第3話《王冠と世界樹》
第3話《王冠と世界樹》
周囲1キロほどの、小さな山脈。
その中心に水冠状の地形が、ぽっかりと口を開けている。「王冠」
エスネコが、地球の裏側へと突き抜けた、衝突点の真裏に生まれた場所だ。
見た目の神秘的な美しさとは裏腹に、「王冠」は毒を持つ。
地球の地殻やコアを貫いて出現した「王冠」は、ウランやプルトニウムなどの放射性物質と、鋭利なダイヤモンドの岩石によって構成されていた。
放射性物質は、静かに毒を吐き続ける。ダイヤモンドは、鋭く研ぎ澄まされた剣のように王冠の縁を飾る。
この「王冠」は、見下ろす者を許さない。
毒と雷撃の暗雲が、常に天からその姿を覆い隠す。仮に無防備に近づいた者がいれば、瞬く間に遺伝子崩壊を引き起こす。
どんなピッケルも傷をつけられない、絶対的な拒絶の地。
ーーーそして「王冠」の出現と同時に、その周囲に、深く、濃い森が生まれた。
まるで「王冠」を封じるかのように。「王冠」から放たれる「毒」を遮るように。幾千もの巨木が天を突いて立ち上がった。
それが──後に「世界樹」と呼ばれる森。
王冠と森は、主従ではない。
「王冠」が破壊の力をもって自身を守るとするならば、「世界樹」は大地と生命をもって、世界そのものを守ろうとする。
ーーーー「王冠」が出現した場所は、もともと未踏の地だった。
地図にも載らず、古来より人の足が届いたことのない場所。
周囲は高い峰に囲まれ、地上からはその形すら確認できない。
気象衛星や高解像度の軍事衛星でさえ、常に張りつめた雲に覆われ、その実在を捉えることはできない。
「王冠」は、吐き続ける毒の中、ただ静かに──「追うもの」を待っていた。
ーーーー衝突以前から、この地には伝承があった。
先住民や部族の長、シャーマンたちは、精霊を招き、語り継いだ。
《あの山の向こうは、あの世だ》
《行ったものも、帰ってきたものもいない》
《見ることも、立ち入ることもできない場所がある》
その真偽すら不明な忌み地の伝承。
いつしか、それはこう呼ばれるようになった
──聖地
まだ未来は、誰にも知られていない。
何が起こるのかさえ、誰にもわからない。
だが──「王冠」と「世界樹」の形成を、まるで映画のように観ていた存在がいた。
?「……整ったのか。じゃあ、次のシーンは──」
?「ーーーー何を見させられてる?」
一連の未知の出来事と夢と幻覚がリングする。
「無限の檻」が動き出した。




