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第五十七話 「球技大会」

球技大会当日。


朝。


天女学院はいつも以上に賑わっていた。


校内の至る所で生徒達の声が響く。


今日は年に一度の球技大会。


学年やクラスの威信をかけた戦いの日である。


「よーし!」


教室。


柊乃亜が元気よく立ち上がる。


「優勝目指すよ!」


「おー!」


クラスメイト達も盛り上がる。


運動行事となれば乃亜の独壇場だった。


一方。


真昼は席で競技表を見ていた。


「月夜さんも頑張ってね」


クラスメイトが声を掛ける。


「はい」


いつも通りの返事。


やる気があるのかないのか分からない。


だが真昼は真面目だ。


任されたことはきっちりやる。


体育館。


最初の種目はバレーボール。


真昼と乃亜は同じチームだった。


「真昼!」


「何ですか」


「思いっきりやっていいからね!」


「分かりました」


試合開始。


相手のサーブ。


ボールが飛んでくる。


真昼が前へ出る。


綺麗なレシーブ。


ボールが高く上がった。


「ナイス!」


クラスメイト達が声を上げる。


続いて乃亜。


軽やかに飛び上がる。


ドン!


鋭いスパイク。


一点。


歓声が上がった。


「よしっ!」


乃亜が笑う。


その後も試合は続く。


相手の強打。


真昼は自然に体を動かした。


避ける。


受ける。


繋ぐ。


本人にとっては普通だった。


だが周囲からすれば違う。


「月夜さん反応速くない!?」


「何あれ!?」


当然だった。


真昼は幼い頃から修羅場を生きている。


飛んでくる物への反応速度は常人ではない。


もっとも本人はそんなことを説明しないが。


結果。


第一試合。


圧勝。


昼休み。


中庭。


真昼はベンチへ座っていた。


スポーツドリンクを飲んでいる。


そこへ。


「お疲れ様です」


紫雲がやって来た。


「紫雲」


「見ていましたよ」


紫雲は微笑む。


「格好良かったです」


「そうでしょうか」


「はい」


真昼は少し考える。


そして。


「ありがとうございます」


そう答えた。


紫雲は嬉しそうに笑った。


「月夜さんは何でも出来ますね」


「そんなことはありません」


「ありますよ」


即答だった。


真昼は困ったように視線を逸らす。


紫雲はそんな様子を見て小さく笑った。


穏やかな時間だった。


午後。


第二種目。


ドッジボール。


「これ得意なんだよねー」


乃亜が肩を回す。


真昼は少し考えた。


「避ければいいのですよね」


「そうなんだけど」


試合開始。


開始早々。


真昼へボールが飛ぶ。


真昼は半歩だけ動いた。


それだけで回避。


また飛ぶ。


避ける。


また飛ぶ。


避ける。


「当たらないんだけど!?」


相手チームから悲鳴が上がる。


観客席から笑い声。


乃亜は思わず吹き出した。


「何それ!」


「避けただけです」


「そういう問題じゃないから!」


結局。


相手は真昼を諦めて他の生徒を狙い始めた。


その隙に乃亜が当てる。


当てる。


また当てる。


結果。


こちらも勝利。


球技大会終了。


閉会式。


三年B組は総合優勝だった。


歓声が上がる。


乃亜は大喜びしていた。


「やったー!」


クラスメイト達も盛り上がる。


真昼は拍手していた。


「嬉しくないの?」


乃亜が聞く。


「嬉しいですよ」


そう言う割には表情が薄い。


だが付き合いの長い乃亜には分かる。


少しだけ嬉しそうだった。


「なら良し!」


乃亜は笑った。


放課後。


校門へ向かう生徒達。


球技大会の話で盛り上がっている。


その様子を。


校門の外から見ている男がいた。


黒塗りの車。


後部座席。


桐生院一輝。


彼は静かに学院を眺めていた。


そして。


生徒達の中にいる真昼を見つける。


小さく笑う。


「楽しそうだな」


その言葉に感情は読めない。


だが。


視線だけは真昼から離れなかった。


何を考えているのか。


それはまだ誰も知らない。

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