第九話 「生徒会長」
翌日。
昼休み。
五条真昼は、一人で廊下を歩いていた。
理由は簡単。
逃げていた。
女子達から。
「月夜様ー!」
「一緒にお昼どうですかー!?」
「お弁当作ってきました!」
怖い。
何故こんなにも距離が近いのか。
真昼には未だ理解できない。
「……戦場の方が落ち着きますわ」
小さく呟いた、その時。
「随分人気なのね」
凛とした声。
真昼が視線を向ける。
廊下の窓際。
腕を組んで立っていたのは、桐生院赤城だった。
赤い髪。
鋭い瞳。
生徒会長としての圧倒的存在感。
周囲の空気が自然と張り詰める。
真昼は静かに一礼した。
「ごきげんよう、生徒会長」
「桐生院でいいわ」
「そういう訳にはいきませんわ」
赤城は少しだけ目を細める。
「真面目なのね」
「当然です」
「ふぅん」
赤城は真昼を観察するように見つめていた。
真昼もまた、静かに見返す。
互いに一歩も引かない。
奇妙な空気だった。
やがて赤城が口を開く。
「貴女、武道経験あるでしょ」
真昼の目が僅かに細まる。
「……何故そう思いますの?」
「立ち方」
赤城は即答した。
「隙が無い」
「普通のお嬢様じゃないわ」
真昼は少しだけ沈黙する。
鋭い。
この女は勘が良すぎる。
すると赤城は、ふっと笑った。
「安心しなさい。別に詮索する気はないわ」
「……そうですか」
「ただ」
赤城は真昼へ一歩近づく。
「貴女みたいな人、嫌いじゃない」
距離が近い。
真昼は少しだけ眉を寄せた。
赤城はそれを見て面白そうに笑う。
「なに、その顔」
「近いですわ」
「あら、照れてる?」
「違います」
即答。
だが赤城は完全に楽しんでいた。
「ふふっ」
その時だった。
廊下の向こうから女子生徒達がやってくる。
「あっ、生徒会長!」
「月夜様もいる!」
真昼の顔が真顔になった。
囲まれる未来を察知した顔だった。
赤城は吹き出す。
「貴女、案外分かりやすいのね」
「……何のことでしょう」
「逃げたいって顔してる」
図星だった。
赤城はくすくす笑いながら真昼の手首を掴む。
「来なさい」
「……は?」
「生徒会室なら静かよ」
真昼は一瞬固まる。
女子に手を引かれる。
その状況に慣れていない。
周囲の女子達から悲鳴が上がった。
「えっ!?」
「生徒会長が月夜様連れてった!?」
「なにあれ強い!」
真昼は騒がしい背後を見ながら、小さく呟く。
「……本当に理解できませんわ」
すると前を歩く赤城が、少しだけ笑った。
「そのうち分かるわよ」
真昼は気付かなかった。
掴まれた手首を。
自分が振り払わなかったことに。




