第五十一話 「変化」
翌朝。
天女学院。
真昼が教室へ入ると。
珍しく乃亜が机に突っ伏していた。
「どうしましたの」
「眠い……」
「寝不足ですか」
「誰かさんのせいでな」
乃亜が恨めしそうな目を向ける。
真昼は首を傾げた。
「私ですの?」
「昨日の話で盛り上がったんだよ!」
どうやら婚約者騒動の話らしい。
真昼は興味を失った。
席へ座る。
すると。
隣から小さな声。
「おはようございます」
紫雲だった。
「おはようございます」
真昼も返す。
それだけ。
それだけなのに。
紫雲は少し嬉しそうだった。
乃亜がそれを見てため息を吐く。
「重症だなぁ」
「何がですの」
「何でもない」
説明しても無駄だった。
ホームルーム。
授業。
昼休み。
普段と変わらない。
だが。
真昼は気付いていた。
紫雲が時々考え込んでいることに。
婚約の件だろう。
それくらいは分かる。
放課後。
教室にはまだ何人か残っていた。
真昼は鞄をまとめる。
その時。
「真昼さん」
紫雲が声を掛けた。
「何ですの」
「少し付き合っていただけますか?」
珍しい。
紫雲から誘うことは多い。
だが。
今日の声はどこか真剣だった。
「構いませんわ」
二人は校舎を出る。
向かった先は。
学院近くの小さな公園だった。
ベンチに座る。
夕日が差し込む。
しばらく沈黙。
先に口を開いたのは紫雲だった。
「私」
言葉を探す。
そして。
「少し変わりたいんです」
真昼は黙って聞いていた。
「今までは何でも我慢してきました」
「家のため」
「親のため」
「そう思っていましたから」
紫雲は空を見る。
どこか吹っ切れたような顔だった。
「でも」
真昼を見る。
「真昼さんに言われて考えたんです」
嫌なら嫌と言えばいい。
その言葉を。
何度も思い出した。
真昼は少し考える。
そして。
「それで良いのではありませんか」
答えた。
当たり前のように。
紫雲は笑った。
「本当に真昼さんらしいですね」
「そうですの?」
「はい」
二人は笑う。
穏やかな時間だった。
その時。
遠くから子供達の声が聞こえる。
公園で遊んでいるらしい。
平和だった。
だが。
その平和を見つめる人物がいた。
少し離れた場所。
停車した黒塗りの車。
窓が僅かに開く。
「坊ちゃん」
部下が声を掛ける。
「何だ」
「また見てるんですか」
一輝は答えない。
ただ。
公園のベンチを見る。
並んで座る二人。
笑う紫雲。
その隣にいる真昼。
数秒。
そして。
「帰るぞ」
窓を閉めた。
だが。
その横顔は。
少しだけ機嫌が悪そうだった。




