第6回
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「おのれ、権之助!」
「うおっと!」
かきんっと音を立ててクロの一撃を権之助は寸でのところで受け流して見せた。
すでに小田原本陣は黒蕊別動隊を始めとした蘇芳・満中同盟軍までをも含めた兵たちの闖入まで許しており、混乱を極めていた。
権之助は自身の引き連れていた鴉衆たちに影密を任せて逃走させたが、自身はこの場に残り、なんとか敵兵を食い止めることに徹するよりほかに選択肢はなかった。
なにより、クロの振るう大太刀が厄介だった。
あんなものをまともに受けてしまったら、間違いなく身体が真っ二つにされてしまう。
実際、どれだけの吾妻・小田原兵があの大太刀の餌食となってしまったことだろう。
終末の犬と呼ばれるその豪胆さは伊達ではないということだ。
拙い、マズイ、まずい!
このままでは、押し切られてしまう! 殺されてしまう!
逃げるか、とも思ったが、もはや逃げる隙さえ敵兵たちは権之助に与えてはくれなかった。
かくなるうえは、何としてでもこいつらにとどめを刺し、生き伸びるよりほかに道はない。
「どうしたどうした! 自慢の逃げ足はどうしたんだ!」
クロが嘲るように口にするのを、
「こっちだって逃げたくて逃げたくてたまらんさ!」
叫びながら、火花を散らして命からがらクロの大太刀を受け流した。
ちらりと辺りの気配を窺えば、タマの姿がどこにもない。
大方、今頃は影密様を追っているのだろう。
影密様だって獣憑きのはしくれだ。弓や刀の腕は確かであり、そのうえ鴉衆の手練れをその護衛に付けたのだ。
ここでこいつらを食い止めれば、なんとか逃げおおせることもできるはずだ。
権之助は死ぬ気でクロの振るう大太刀を次から次へと避けて見せながら、今度は一矢報いんとばかりに打って出た。
斬られかねない場所に移動しては振るわれた太刀を避けてクロに一太刀を浴びせ、横に流された大太刀をぴょんッと飛び跳ねて避けながら再びクロの懐近くまで飛び込んでいく。
驚いたクロがそれを避けるのと同時に、こちらも飛び跳ね、クロの大太刀をカキンッと弾いたその反動を利用してもう一太刀、クロに浴びせた。
「攪乱の狐たる俺様だって伊達じゃねぇんだよ!」
「面白い! それがお前のふたつ名か!」
かん、かん、かん、
幾度も鍔迫り合いを繰り返しながらも、しかし次第に権之助は追いやられていく。
ダメだ、やっぱり力ではコイツに勝てねぇ!
ならば、と権之助は振り下ろされたクロの大太刀の峰を蹴り飛ばし、空に高く飛び跳ねた。
そうして瞬時に刀の切っ先をクロの着る鎧と首の隙間めがけて突き立てるように勢いをつけて飛び降りて――
「黒蕊殿!」
瞬間、すぐ脇から掠れた声が聞こえてきた。
誰だ、と脳裏に言葉がよぎった時には権之助の身体にしがみつく誰かがあって、その勢いで権之助の身体はクロから逸れ、地面に強く叩きつけられる。
「ぐはっぁっ!」
「大丈夫ですか、黒蕊殿!」
「助かったぞ、猿彦!」
猿彦――そうか、あの三人目の獣憑きか!
権之助は慌てて飛び起き、獲物を狩る狐が如き動きで猿彦へと飛びかかった。
切っ先を振り上げ、皴だらけの猿顔爺に向けて刃をおろす。
邪魔だ邪魔だ邪魔だ!
なぜあのとき先にこいつを殺しておかなかったのか、それを悔いながら。
だが、その刃が猿彦を切り裂くことはなかった。
きらりと光る閃光一閃。
それはクロの放った一撃だった。
痛みはなかった。
ただ、違和感だけが腹より下にあるだけだった。
――がつん、べちゃり。
なにやら生暖かいものが地面に倒れた権之助の頬に触れた。
……あぁ、これは、俺の臓物だ。
そうか……俺の腹……裂かれたのか……
薄れゆく意識の中で、権之助が最後に目にしたのは、クロが手にした、どす黒い血に塗れた大太刀の、その切っ先だけだった。




