第5回
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そこからタマとクロはひと晩を宿場で過ごしたあと、しばらくして蘇芳の方へ足を向けた。
道すがら、どうやら蘇芳が兵を募っているという話しを耳にしたからである。
同盟の話が本当であれば、近く何らかの動きがあるだろう。
兵を募っているというのも真実味があり、他にも同じく浪人と思しき者たちが同じ方向へ幾人も歩いていた。
「やはり蘇芳を目指すんだな」
「やはり? お前はただ私のあとをついてきているだけだと思っていたが、なにか思うことでもあるのか?」
ほくそ笑むタマに、クロは少しばかり眉を寄せ、困ったようにひとつ唸ったあと、
「……まぁ、最初からそう言っているからな」
「名を上げたいなら蘇芳よりも小田原の方が現実的だ」
「じゃぁ、どうしてお前さんは蘇芳を目指すんだ、タマ」
するとタマは嘲るようにひと笑いして、
「私は弱い者の味方なのさ」
「……なぁに言ってんだか」
訝しむクロに、タマはにやりと笑んで、
「まぁ、如何に強者の小田原とはいえ、西の朝廷のもとで蘇芳を始めとした諸国が集まるとなれば話は別だ。兵力が違う」
「しかし、そうなりゃぁ、さすがに東の朝廷が――」
「動かないだろう。なにせ、小田原は東の朝廷の座を簒奪しようという噂がまことしやかにささやかれている国だぞ。東の朝廷とて、目の上のたんこぶに違いない。自分たちの代わりに小田原を潰してくれるのであれば、願ったりかなったりだろうさ」
「んまぁ、確かにその通りだな。小田原の領土を奪われる可能性があると言え、西の一部だ。自分の首を狙われているっていうのに、領土のことなんて気にしてられんわな」
「そういうことさ」
タマは、だからこそ蘇芳の傭兵として志願することを選んだというのだった。
そのときだった。
「おう、お前さんたちも蘇芳目指してんのかい?」
ふらりと一人の男がふたりの方へ近づいてきた。
軽装で薄汚れた白い着物を着た細男だった。
腰には短めの刀を差し、へらへらとした表情で、
「なんだいなんだい、まさか夫婦かい?」
そんな細男に、タマはうんざりするように、
「冗談じゃない。誰がこんな奴と」
邪険な視線をクロに寄こした。
「……なんだよ、その目は」
すると細男はけらけらと笑いながら、
「あらら、なんだちがったのかい」
「おい、てめぇ、なんなんだ、いきなり」
「俺もアンタらと同じ浪人さ。蘇芳と満中が同盟を結ぶって話を聞いてさ。こりゃぁ、本格的に小田原に喧嘩を売る気だなってんで、お仕事求めてやってきたってわけよ」
「どうして小田原にしなかった」
「それこそあんたらもさっき喋ってたじゃないか。蘇芳の背後にゃ西の朝廷が付いてる。東の朝敵とも噂される小田原に勝ち目なんてむしろねぇよ。だったら、蘇芳側に付くに決まってるじゃねぇか。み~んなそうさ」
言って細男は道を往く薄汚い浪人たちを、両手を広げて大仰に示して見せた。
街道をゆく浪人たちはそんな細男をウザったそうに一瞥しつつ、けれど構うことなく蘇芳へ向かって歩みを進めた。
「そうか、なるほど」
クロは答えて、そんな細男を無視して先を歩き始めたタマの後ろをふたたび歩く。
「って、おいおい、話は終わりかよ」
「で? 結局てめぇは何が言いたいわけだ?」
「俺も蘇芳まで一緒に行かねぇかって話さ。見たとこ、アンタらなかなかの猛者に見える。見ての通り俺は動きこそ人より早いが、腕っぷしはからっきしでね。あんたらみたいなのとご同行願えれば、楽~に蘇芳の傭兵になれそうな気がしてさ」
「……そんな心づもりじゃぁ、すぐに戦で死んじまうぞ」
「大丈夫大丈夫! 俺、逃げ足は速いって言っただろう! 適当に戦場を駆け回って、戦が終わったところで金だけもらっておさらばするのが目的よ」
それを聞いて、クロは深い深いため息を吐いた。
「武士とも言えねぇ所業だな」
「こんな乱世の世のなかだ。生きていく銭を稼ぐにゃぁ、それが一番楽なのよ。なぁ、頼むよ、あんたらと一緒に行かせてくれよ」
「……どうする、タマ」
「好きにしたらいい。どのみち、私には関係ない。お前のことも、その細男のこともな。私は私の好きなようにするだけさ」
「んじゃぁ、ついてってもかまわねぇってことだよな! よろしくな、え~っと、タマとクロ、だっけか? 俺は相楽権之助だ。以後、よろしくな!」
そう言って、権之助はにんまりと嬉しそうな笑みを浮かべたのだった。




