第五十八話 「帰り道」
球技大会の翌日。
放課後。
「優勝したし打ち上げしない?」
教室でそんな声が上がった。
「いいね!」
「やろやろ!」
生徒達が盛り上がる。
三年B組は総合優勝。
当然気分も良い。
「月夜さんも来るよね?」
クラスメイトが聞く。
真昼は少し考えた。
「行きます」
「珍しい!」
思わず声が上がる。
真昼は首を傾げた。
「そうでしょうか」
「そうだよ」
普段の真昼はこういう集まりにあまり積極的ではない。
だからこそ皆驚いた。
「じゃあ決まり!」
話はあっという間にまとまった。
そして。
数十分後。
ファミレス。
三年B組の生徒達が集まっていた。
乃亜はジュースを飲みながら笑う。
「いやー優勝最高!」
「乃亜先輩大活躍でしたもんね」
後輩達も盛り上がる。
「でしょー?」
得意げだった。
その隣。
真昼は静かにパフェを食べていた。
「月夜さん甘いもの好きなんだ」
クラスメイトが言う。
「嫌いではありません」
「可愛い」
「?」
意味が分からなかった。
真昼は首を傾げる。
周囲は笑った。
その様子を。
紫雲は少し離れた席から見ていた。
自然に皆の輪の中へ入っている。
以前なら考えられなかった。
真昼は昔から人付き合いが苦手だった。
だから。
少し嬉しかった。
打ち上げが終わる頃には夕方になっていた。
帰り道。
駅へ向かう人。
寮へ帰る人。
それぞれ別れていく。
「じゃあまた明日ー!」
乃亜が手を振る。
「またねー!」
生徒達も応える。
やがて。
残ったのは真昼と紫雲だけだった。
帰る方向が途中まで同じなのだ。
「今日は楽しかったですね」
紫雲が言う。
「そうですね」
真昼も頷く。
しばらく二人で歩く。
沈黙。
だが不思議と気まずくはなかった。
風が吹く。
夕日が街を赤く染めていた。
「月夜さん」
「何ですか」
「卒業したらどうするんですか?」
真昼は少し考えた。
そして。
「父の手伝いでしょうか」
そう答える。
五条会。
次期会長。
それが真昼の立場だ。
避けては通れない。
紫雲は少しだけ表情を曇らせた。
真昼は気付かない。
「紫雲は?」
「私ですか?」
「はい」
紫雲は少し笑う。
「まだ分かりません」
それは本音だった。
家。
将来。
婚約。
色々なものがある。
簡単には決められない。
「そうですか」
真昼はそれ以上聞かなかった。
夕暮れ。
二人は歩き続ける。
その頃。
天女学院から少し離れた場所。
黒い車が停まっていた。
運転席の男が後ろを見る。
「本当にいいんですか?」
後部座席。
桐生院一輝は窓の外を眺めていた。
「ああ」
短く答える。
その視線の先。
夕日の中を歩く二人の姿。
真昼。
そして紫雲。
一輝は小さく笑った。
「もう少しだ」
誰にも聞こえない声だった。
だがその瞳には。
確かな狂気が宿っていた。




