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第38話《マッドピエロ編 ヤクネタの女》

第38話〜『マッドピエロ編』前書き

【新章開幕】――暴力と薬物と性的搾取の街。

昭和末期、バブルの熱狂に蠢く闇と毒。

東京N23区。狂気の渦中で戦士のように遊ぶ、ニュータイプのエリートジャンキー《41(ジュピタン)》。

しかし、平穏な日常の裏から忍び寄る不穏な影――。

ジャンキー仲間の『サル』が連れてきた童顔の女、肩に刻まれた新しい《死神》のタトゥー。

直感が囁く。「こいつは不幸を連れてくる《ヤクネタ》」

『マッドピエロ』の暗雲が忍び寄る中、無敵のジャンキーの王は相棒のベース(Moon)を抱え、静かに結界を張る。

サイバーパンク×エスエフ神話×ねことジャンキー。《読む麻薬》をどうぞ、お楽しみください。

第38話《マッドピエロ編 ヤクネタの女》


ここは東京N23区。


新宿ダウンタウン西側の住宅街。

壁に蔦が絡まる一軒家。41の家。


ーー

ここには仲間しか入れない。名前なんてどーでもいい。呼び方と関係性で決まる世界。


友人や知り合いは多いけど、オレの本名はもちろん、住んでる場所、連絡先を知ってるヤツは少ない。


41。よんいち、よいち…。

41号《よーいちご》ってのもあったな。


世代や環境、仲間によって呼び名が変わる。


どうせ偽名だ。呼びたいように勝手に呼べばいい。


最近は木星《ジュピター》のTシャツ着てたら、ジュピタンてつけられた。


きちんとした「滝沢章吾」って偽名で通してるつきあいもある。


その名前で銀行口座まで持ってる。

取引用専用口座だ。


ジャンキーってリスクを背負ってるから、身バレ対策は万全過ぎるほどでいい。


万が一、捕まった時のシナリオだって、一人で被れるように、ガキの頃からアタマに叩き込んである。


だってーーオレは絶対、仲間を売らないから。


ーーーー


オレ「今日も、外暑そうだなー」


今は7月。もうすぐ8月だ。


梅雨も明け、夏の日差しが朝から照りつけてる。


週末は吸血鬼みたいな生活してるからな。

外に出たら灰になりそう。


オレ「(*≧ω≦)ん?んん?灰になる…。そっか!《ハイ》になるのかー」


ジュン「(*≧∀≦)突然、何?また、ワケわかんないこと言ってるー。」


今日は彼女といっしょ。

オレをジュピタンと呼ぶ彼女『ジュン』だ。


ジュンはハーフのような顔だち。


《トランジスターグラマー》


昔、流行った言葉らしい。

小柄だけど出るとこは出てる。


キョンキョンがそうだって誰かが言ってた。


吸血鬼のような生活してるくせに、肌は真っ黒に日焼けしてる。


健康なジャンキーとして夏は海に行くし、冬はスキーに行く。庭でご近所さんとBBQだってやる。


複雑な家庭事情で、ガキの頃から一人暮らしだったからね。しょっちゅう、近所のおばちゃんや、おじちゃんの家に呼ばれてメシ食わせてもらってた。


回覧板持ってくと必ずオヤツくれたしね。


そんなオレも成人して、社会人になってーー。


落ちこぼれることなく、立派なジャンキーになった。


ーー


一昨日、ケイたちと海に行ったんだ。


ジュンの日焼けしたビキニあとの白い肌が、いつもよりエロく見える。


あっちから、見せてくるしさ。


ーー

ジュン「ほら、紐のあとまでついてる」


オレ「もう、さんざん見たけど…。ねえ、おっぱいのとこも見せてよ」


ジュン「さんざん見たじゃん。ジュピタンは、おっぱい星人だもんねー」


オレ「その言い方!男はみんな、おっぱい星人だろ。」


と言いつつも、オレは基本的に『桃尻星人』

ハート型のお尻に弱い。


ジュン「ったくー。エッチな事しか考えてないよねw」


オレ「しかって何だよ。エッチな事《も》だよ!」


ーー


親しい仲間でも、絶対見られたくないやり取り。


誰だってそうだろ?

