↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰色猫と終末の犬  作者: ノムラユーリ(旧PN野村勇輔)
第6章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
44/50

第3回

   3


 タマの語ったこれまでの経緯のあと、クロを始めとした各国の家老、大将たちはしばらくの間黙りこくっていた。


 タマは突き立てていた二振りの刀を引き抜くと、それをカチリと腰の鞘に静かに収める。


 しばしの沈黙を破ったのは、光春だった。

「……黒蕊殿は、最初からタマ殿の――綺羅姫様のことを存じておられたのか」


 するとクロは観念したように、

「――はい」

 こくりと頷いた。


「何故、最初からそのことを話して下さらなかったのか。さすれば我々とて力を惜しまなんだぞ」


「全ては、綺羅姫様のお望み通り。国を失ってのち、我々はただの傭兵浪人として生きてまいりました。もはや宗像の国はどこにもなく、さすれば綺羅姫様ご自身も綺羅ではなく、今は一介の傭兵浪人、タマとしての身分をご所望でしたので…… しかし、こたびの言い争いがよほど腹に据えかねましたのでしょう」


「……なるほど」

 左近も呟くように口にして、タマに憐憫の眼を向けた。


 タマの眼にはいまだ涙がうっすらと浮かんでいる。


 恐らく泣くまい泣くまいとこれまで耐えてきたものが、堰を切ったように溢れ出てきたのであろうことは想像に難くなかった。


「まさか――そのような――」

「なんと、お痛わしい……」


 橘三国の家老や大将が、口々にそんな言葉を漏らしていく。


 なかにはタマに同情してすすり泣く音も聞こえたが、それだけではない。


 眉を潜めて腕を組み、瞼を閉じている者。


 深い深いため息を長く吐く者。


 そうして、「うむむ」と唸り声を漏らす者の姿もあった。


 誰もが沈痛な面持ちで、タマを見つめる。


 そんななか、タマは大きく息を吸い、そして吐いた。


 目に浮かべていた涙を拭い、まるで自分の中の何かを断ち切るように、そしてあの獣の如き恐ろしい眼で周囲を見回す。


「これで身分がどうのこうのという話に文句はあるまい」


 タマのその言葉に、身分にこだわっていた大将が、

「……大変申し訳ないことを申した。お許しいただきたい、綺羅姫殿」


 それに対して、タマは軽く首を横に振る。

「……よい。これで、我々黒蕊別動隊に先陣を切る役目、任せてもらえるだろうか」


「おお、もちろんじゃ。わしに異論はない。なぁ、皆の衆もそうであろう?」


「我々が邪魔する者ども全てを押しのけてやりましょう!」

「そうじゃそうじゃ!」

「頼みましたぞ! 綺羅姫殿! 黒蕊殿!」


 その場のほとんどの者が賛同するなか、それでもひとりふたりは納得のいかない表情だったが、彼らもそれ以上不平不満を口にするということは二度となかった。


 作戦会議は一転、どこの国のどの部隊がどの位置に付き、どのようにして敵兵力を抑え込むかという話し合いに移行した。


 そこにはもはや、一つの目標に向かって成し遂げようとする心持が確かにあった。


 タマの言葉で、ようやく蘇芳、満中、橘、上貫、千石の意思は統一されたのである。


 蘇芳満中軍の精鋭が本陣を守り、残りが正面突破する黒蕊別動隊を援護。


 あちらから駆けてくるであろう敵兵に関しては橘、上貫、千石の部隊が壁となって守り抜くことで突破口を開き、何としてでも黒蕊別動隊を敵本陣に送り込むことが最優先事項として挙げられた。


 全ては蘇芳を守り抜くため。


 そして、タマこと綺羅姫と、クロこと黒蕊の積年の怨みを晴らすため。


 かくして、ついに小田原・吾妻本陣への夜襲が決行されたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。