第6回
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光春はふたりの傭兵浪人の語る真相を疑うこともなかった。
今、目の前で平伏しながら事の次第を語った黒蕊義信には、遠い昔、確かに宗像からの使者として面識があったからだ。
あの頃も大柄な印象のお固い男だと思っていたが、獣憑きとなった今、彼の姿はあの頃よりも多少汚らしくなったものの、より強靭さが増したような気さえしたのだった。
「これでどうじゃ、亀井殿。女が我々の差し向けた者ではないこと、納得していただけたであろう」
暮華という小田原の間者に命を狙われた橘の亀井甚五郎は最初こそ「お前らの仕業か!」と騒ぎ立てていたが、今は大人しく獣憑きふたりの話を聞いて眉を潜めていた。
「……うむむ。小田原め、まさかそのようなことを企てていたとは」
その隣では、千石の宮迫仲正が疑わし気な視線をふたりの獣憑きに向けながら、
「しかし、こやつらの言うことを本当に信じてもよろしいのですかな? それこそ小田原の間者ということも……」
その瞬間、黒蕊の斜め後ろで彼と同じく跪きながら頭を下げていた女が急に顔を上げ、睨みつけるような恐ろしい視線を宮迫に向けてきた。
宮迫はその視線に怖気づいたのか、一度咳ばらいをしてから、
「――い、いや、確かに、そのようなことを小田原が行っても意味のないこと。そなたらが宗像の国の落人であることは重々承知した。亀井殿の命を救ったこと、儂からもお礼申し上げる」
黒蕊義信とタマと名乗る亡国・宗像の落人が獣憑きとなって我が蘇芳に傭兵浪人として雇い入れることができたことを光春は心から感謝していた。
もし彼らがここにいなければ、今頃は亀井の死によって同盟どころではなくなっていた可能性があるのだから。
そればかりではない。
まさか我が国との境近くにあのような山砦まで築いていたなどとは思いもしなかった。
やはり戦のときは刻一刻と差し迫っているということだ。
「しかし、これでわかったであろう」
そう口にしたのは満中の左近時宗だった。
「我々蘇芳、満中と、橘、上貫、千石の三国の同盟を小田原が警戒しているのは紛れもない事実。こうして暗殺まで企てている以上、もはや猶予はない。この話、乗ってくれるな?」
すると亀井、宮迫、そして上貫の上杉達保の三人は顔を見合わせ、深く頷いた。
「――そうだな」
「仕方あるまい」
「こうなってしまっては、急ぎ我が国の兵をこちらに向かわせねばなりますまい」
それぞれの言葉に、光春は左近と頷き合った。
雨降って地、固まる。
これで五国の同盟は決したのだ。
光春は跪いたままのふたりに再び顔を向け、
「黒蕊殿」
「はっ」
「確か、その方らはもとより別動隊として動くことになっておったようじゃな」
「そのように承っております」
「兵の数は?」
「五班四十人でございます」
「四十……」
別動隊にしては数が少なすぎる。差配したものは小田原にも獣憑きがいることを知らなかったとしか思えない。あるいは獣憑きの力を噂から過信しているのか……
「黒蕊殿」
「はっ」
「そなたには別動隊として一組八十人に、こちらから正規兵精鋭二十を足した百人の指揮をとってもらう」
「百人……」
「それでも少ないか?」
光春のその言葉に、しかし黒蕊はさらに深く首を垂れると、
「有難く拝命いたします!」
野太い声で、はっきりとそう答えた。
「――うむ。心より期待している」
光春も、それに対して深く頷いたのだった。




