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第六十二話 「五条の毘沙門天」

職員室を出た真昼は無言だった。


廊下を歩く。


足音だけが響く。


教師達も何も言えない。


普段の月夜真昼ならまだ良かった。


今の真昼は違う。


静か過ぎた。


その頃。


乃亜達も連絡を受けていた。


「嘘でしょ……」


乃亜の顔から血の気が引く。


「紫雲が……誘拐……?」


茜も言葉を失っていた。


赤城は拳を握る。


嫌な予感は当たっていた。


「兄……」


小さく呟く。


もし本当に一輝なら。


目的は一つしかない。


真昼だ。


学院の正門。


真昼が外へ出ようとした時だった。


「真昼!」


乃亜が走ってくる。


赤城と茜もいる。


「どこ行くの!?」


「迎えに行きます」


真昼は淡々と答える。


「一人で!?」


「はい」


「駄目!」


乃亜が叫ぶ。


「相手が誰か分かんないんだよ!?」


真昼は少しだけ乃亜を見る。


そして。


「分かっています」


静かに言った。


「だから行くんです」


乃亜は言葉を失う。


真昼の目を見たからだ。


怒っていた。


今まで見たことがないほど。


だが表情には出ていない。


ただ。


目だけが冷たい。


「真昼……」


「乃亜」


真昼が言う。


「これは私の問題です」


「違う!」


乃亜が叫ぶ。


「仲間でしょ!」


真昼は黙った。


その言葉に。


少しだけ目を伏せる。


だが。


首を横に振った。


「それでも」


そして歩き出そうとする。


その時。


「待ちなさい」


赤城だった。


真昼が足を止める。


赤城は真っ直ぐ真昼を見る。


「相手が兄なら」


その言葉で空気が変わる。


「兄?」


乃亜が振り向く。


赤城は頷いた。


「桐生院一輝」


真昼の目が細くなる。


その名前は知っている。


漢江会若頭。


そして赤城の兄。


「私も行くわ」


赤城が言う。


「会長」


「止める義務がある」


真昼は少し考えた。


だが。


首を横に振る。


「必要ありません」


「月夜さん」


「これは私が終わらせます」


その声に迷いはなかった。


赤城は拳を握る。


だが。


何も言えなかった。


真昼はもう決めている。


誰にも止められない。


その頃。


漢江会本部。


最上階。


豪華な部屋。


紫雲は椅子に座らされていた。


手足は拘束されていない。


だが逃げられない。


周囲には男達がいる。


その前。


ソファに座る男。


桐生院一輝。


「怖いか?」


紫雲は睨む。


「最低ですね」


一輝は笑った。


「そうかもな」


まるで気にしていない。


そして窓の外を見る。


夜景が広がっていた。


「でも来る」


一輝は確信していた。


「真昼は必ず来る」


その声には喜びすら混じっている。


「貴方は狂っています」


紫雲が言う。


一輝は笑う。


否定しない。


むしろ誇らしげだった。


「知ってる」


そして立ち上がる。


窓際へ歩く。


「ずっと待ってたんだ」


小さく呟く。


「お前と殺し合う日をな」


夜風が窓を揺らす。


その瞳に映るのは夜景ではない。


ただ一人。


五条真昼だけだった。


そして。


学院を出た真昼は携帯を取り出す。


一つの番号へ電話を掛ける。


数秒後。


繋がった。


『……真昼か』


低い男の声。


五条真人。


父だった。


「父上」


『何があった』


真昼は短く答える。


「紫雲が攫われました」


沈黙。


電話の向こうから気配が消える。


そして。


『誰だ』


「漢江会です」


再び沈黙。


数秒後。


真人が口を開く。


『好きにしろ』


それだけだった。


止める気はない。


叱る気もない。


『ただし』


真人の声が低くなる。


『死ぬな』


真昼は目を閉じる。


「はい」


電話が切れた。


夜空を見上げる。


そして。


静かに歩き出した。


紫雲を取り戻すために。


全てを終わらせるために。

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