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灰色猫と終末の犬  作者: ノムラユーリ(旧PN野村勇輔)
第3章

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第2回

   2


 ふたりは静かに厩の角まで進むと、一度その向こう側の様子を窺った。


 なるべく早めに権之助たちの行方を探らなければ、タマとクロが始末した兵士たちに気付いて騒ぎとなることだろう。


 そうなる前に、権之助やあの女を始末してしまいたかった。


 今現在の砦の寝ずの番はさほど多くはないらしく、それはあまりに好都合だった。


 実は権之助の策によってここまでおびき寄せられたのではと一瞬疑ったが、しかしそれにしても防衛が甘い。


 厩の角を曲がった先には、先ほどと同じ姿をした見回りの兵士があくびをしながら、こちらに背中を向け、ざくざくと足音を立てながら歩いている。


 タマはそれを見て一気に駆けだし、音もなく男の背後に近づくと、慣れた手つきで二振りの刀を抜刀し、それを鋏の要領で兵士の首の左右に差し込み、一気に十字に斬り裂いた。



 ――ごろり



 兵士の首が血しぶきをあげて吹き飛び、残された身体が力なく地面に崩れ落ちる。


 タマはもう一度辺りを見回し、他に兵がいないことを確認してからクロに手招きした。


 厩の向こう側にはひと際大きな主殿(しゅでん)と思しき建物があり、その木戸の隙間から、わずかながら光と声が漏れている。


 この声は――権之助か。他にも女と思しき声の言い争うような声、それを一喝する何者かの声が聞こえてきた。


 タマとクロは身を屈め影に潜みながら、その主殿に向かって歩みを進めた。


 主殿の周りには四人ほどの兵士が守りを固めており、まずはあの四人を始末する必要がありそうだった。


 一瞬、クロが動きそうになるのを片手で制して、タマは手で「私が行く」と軽く告げる。


 こんなところでクロが動けば、すぐに騒ぎになってしまうことだろう。


 いくら獣憑きといえど、クロにタマほどの俊敏さはない。


 ゆえにクロもこれに同意し、タマひとりで一気に片を付けることとなった。


 四人の兵士は等間隔にじっと闇の中に立っており、微動だにすることなく槍を構えて侵入者を警戒している。


 まずはひとりめ。


 タマは遠巻きに足音を忍ばせて、右端に立つ兵士に近づくと、その喉元を刀で一突きして見せる。


「んぐっ」


 小さな呻き声が聞こえたのだろう、その隣に立つ男がこちらに顔を向けてきたのをタマは見逃さない。


 もう片方の手に握っていた刀を一気にその男の首筋に向かって投げつける。


 切っ先は逸れることなくふたりめの兵士の首を貫いた。


 瞬間、またその隣に立っていたさんにんめとよにんめが事態に気付き、声を発して駆け出すのを、タマは素早く動き、始末したひとりめとふたりめの喉元から二振りの刀を引き抜くと、目にも止まらぬ早さで突き付けられた槍の先を斬り落とした。


 その勢いで、さんにんめの首を一気に刎ねる。


 続けてよにんめを――と思ったときには、そこにはすでに骸と化した兵士の身体がバラバラになって転がっていただけだった。


 見れば、置いてきたはずのクロが刀を担ぎ、にんまりと闇の中でその白い歯をのぞかせていた。


 俺にも活躍の場を寄こせ、とでも言いたげな顔だった。


 タマもほくそ笑み、ふたりは主殿に顔を向ける。


 四人の兵士を――門番や見回りを含めれば十人もの兵士を始末してもなお、主殿の中の人物たちはタマやクロの侵入には気づいていないようだ。

 声の様子では恐らくさんにん。


 いま一度周囲の臭いを嗅ぎ、間違いなくあの獣憑きの女と権之助、そしてもうひとり――どうやらこちらも獣憑きらしい匂いがする――の存在を確かめた。


 こちらはふたり、あちらはさんにん。


 力の差は判らないが、残りの兵士たちに見つかる前に片を付けることができれば。


 その時だった。


「……どうやら、猫と犬がここまでうまいこと入り込んできたみたいですぜ」

 主殿の中から、権之助の静かな声が聞こえてきた。


 瞬間、タマとクロは木戸を力いっぱいに引き、中に飛び込み刀を構える。


 そこにはあの間者の女と権之助に守られるように、黒い着物に身を包んだ、ひとりの若い男の姿があった。


 その姿を目にして、タマは一瞬目を見開く。


 そこに立っていたのは、かつてともに遊んだ隣国の男の子の成長した姿。


 すっかり背も高くなり逞しくなっていたが、確かにその顔にはあの頃の面影がしっかりあった。


 あの、満面の笑みを浮かべていた男の子の顔は、しかし今は険しい顔でこちらをじっと睨みつけている。


 タマはそんな男に動揺しつつ、心のなかでは怒りの炎が燃え盛っていた。


「貴様――!」


 そんなタマに、男も驚いたような表情で、

「まさか、綺羅……なのか?」


 かつてのタマの名前を、口にしたのだった。

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