第六十四話 「漢江会本部」
夜。
漢江会本部。
巨大なビルの前で車が止まる。
真昼は静かに降りた。
目の前には高層ビル。
その周囲には黒服の男達が立っている。
誰もが武器を持っていた。
漢江会の構成員達だ。
その数。
数十人。
いや。
中にもいることを考えれば百は超えるだろう。
普通の人間なら近付くだけで震える。
だが。
真昼は何も感じていなかった。
車のドアを閉める。
そして歩き出す。
男達がざわつく。
「あいつ……」
「まさか」
「五条の……」
知っている者もいた。
知らない者もいた。
だが。
その異様な気配だけは全員が感じ取っていた。
真昼は立ち止まる。
そして。
静かに口を開いた。
「佐倉紫雲を返してください」
声は穏やかだった。
まるで話し合いに来たように。
だが。
誰も笑わない。
空気が重い。
数秒後。
男の一人が前へ出た。
「帰れ」
短い言葉。
真昼は頷いた。
「そうですか」
そして。
腰へ手を添える。
赤い刀。
鞘から少しだけ刀身が覗く。
月明かりを反射した。
「なら」
カチリ。
刀が抜かれる。
その瞬間。
空気が変わった。
「通ります」
次の瞬間だった。
真昼の姿が消える。
男達の目が見開かれる。
速い。
いや。
速過ぎる。
斬撃。
一閃。
前にいた男が崩れ落ちた。
続いて二人。
三人。
四人。
悲鳴すら上がらない。
「なっ――」
男が武器を構える。
だが遅い。
赤い軌跡が走る。
男が倒れる。
また一人。
また一人。
黒服達が次々と地面へ沈んでいく。
圧倒的だった。
戦いですらない。
蹂躙。
ただそれだけ。
「撃て!」
誰かが叫ぶ。
銃声。
夜に響く。
だが。
当たらない。
真昼は前へ進む。
避ける。
斬る。
進む。
斬る。
まるで死神だった。
数分後。
入口前。
立っているのは真昼だけだった。
周囲には倒れた男達。
血の匂い。
静寂。
真昼は刀を軽く払う。
そして。
ビルを見上げた。
「待っていてください」
紫雲へ向けた言葉。
そのまま中へ入る。
一方。
最上階。
一輝はモニターを見ていた。
映っているのは監視カメラ映像。
真昼。
そして倒れていく部下達。
一輝は笑う。
「やっぱり来たか」
嬉しそうだった。
本当に。
心から。
「最高だ」
部下達は何も言えない。
若頭が喜んでいる理由が分からない。
だが。
一輝だけは知っていた。
これは紫雲のためではない。
漢江会のためでもない。
全て。
真昼のため。
ずっと待ち続けた再会だった。
「上がってこい」
一輝は呟く。
「五条真昼」
その名を呼ぶ声は。
まるで恋人を待つようだった。
そして。
真昼は静かにエレベーターへ乗り込む。
目的地は一つ。
最上階。
桐生院一輝の元だった。




