第五十四話 「休日」
休日。
駅前。
柊乃亜は改札の前で待っていた。
スマホで時間を確認する。
待ち合わせまであと少し。
「真昼ならもう来てそうだけどなぁ」
そう呟いた時だった。
「乃亜」
聞き慣れた声。
振り向く。
そこには青い着物姿の真昼がいた。
和風ボブの黒髪。
白い肌。
蒼い瞳。
休日だというのに相変わらず目を引く。
学院にいる時も綺麗だと思うが、私服だと余計だった。
「おー、来た来た」
乃亜は手を振る。
真昼は軽く会釈した。
そして首を傾げる。
「何ですか」
「いや?」
乃亜は少し笑った。
「ほんと綺麗だなーって思って」
「そうでしょうか」
「そうだよ」
即答だった。
本人は分かっていない。
昔からそうだ。
「行きましょうか」
「うん」
二人は歩き出した。
今日の目的は買い物。
真昼が使う画材や日用品の補充だ。
「そういえば絵は描いてるの?」
「描いています」
「茜ちゃんと一緒に?」
「たまにですね」
「へぇ」
真昼が誰かと趣味の話をするようになったのは良いことだと思う。
昔はもっと一人だった。
少なくとも乃亜にはそう見えていた。
商店街へ入る。
休日ということもあり人通りは多い。
歩いていると周囲から視線が集まる。
原因は明らかだった。
「見て」
「着物の人すごく綺麗」
「モデルさんかな?」
そんな声が聞こえてくる。
乃亜は苦笑した。
一方。
真昼は気付いていない。
「次はこちらですね」
買い物メモを見ていた。
「聞こえてる?」
「何がですか」
「ううん、何でもない」
やっぱり気付いていなかった。
昔からこういうところは変わらない。
買い物を終える頃には昼になっていた。
「お腹空いたー」
「そうですね」
「何か食べようよ」
「構いません」
近くの喫茶店へ入る。
窓際の席。
注文を済ませる。
料理が運ばれてくるまでの間、二人で話していた。
「そういえば最近どう?」
「どう、とは?」
「学院生活」
「平和ですね」
真昼は真顔で答えた。
乃亜は思わず吹き出す。
「何それ」
「事実です」
「まぁ真昼らしいけど」
平和。
確かにそうなのかもしれない。
少なくとも今は。
料理が運ばれてくる。
二人で食べながら話す。
本当に何でもない話ばかりだ。
学院のこと。
寮のこと。
茜のこと。
紫雲のこと。
そんな時間が何となく心地良かった。
食事を終え。
店を出る。
帰り道。
真昼がふと口を開いた。
「ありがとうございます」
「ん?」
「付き合ってくれて」
乃亜は少し驚いた。
真昼からそういう言葉が出るのは珍しい。
「今更じゃん」
「そうでしょうか」
「昔から一緒に買い物してるし」
「確かに」
真昼は納得したように頷いた。
その様子がおかしくて。
乃亜は笑った。
本当に変わらない。
昔からずっと。
それなのに。
最近少しだけ変だ。
理由は分からない。
でもまぁ。
「いっか」
考えても分からないし。
乃亜はそう思いながら、隣を歩く幼なじみを見た。
真昼はそんな視線にも気付かず、いつも通り前を向いて歩いていた。




