第2回
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翌日。別動隊に用意された訓練場には、兵之輔の宣言した通り、八十人の傭兵浪人が集まっていた。
集められた傭兵の誰もが屈強な男たちばかりで、よくぞ一日でこれだけの数を集めることができたなとタマは感心するばかりだった。
「錚々たる面々を集めたつもりだ」
兵之輔は胸を張りながらクロとタマににっと笑った。
「とはいえ、もちろん一人で集めたってわけじゃないけどな。それなりに力のある連中ってのは、それぞれが顔見知りってことが多いんだ。それを利用して、次々に声をかけてもらった結果、これだけの人数を集めることができたって感じだな。確かに中には力量の見合わないやつもいるかもしれないが……まぁ、そこはほれ、黒蕊殿の訓練で一から叩き直せば光る人材を集めてきたことは間違いないから、安心するといい」
整列した男たちを見回してみれば、他の一般的傭兵とは異なり、一癖も二癖もありそうな身なりの男たちもちらほら居る。
中にはうっすらとだがタマもどこかで一緒に戦った記憶のある顔もあって、目が合った瞬間、その男たちはこくりと黙って頷いたのだった。
別動隊はクロを総大将とし、タマと兵之輔が副将となり四十人ずつの兵に分けられた。
八十人は十人一組となり、組頭には兵之輔が集めた八人の名うての傭兵浪人が指名され、それぞれがクロとタマの前で名乗りを上げた。
特にタマは自身が指揮することとなる四人の組頭の名を頭の中に叩き込む。
まずは小柄だが猿の如き動きで自由自在に木に登り跳ねることができる猿彦。これはタマにすらついてこられるほどの素早い動きを見せ、確かに使えそうな男だった。
次に音羽。この男は細面で切れ長の眼をしているが弓の名手であり、弓の早さだけでなく、飛ぶ鳥を確実に落とすほどの実力者だった。
続いて太郎佐と次郎佐のよく似た兄弟。
こちらは兄の太郎佐が刀の名手であり、打ち合いでは右に出るものがいないほどの強さだった。
同じく弟の次郎佐は槍の使い手で、こちらも太い槍を振り回しながら敵の刀を薙ぎ払い、その隙に急所を突いて回るという実力の持ち主でタマを以てしてもなかなか近づけない男だった。
「どうだ、なかなかの奴らだろう?」
兵之輔は満足そうににんまり笑い、タマの感心する顔を覗き込んだ。
これならいけるかもしれない。確かにタマはそう感じる。
他にも兵之輔側の組頭である四人もなかなかの逸材ばかりだった。
次郎佐と互角にやり合えるほどの腕を持つ源兵衛。
音羽に勝るとも劣らない弓の名手である又三郎。こちらは音羽と違い、駆け回りながら確実に地の標的を射止めるほどの実力を持っていた。
さらに太郎佐と打ち合いの終わらない忠助に、投擲といえばこの男と謳われるらしい藤七という若い男。
そして彼らの下に揃う傭兵浪人たちもまた、それなりの実力を持った者たちばかりが集まったというのだから、心の底からクロは感心しきっていた。
「さすがだな、兵之輔。やはりお前の顔の広さは素晴らしいものがある」
「伊達に戦鬼と呼ばれておらんからな!」
兵之輔は確かに鬼の如き形相であるが、その豪快な笑いにはある種親しみやすさがあるのだった。
このほかに蘇芳の城から精鋭の正規兵二十人が寄こされたが、そちらの連中はさほどタマの意識には残らなかった。
それはあまりに統率の取れた動きがそう思わせてしまったのかも知れない。
こちらの二十人は大将であるクロが傘下に入ることとなり、かくして別動隊の編成は完了したのであった。
「あとは我々別動隊がどう動くか、だな」
タマの言葉に、クロは頷く。
「左様。あくまでこれだけの面々が集まっただけではただの徒党に過ぎません。相手方の動きに合わせて、実際にどれだけ柔軟に動くことができるかが肝になってくるでしょう。鴉衆はあくまで隠密部隊とのこと。ならばこちらも蘇芳満中同盟本隊とは離れ、確実に奴らの大将を討ち取りにいくのが良いのではないかと」
「あるいは、影密の首を――」
「タマ殿」
タマの言葉に、クロは首を横に振った。
「気を急いてはなりませぬ。まずは戦に勝つこと、相手方の動きを堰き止め、蘇芳を防衛することこそが、我々の優先任務です」
「……わかっている」
わかっている……だが。
タマは硬く拳を握り締める。
仇敵を討つことこそが、亡き両親や祖母、そしてあの業火に焼かれていった同胞たちの魂を沈める唯一の方法なのだとタマは心の底から思っていた。
恐らくそれはクロとて同じだろうことは解っている。
それでもタマは、この逸る気持ちだけはどうしても抑えることができなかったのだった。
「時を待つのです。その時は、必ずややってまいります」
「……あぁ。そうだな」
タマは、静かに深く頷いた。
その胸に、右手の拳を当てて、今は亡き祖国のことを思いながら。