好きな子とイチャイチャするのは楽しいよ。


ーーーー


ジュン「今日、これからケイちゃんたち来るんでしょ?今のうちにお風呂入っとこうよ。アタシ、ベタベター。」


オレ「オレもー。運動したからね。」


ジュン「セックスダイエット!」


オレ「露骨だなー」


ジュン「これ、ジュピタンが最初に言ったんだよ」


オレ「引くわー」


ジュン「何よー」


オレ「(*≧ω≦)自分にだよ!」


ーー


ジュン「じゃあ、いっしょに入っちゃお!」


オレ「その前に一服キメない?」


ジュン「ダメー。一服するとジュピタン、お風呂でエッチな事するから。お風呂入ってる時にケイちゃんたち来ちゃうよ。」


オレ「ちぇー。見抜かれてるなー。じゃあ、先に入ってていいよ。一服してから入る。先にお風呂入ってて」


ジュン「同じでしょ。じゃあ、先にしてからお風呂入る?」


オレ「んー。さらに、間に合わなくなるからいいよ」


ジュン「ケイちゃんたち帰ってからね。」


オレ「そーだな。とりあえず部屋をキンキンにしとこう」


冷房をMAXに下げ、ジュンとお風呂タイムだ。


ーーーー


《ピンポーン》

《ピンポ、ピンポーーン!》


オレ「あー。うっせーなー。」


ジュン「来たんじゃない?」


オレ「ジュン、カギ開けてきてよ」


ジュン「わかったー。」


ーーーー


ケイ「41。久しぶりー。つか、寒っ!何この家。外、30度越えてるぜー」


ーー久しぶりね。

こいつら、どんな時間感覚なんだろ。

1日48時間あるんじゃねえか?


一昨日、いっしょに海行ったけど、《久しぶり》なんだな。


ーー

オレ「快適だろ。暑いだろうと思って部屋キンキンに冷やしといた。」


ーーこれはウソ。


結局ジュンとお風呂で予定通り、ちょっとだけイチャついたから。


風呂上がった時のために冷房強くしてたの。


人を傷つけなくて、自分をよく見せる。

こういうウソならいいだろ。


ケイ「お前ら、いい匂いすんな?風呂上がり?」


ーーバレバレ。


オレ「そーだよ。さっぱりして迎えようと思ってさ。バド飲もうよ。キンキンに冷えてるから」


ウソに重ねるウソ。

スムーズ過ぎて、もう、どうでもいい。


つーかさ…。


オレ「サル。その子、誰?彼女?」


もう一人の仲間。

サルが、見知らぬ女を連れてきてた。


一昨日は、海に連れて来てなかったのに…。


サル「ああ。41、紹介するよ。エミだ。」


エミ「41さん。初めまして。エミです。よろしくお願いします。」


オレ「あ?ああ、こんちわー」


オレ《え?誰コイツ?》


ーー童顔。

うちのジュンの方が美人だ。


オレ《若いな。まだ20代前半?いや、肌が荒れてる。

サルと何やってんだ?》


オレは、観察力が高い。

顔の作り、スタイルは人の好みがあるから気にしない。


極端な話、仲間の彼女がすげーブスでも、仲間が選んだ子なら中身で惚れたんだろって思う。


でも。オレの観察するとこは、顔つき、目付き、仕草。それで人を見抜く。男でも女でもだ。


その直感はいつも正しい。

だから、今まで安全にジャンキーやってこれたんだ。


オレ《サルの野郎…》


目についたのはノースリーブの左肩。

変な紋様に囲まれた鎌を持った《死神》のタトゥー。

まだ新しい。彫ったばかりだろ。


オレ《趣味悪いな…。これ、サルに入れさせられたのか?》


本人は気に入ってるフリして、手で何度も触ってる。

何のアピール?自慢?見てほしい?


不自然と不釣り合い。

何か引っかかる。

サルは、いったい《何》を連れてきた?


