第1回
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底の浅い紅葉ケ谷大川を挟みながら、蘇芳満中同盟軍と小田原軍は対峙していた。
小田原軍の鉄砲隊の発砲に対して、蘇芳満中は竹束でこれを防ぎつつ、それに返すように次々に矢を放っていく。
その応戦がしばらく続いたのち、どちらからともなく槍を手にした部隊が前線に飛び出した。
掛け声とともに槍で相手を先に押しやったのは、小田原ではなく蘇芳の方だった。
「このまま一気に押し返す!」
叫び声と共に蘇芳の将と足軽兵が前へ駆け出し、やがて戦場は激しい斬り合いが始まった。
初めこそ蘇芳満中軍優位に思われたが、しかしその兵数と兵力は明らかに小田原の方が上だった。
だんだんと後方へ押しやられるそんななかを、タマやクロ、兵之輔の別動隊も独自の判断で戦場の中を駆け抜けていく。
「タマ、兵之輔! 鴉旗だ!」
薙ぐようにして次々に敵兵を一刀両断していくクロの声が飛んだ先に、黒き鴉の旗を掲げた一群が目に入った。
鴉衆と思しきその一団は、明らかに他の小田原兵よりも多くの蘇芳満中兵を次々に射殺し、或いは斬り捨て、こちらに向かって突進してくる。
タマは斬り捨てた敵兵を踏み台代わりに一気に高く飛び上がり、黒鴉旗の一群に頭上から双刀を振り下ろした。
「ぐはっ!」
「うぐぅっ!」
タマはふたりの鴉衆の首を貫くと、突き刺したまま横に薙ぎ払い、無理やりに首から双刀を引き抜いて、次なる獲物に飛びかかった。
「灰色猫!」
その名を叫んだ弓兵が矢を引くよりも先に身を屈め、その脚を一刀両断。崩れ落ちた兵の首筋に刀を突き立てて絶命させると、次なる獲物へ視線を向けた。
少し離れたところではクロが槍兵や弓兵、その他遠巻きに慄いている雑兵を次から次へ斬り捨て、終末の犬と呼ばれるその名に恥じぬ活躍を見せている。
至る所に敵兵の死体と血が飛び散り、四肢を切断されて蠢く兵を楽にしてやらんとばかりに兵之輔はその首を刎ねていった。
近づく者がなければこちらから討って出るほどの勢いで別動隊の活躍は凄まじかった。
兵之輔の連れてきた傭兵連中の腕は確かであり、タマやクロ、兵之輔に勝るとも劣らない勢いで次々に敵兵を討っていく。
瞬く間に別動隊の周囲には敵兵の死体が積み上がり、次々に敵の雑兵たちは逃げ出していった。
それを深追いすることなく、蘇芳満中の防衛に邪魔になりそうな腕利きの兵だけを選んでタマやクロたちは戦場を駆けていった。
タマは鴉衆の連中と思しき旗差し兵たちを中心に討ち続けるうち、次第に周囲の敵兵が増えていくのに気が付いた。
先に獣憑きたる灰色猫を狙うようどこかで指示が飛んだのかも知れない。
ならばこちらも手加減などしてやる必要はなし。
元よりそのつもりなどなかったが、タマは猿彦隊に指示を出しつつ、敵の兵を縦横無尽の動きで斬り刻んでいく。
「我は――之――なり! 灰色猫め! 覚悟せい!」
ひとりの男が名乗りを上げながら突っ込んできたが、タマはその男の名前を全く聞いてなどいなかった。
これから死にゆく男の名前など憶えても無駄だからである。
男の刀の腕はそれまでの兵たちとは一線を画し、確かに俊敏かつ的確なものだったが、けれども猫の如き動きでその全てを避けることのできるタマからすれば、大したことのない相手に他ならなかった。
タマは相手の刀を避け、その切っ先が地に落ちるのを見計らって相手の刀を駆け上がり、男の顔面を膝で一気に蹴り込んだ。
「ぐわっ!」
男の呻き声を聞きながらその背後に着地し、振り返りざまに男の被る兜の隙間から、その首筋に双刀を差し込む。
肉を突き刺す感触。
続けざまに、タマはその双刀を十字に引いた。
兜の隙間から大量の血しぶきが辺りに噴き出し、タマはその血をまともに被らないように一瞬にして後方に飛び退った。
誰かは知らないが、名乗るからには敵の大将首か何かなのかもしれない。
警戒しながら辺りを見回せば、幾人かの雑兵が逃げ出していくのが目に入った。
それを無視して、タマはそれでもなお襲い掛かってくる敵兵たちの腕を斬り、足を斬り、胴を斬り、そして首を斬っていった。
それでもなお次から次へと襲い掛かってくる敵兵に、次第にタマは疲弊してくる。
――やはり、数が多い。
タマは忌々しく思いながら、しかし容赦なく敵兵を狩り続けるのであった。




