にもこれ以上話さないようにした方がいい気がした。言ったら戻れなくなるような気がして。


「ーーまあいっか」


「そんなのは……ただの夢だろ」


……いつものことだ。輪郭が、また少しだけボヤけた。



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