第七十話 「約束」
事件から二日後。
佐倉家。
広い和室には静かな空気が流れていた。
上座には佐倉家当主。
その隣には紫雲。
向かいには五条真人と真昼が座っている。
今回の誘拐事件について、一通りの話は終わっていた。
佐倉家当主は静かに頭を下げる。
「月夜さん。」
「娘を助けていただき、本当にありがとうございました。」
真昼も深く頭を下げる。
「当然のことをしたまでです。」
「その当然が出来る方ばかりではありません。」
佐倉家当主は優しく微笑んだ。
そして真人へ向き直る。
「五条会会長。」
「以前からお話していた件ですが……。」
真人は静かに頷く。
「異論はない。」
その一言だった。
佐倉家当主は真昼を見る。
「月夜さん。」
「はい。」
「改めて、娘・紫雲をよろしくお願いいたします。」
部屋が静まり返る。
紫雲は少し緊張した面持ちで真昼を見つめる。
真昼は一礼した。
「はい。」
「必ず、お守りします。」
その真っ直ぐな返事に。
紫雲は嬉しそうに微笑んだ。
佐倉家当主も安心したように頷く。
「これで正式に、お二人は婚約者ですね。」
その言葉に紫雲の頬が赤く染まる。
「よろしくお願いします……真昼さん。」
真昼は静かに頷いた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
真人はその様子を見ながら、小さく笑みを浮かべる。
「話はまとまったな。」
「ええ。」
佐倉家当主も頷く。
二人は立ち上がり、固く握手を交わした。
これで。
五条家と佐倉家。
そして。
真昼と紫雲の婚約は正式なものとなった。
⸻
その帰り道。
夕暮れの街を真昼と紫雲が並んで歩く。
しばらく沈黙が続いた。
やがて紫雲が口を開く。
「真昼さん。」
「何でしょうか。」
「改めて……助けに来てくださって、本当にありがとうございました。」
真昼は前を向いたまま答える。
「約束しましたから。」
「約束?」
「貴女を必ず守ると。」
紫雲は目を丸くした。
真昼は照れる様子もなく続ける。
「婚約者になった以上、それは私の責任です。」
紫雲は思わず笑ってしまう。
「責任、ですか。」
「はい。」
「ふふっ。」
そのあまりにも真昼らしい答えに、紫雲は自然と笑みを浮かべた。
「でも。」
紫雲は真昼の隣へ一歩近付く。
「私は責任だけじゃなくて……。」
そこまで言って、恥ずかしくなり口をつぐむ。
「?」
真昼は不思議そうに首を傾げた。
「いえ、何でもありません。」
紫雲は頬を赤く染めながら微笑む。
夕日が二人の背中を優しく照らしていた。
第一章の大きな事件は終わった。
だが。
真昼たちの日常は、まだ続いていく。




