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灰色猫と終末の犬  作者: ノムラユーリ(旧PN野村勇輔)
第5章

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第7回

   7


 猿彦が目を覚ました時、周囲は慌ただしい喧騒と炎上に混乱を極めていた。


 何が起きたのかわからないまま飛び起きれば、傍らには血に沈む金瘡医や事切れた数々の兵たちの姿があった。


「な、なんだ! なにがあった!」

 猿彦は独り言ち、大慌てで飛び起きた。


 破れた幕から抜けてみれば、鴉旗を掲げた一群と馬廻り衆たちが必死の攻防を繰り広げているではないか。


「か、鴉衆!」


 瞬間、猿彦の姿に気付いた鴉衆の一人が、太刀を振るいながら疾走してくる。


 丸腰の猿彦は鴉衆の男が太刀を振った瞬間、それをひとつ飛びで避け、男の肩に飛びのった。


「――なっ!」


 驚きの声を上げる兵の兜をはぎ取り、暴れる男の頭を両側から掴んで力いっぱい捩じりあげる。



 ――ゴキリッ



 男の首の骨がへし折れ、そのまま崩れ落ちるのと同時に、猿彦は地面へ着地した。


 それはまるで、身体が勝手に動いているかのような不思議な感覚だった。


 これは――この力は――本当に俺のものなのか。


 まさか、これが――獣憑きというものなのか。


 呆気にとられたのは他の鴉衆だけではなく、本陣を守る馬廻り衆や見覚えのある顔――確か、蘇芳や満中の家老だったか――たちも眼を大きく見開いて驚きの表情を見せていた。


 あれは――夢ではなかったのか。


 俺は、あのヌシ猿と契約して、獣憑きと化したということか。


 それを悟ったが早いか、猿彦は次々に軽業を駆使して油断している鴉衆の連中を襲っていった。


 頭に飛び乗り、肩に飛び乗り、相手の太刀を奪ってはその首を斬り捨て、槍を奪っては首筋に深く突き立てていった。


 そのなかに、より驚きの表情を浮かべるひょろりとした男がひとり、猿彦の目に入った。


 あの男――見覚えがある。


 そうだ、確か、権之助とかいうやる気のない傭兵浪人、もとい鴉衆の間者ではなかったであろうか。


 あいつの首を取れば、手柄を立てることができる!


 猿彦は一気に権之助のもとまで駆けていくと、彼めがけて手にしていた太刀を放り投げた。


 権之助は猿彦の投げた太刀を寸でのところで払い除け、後退する。


「――ちっ! もう一匹獣憑きがいたとは聞いてねぇぞ! 影密様にご報告しねえと!」


 背中を向け、駆けだす権之助。


 猿彦は近場の木の幹を蹴って背後から権之助に飛びかかると、その首に両足を絡ませて力いっぱい締め上げた――つもりだった。


 だがそこにいたのは、権之助ではなく別の鴉衆の兵だったのである。



 ――ゴキッ



 構わず猿彦はその兵の首をへし折り、権之助の姿を探して辺りを見回した。


 するとはるか遠くに権之助の姿が見えて、

「――撤収だ! すぐに退け! 退けえぇぇ!」

 権之助の号令と共に、それまで蘇芳本陣を襲っていた鴉衆が散り散りになって方々逃げ出していく。


 猿彦は手柄を逃さぬようそのあとを追おうと試みたが、


「もうよい! そこまでにしておけ!」

 蘇芳の家老に声をかけられ、足を止めた。


 猿彦はあたりを見回し、敵が完全に去ったことを確認してから、動揺を隠せずにいる周囲の味方兵たちからの視線を一斉に浴びた。


 これが――俺の手に入れた新たな力。


 タマやクロと同じ、獣憑きとなったものの力。


 俺はあのヌシ猿との契約により、第二の命を手に入れたのだ。


 猿彦は大きく息を吸い、吐き、呼吸を整える。


 それから光春の前で跪き、深く深く首を垂れた。


黒蕊(くろぬい)別動隊が猿彦、ただいま戦場に戻りましてございます!」

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