第6回
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緩やかな峠を越えた先の関所を抜けると、そこはもう蘇芳の領地だった。
いくつもの低い台地がひしめき合うように広がり、その中央のひと際大きな縁には巨大な城が威風堂々と座し、眼下に広がる城下町を見下ろしている。
遠く向こうには広大な海を、幾艘もの船が行き交っていた。
煌めく波と、どこか塩を含んだ風が吹き上げてくるのを三人は肌に感じる。
「……ここが蘇芳か」
タマは小さく独り言ちた。
初めて訪れるその地の賑やかさに、タマはかつて目にしていた光景と重ねる。
それは遠くかなたの思い出だった。
もはや戻ることのない、過去。
それを思うと、胸を強く絞めつけられたような思いがした。
逆にクロと権之助はこの地を訪れたことがあるのだろうか、特にその光景に対して感じるものはないらしい。
タマの脇を抜けて、緩い下り坂をおりていく。
「相変わらずでけぇ城だよなぁ」
先を行く権之助が頭の後ろで手を組みながら口にして、クロも感嘆の声を漏らした。
「さすがは海の要衝といったところか」
小田原や東朝廷がこの地を欲しがるのも頷ける話だ。
海の要衝たる蘇芳を手に入れれば、相当の利益を得ることができるだろう。
だからこそ、この地を守るために蘇芳はそれなりの兵力を有していたが、しかしそれでもなお小田原の武力を前にすれば心許ないものだった。
ここは西朝廷の後ろ盾があるからこそ、東国にもっとも近い大国でありながら安泰のもとにあるとも言えた。
見れば、蘇芳を囲むように東西の山々には等間隔に砦が設けられており、何か事があった折には常に隣国などの同盟国が動けるように十分に警戒しているようだ。
これほどの大国であれば、それも当然のことだろう。
しかし、それでもなお――いや、だからこそ常に戦に巻き込まれる危険性を孕んでいる。
恐らく、とタマはこぶしを握り締める。
これだけの国であれば、自らの復讐を果たすことができるのではないのか、そう期待しながら。
「おう、どうした、そんなに見惚れて」
権之助が脚を止め、タマに振り返る。
「あぁ、いや」
「……でかい町だろう」
そんなタマに、クロはいった。
「西朝廷の支配下にある地としては三番目に栄えている海の城下町、それが蘇芳だ」
「一番目と、二番目は?」
「一番デカい街は西朝廷の天主のおわす相模ケ灘。二番目がその相模ヶ灘とここ蘇芳のちょうど中間あたりに位置する浜ノ関だな」
クロの説明に、権之助は意外そうな顔で、
「なんだ、タマ。もしかして、行ったことないのか?」
タマは馬鹿にされたような気分で思わず眉を寄せながら、
「……私は、ただひたすらに戦場を駆け巡ってきた」
「つまり、戦場以外に興味はない、と?」
「まぁな」
「だが、いずれここも戦に巻き込まれることになるかもしれん」
「小田原がここまで攻め入ってくれば、の話だけどな。どうせ戦すんのはあっちの平野だろ」
権之助が、城下町から遥か東の山向こうを指し示した。
「おそらくな」
とクロは頷く。
「だが、こちらの兵が小田原軍を止められなければ、いずれ戦はここまでやってくる」
「まさか、その前に蘇芳が降伏するだろう、そのときは」
「……だといいがな。その昔、小田原が宗像の国を焼き尽くしたあの大戦を二度と行なわないというのであれば」
「……あぁ、アレはえぐかったよなァ。確か、町民や城のもの全員皆殺しにされたんだっけか。徹底的だったよなぁ、あの時は。たしかに、アンタの言う通りだ。小田原が本気で攻め込んできたら、ここが戦場になることも十分あり得るってわけだ」
「そうならないように、我々はここで働く」
それからクロはかっかと快活に、
「もちろん、その分の報酬はいただくがな!」
高らかな声で、大笑いしたのだった。




