第2回
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黒蕊義信は大太刀を振り回しながら次々と雑兵を薙ぎ払い、あとに続く別動隊連中の道を切り開いていた。
隣では兵之輔が同じく名のありそうな武将と互角に渡り合い、押され気味になりながらもその攻めに必死に耐えていた。
後方では兵之輔の従える四組が存分にその能力を発揮しているが、こうも敵が多くてはなかなか前へ進むこともままならない。
やや離れた場所では何某と名乗りを上げた武将を倒したタマが、義信と同じく多くの雑兵に取り囲まれながら次から次へと斬っては飛び跳ね、着地してはその脚を斬り、反動をつけて宙回転したかと思えば、新たなる獲物の首を見事に斬り落としていく。
それでもなお飛びかかってくる敵兵の勢いに、義信たちの別動隊だけでなく、蘇芳満中同盟軍は徐々に徐々に後退を余儀なくされていた。
辺りは敵兵だけでなく味方兵と思しき死体が累々と積み重なり、危うくその死体に足を取られかねないほどの状況となっている。
命の危機を感じるほどではないが、しかしこのままでは敵兵力に押されて防衛することもままならない。
後退を余儀なくされるほどの勢いに義信も歯噛みせずにはいられなかった。
「貴様が終末の犬とやらか!」
突如敵兵を掻き分けるようにして馬に乗った武将がひとり、義信の前に立ちはだかった。
「それがどうした!」
「我こそは小田原軍先鋒隊がひとり、中富吉嗣と申す! いざ尋常にお相手願いたい!」
「かかってこい!」
瞬間、中富の手にしていた槍が下から上へと跳ね上げられた。
それを義信はひとつ飛びで後ろに下がって躱し、大太刀を振るって周囲の邪魔な雑兵たちの身体を真っ二つに斬ってやった。
「さすがの腕前!」
感嘆の声を漏らす中富に、義信は大太刀を構えて突進する。
ひゅっ、と音がして中富の槍が振り払われるのを身を屈めて躱し、そのまま中富ではなく彼の乗る馬に向かって薙ぎ払った。
馬の腹が見事に斬り裂かれて内臓が大量のどす黒い血と共に流れ出し、頽れる馬から慌てたように飛び降りた中富めがけてさらにもう一振り大太刀を薙ぐ。
「なんのっ!」
中富は義信の大太刀を槍のしなりを使ってはじき返し、心臓に向かってその切っ先を激しく何度も突き出してくる。
その切っ先を大太刀で迎え撃ちつつ、義信はなんとか攻撃の隙をうかがう。
「それっ! それっ! どうした! 終末の犬とはその程度のものか!」
「だまれ!」
義信は突き出される槍先を大太刀で跳ね返しつつ、少しずつ前進して中富を後ろへと退かせていく。
そして、それは本当に一瞬のことだった。
中富が自身の乗っていた馬の臓物に足を取られ、一瞬身体がゆらりと傾いたのである。
今だ、とばかりに義信は斜めに大太刀を振り下ろし、槍と共に中富の身体を斬り裂いた。
「あぐぁっ!」
その呻く声を耳にしながら、更にとどめとばかりに、その胸倉に大太刀の切っ先を突き立てる。
中富が白目を剥いて崩れ落ち、義信は一気に突き刺した大太刀を引き抜いた。
じわじわと足元に中富の血が広がっていくのを目にしながら、
「次は誰が相手かっ!」
義信は大きく叫んだ。
たじろいだ幾人かの雑兵が逃げ出していくなか、それでも集団となって襲い掛かってくる敵兵を軽々と斬り刻んでいく義信。
「さすがだな! クロ!」
先ほどまで武将の相手をしていた兵之輔が、全身血塗れで声をかけてきた。
「しかし、多勢に無勢。このままではいずれ押し切られるぞ。どうする?」
その時だった。
はるか遠く、小田原の本陣から、再びほら貝の音が戦場に鳴り響いたのである。
その途端、それまで一斉に攻撃してきていた敵兵たちが揃いも揃って後退し始める。
それを追うように味方兵が駆けていくのを、
「深追い無用! 我々も一旦退くぞ!」
蘇芳の武将が大声で叫び、敵兵を追いかける蘇芳満中兵もその脚を止めた。
兵之輔はぺっと唾を吐き捨てて、
「押しているのに一旦退くとは――まさか、小手調べのつもりだったか?」
「……だろうな」
義信もそれに賛同して頷き、大太刀を鞘に納める。
「あちらにはまだまだ数多の兵がいる。それに、鴉衆の中に権之助の姿が見えなかった。やつめ、いったいどこでどんなことを企てているのか……あるいは……」
「いずれにせよ、警戒しておいたほうがよさそうだな」
「あぁ……」
義信は、大きく息を吐いたのだった。