オレ《ヤバそう》


エミはタトゥーを隠すように挨拶してきた。


緊張してるときに、人って自分の「言い訳」ポイントを無意識に撫でるんだよ。


オレ《絶対ヤクネタだろ。》


ーー直感が囁いた。


ヤクネタってのは、危険なヤクのことじゃない。

当たり前だけど、ヤクなんて危険に決まってる。


不幸を連れてくるヤク。

それを持ってるヤツ。

その人物そのもの。


それら全てを《ヤクネタ》って呼ぶ。


ーー

オレ「(*≧ω≦)エミちゃんね。よろしく。あがんなよ。」


ーー

今日は一切、オレからヤクは出さないし見せない。


オレは未来が見えるわけじゃないけど、ヤクの世界で、その直感はいつも正しい。


末期中毒者。重度の依存症。

ヤクのためなら息をするようにウソをつき、平気で人を裏切る奴ら。ヤクの世界は大半がこれだ。


オレたちはその選抜(サバイバル)で生き残ってきた。


オレ《サル…。》


今日は外面(ソトヅラ)で通すしかないか。

楽しく過ごすつもりだったのにな…。


うちに呼んどいて、オレが白けさせるのも悪いし…。


ーー

全員応接間の、いつもの場所に座った。

いつもじゃないのは、テーブルに《薬物セット》が出てない事とサルの隣にいる女の子。


ジュン「(*≧∀≦)暑いから、乾杯しよ!」


ジュンが冷蔵庫から、人数分のバドワイザーを持ってきた。


オレ「さんきゅー。おー。キンキンだ」


ジュンがチラッと目配せしてきた。

ジュンだって生粋のジャンキー。


オレが演じる別の顔、別人格の態度を見てるからわかるんだろうな。


ケイ「さんきゅ。ジュンは41にもったいないな。こいつの面倒頼むね」


オレ「よいしょっと。おいで」


オレもソファ横のスタンドから、ベースを手に取る。

真っ赤なシースルーレッドのベース『Moon』

美しい板目が見える。


ベースは起きてるとき片時も離さない。

もう習慣だし、持ってないと落ち着かない。


Moonはオレの相棒。

武器でもあるし御守りだ。


ーー

オレ「エミちゃんは、何て呼べばいいのかな?」


エミ「呼び捨てでいいです。エミで。」


そんな気安くするわけねーだろ。


オレ「オレはみんなと同じように、呼びやすいように呼んで。」


ケイ「(*≧∀≦)オレはジュピタン呼びだな」


オレ「( `Å´)お前はダメ!」


ーー

オレ《あれ?サルが乗ってこない》


サルが気まずそうな空気出してる。


オレの城に許可なく、よそ者入れた確信犯。

こんなサプライズいらねーのに。


ーー

オレ「んー。でも人の彼女に呼び捨てはちょっとね。エミちゃんて呼ぶよ。」


ケイ「もう、そんくらいでいいだろ。早くビール飲もうぜ。」


オレ《ケイ。ナイスフォロー。でもオマエも共犯だからなー》


ーー

オレ「じゃあ、かんぱーい!」


全員「かんぱーい!」


ーー

部屋にスライ&ザ・ファミリーストーンの「In Time」が流れてる。


歌詞が告げてる。

「だって思考の狂気の中に方法があるから」

「間に合うように、間に合うように」


この歌詞ーー。

音楽はいつも偶然で必然のメッセージをくれる。


ーー

オレ「ジュン。音変えてよ。スリラーにしよう。マイケル・ジャクソン聞きたい。オフ・ザ・ウォールでもいいよ」


ジュン「ジュピタン了解!」


サル「ジュピタン定着したじゃん」


オレ「そーだよ」


サルがやっと口を開いた。何かぎこちない。


エミ「ジュピタンて何ですか?」


オレ「実は、本名がジュピターだから。アダ名w」


ジュン「ウソつきー。この人、木星の縞模様のTシャツ持ってるんだよ。ライブでそれ着てたの」


オレ「その時からジュピターなっちゃった。クイーンのフレディ・マーキュリーみたいなもん」


ジュン「あれは本名でしょ」


オレ「好きに呼んでいいよ。オレってわかればさ」


ジュン「ジューピタン!」


ケイ「ジュピタン!」


オレ「( ・`ω・´)はーい」


オレ《今日はこれで通すのかー。つまんねー空気…》


エミ「あのー。ジュピタンさんて、もしかして外人とかハーフの方ですか?目が青いし」


オレ「そうだよ。彫りが深いでしょ。東京のN23区とN14区のハーフだから。言葉も日本語バイリンガル」


ケイ「純日本人じゃねーか」


オレ「ケイだって髪だけ見たら外人だよ。タッパ(身長)だってオレより高いだろ?」


ジュン「ジュピタンはアラブとか中東出身でもいけそう」


オレ「目の青いのは母親からの遺伝。色素が足りないんだって。ちっちゃい頃。眩しいと涙が止まらなくて困ってたんだよ。泣いてるってバカにされるしさ」


この、青い瞳で日焼けしたオレは、さらに国籍不明さに見えるみたい。


一昨日もスーパーで、ワゴンで特売焼肉売ってたおばちゃんに「アンタ日本語話せるの?」ってびっくりされた。


おばちゃん曰く、中東とか南米あたりから出稼ぎに来た外人に見えたって言ってた。それにしても、口悪いなこのババアって思ったよ。

ーーーー


流れてた曲が「スリラー」から「ビート・イット 」に変わった、この流れ。


オレ《ゾンビを…叩け?…ねこの街。…どっかで?》


曖昧な夢の記憶が交差する。


オレ《まあ、よしとするか、ビートイットは、必死にコピーしたんだもんねー》


ヴァン・ヘイレンのギターソロをベースで弾く。

オクターバーの出番だ。


ライトハンドにタッピング。


ベースはオレのオモチャ。


オレは、弦を鳴らして自分の輪郭をなぞる。


ーー


エミ「スゴーい。ジュピターさん、ベース上手なんですね」


オレ「取り柄がこれしかないんだよ」


ジュン「この人から、これ取ったらただのバカだからw」


ケイ「言えるなー。まともなとこ見たことねーよ」


オレ「(´-ω-`)ーー言い過ぎだろー」


サル「マジでめちゃめちゃ上手いよな」


オレ「(*≧ω≦)そこは嬉しいから、もっと言って!」


ーーーーそーいえば、サルもバンドやっててベース弾くとか言ってたような…。


あ、そうだ。グレートフルデッド好きって言ってたんだ。


…そこは好みの問題。


でも…その時、趣味合わないなって思ったんだよな。


結局、サバイバルの中で知り合って仲間になったけどさ。


あの時の直感的な違和感。


サルとの出会いもヤクネタ襲来の前触れだったのか?


仲間だけど、みんなのこと知らないんだよ。

知らない方が安全だって思ってるから。

 

嫌なピースがカチカチとはまってく感じ…。


ーー

オレ《さあ。ベースで結界張ったし》


これでオレを演じられる。

…油断は禁物。


直感の答え合わせを始めようか。


……そう、

いつだって、その先には《罠》がある。



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