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灰色猫と終末の犬  作者: ノムラユーリ(旧PN野村勇輔)
第3章

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第4回

 4


 暮華は周囲を炎に包まれながらも、いまだ灰色猫との打ち合いを続けていた。


 黄昏の鼠と呼ばれていた盗人時代。


 運悪く捕まって死罪を言い渡されたときに自分を拾ってくれた影密への恩義の為に、暮華はどうしても退くことができなかった。


 ここでこの灰色猫を斬り殺し、必ず影密様のお役に立って見せる!


 暮華のなかはそんな思いであふれていた。


 この炎に巻き込まれて自らの命を落とす前に、なんとしてでも決着を付けなければ!


 暮華は右に左に細やかな動きを以てして灰色猫の狙いを翻弄させ、風の如くその首筋に刀を振り払った。


 瞬間、猫が後ろに飛び退り、暮華の刃は虚しく空を掻く。


「ちっ!」

 思わず舌打ちし、再び地を蹴って灰色猫の胸に飛び込んでいく暮華。


 もちろん、真正面から戦うつもりなど毛頭ない。


 相手は猫の獣憑き、こちらは鼠の獣憑き。


 すでに狩られる側という立場から内なる獣は終始怯えて逃げることを望んでいたが、主君のためにそんな恥ずかしいことなどできるわけもなかった。


 窮鼠猫を噛む。


 なんとしてでも、ここであの灰色猫に一矢報いねばならないのだ。


 暮華は灰色猫に向かって一気に駆けだす。


 そのまま彼女の真正面に突っ込む寸前、すぐ脇に抜けて背後に回った。


「――っ!」

 灰色猫が一瞬、息を呑むのが聞こえた。


 そのわき腹を刀で掻き斬ろうと刃を振ったが、その切っ先はわずかに衣服と肌を裂き、赤い血をにじませただけだった。


 それでも構わずいま一度刀を振り、灰色猫の薙いだ双刀をぎりぎりのところで避け、下から上に向かって刀を振るう。


 灰色猫はそれをくるりと後方に回転しながら見事に避け、左手にしていた刀を暮華に向かって勢いよく投げてきた。


 寸でのところでそれを避け、暮華は燃え盛る壁を蹴って灰色猫の隙を突くように襲い掛かる。


 しかし、またしても灰色猫は暮華の渾身の一撃を避けきり、木戸に突き立った刀まで駆けていくと、それを一瞬にして引き抜いた。


 そしてその勢いで木戸を蹴って、暮華に向かって突っ込んできた。


 真正面から見据えられて、何度も打ち込まれる刃をなんとか食い止めた。


 そのたびに甲高い音が辺りに響き渡り、激しい火花が散った。


 燃え続け炭化していく柱がぐらぐらと揺れ始めて、主殿がそろそろもたないことを告げていた。


 このままでは灰色猫もろとも炎の中で焼け死んでしまう。


 何とか一気に叩き斬って、灰色猫を亡き者にしなければならない。


 そうでなければ、自分を救ってくれた影密様に顔向けできない!


 暮華は一度後ろに下がり、頭の上から落ちてきた燃え続ける天井板を蹴り上げると、灰色猫に向けて飛ばした。


 灰色猫がそれを避けようとした瞬間に彼女の懐に入り込み、その腹部に切っ先を向けた。


 瞬間、灰色猫の刀が暮華の胸をざっと斬り裂く。


 赤い血が辺りに散り、胸元が露わになっても。それでも暮華はその勢いを止めることはなかった。


 そのまま灰色猫の胸倉に切っ先を突き立てようと刀を振り上げて――


 それは、瞬く間のことだった。


 そこに灰色猫の姿はすでになく、その気配はいつの間にか暮華の背後にあったのだ。


 ハッと息を呑んだその瞬間、暮華は冷たい何かを首に感じた。


 不意に身体の重さが無くなり、視線が揺らぐ。


 がつん、と硬い感触が暮華の頭を襲い、血まみれ顔の灰色猫の姿が目に入った。


 あれは――違う。


 灰色猫の血じゃない。


 これは、私の――……


 それきり、彼女の視界にはもう、何も映ることはなかったのだった。

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